記念写真

目の前にはカメラを構えた中年の女が立っていた。満面の笑みを浮かべながらこちらを見ている。

「笑ってー。ほら笑ってー」

そう言いながらカメラを向けてくる。

そうか、記念撮影をしているのか。

私の隣に4人も人がいることに気づいて、この人たちと写真を撮ろうとしているんだなと分かる。この人たちは家族だろうか、友人だろうか。そんなことを考えながら隣にいる人たちの顔を見る。

しかし、その人たちは全く知らない人たちだった。全く知らない中年の男と女が2人ずつ立っている。

「笑ってー。ほら笑ってー」

カメラを構えている女が相変わらずそう言っている。しかしこの状況がひどく不気味に感じて、笑おうと思ってもなかなか笑うことができなかった。その間もずっと「笑ってー」と言い続けていた。

結局笑えないまま時間が経ち、困っていると突然周りにいる4人の男と女がこちらを向いた。

「嬉しいねぇ。嬉しいねぇ」

全員が満面の笑みでそう言ってくる。

前からは「笑ってー。ほら笑ってー」と言われ続け、横からは「嬉しいねぇ。嬉しいねぇ」と言われ続ける。気味が悪く早くこの撮影を終わらせたいという気持ちになり、さっさと笑って終わらせようと考えて無理やり笑顔を作った。

その瞬間、全員が突然大きな拍手をし始める。

パチパチパチパチパチパチパチパチ。

拍手の音がいつまでも響いていた。


そこで目が覚めた。

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