day27 鉱物(きらら☆絵日記)

 その日はミヤコ屋が休みで、朝恵ともえは両親に少し遠方のキャンプ場へと連れて来てもらっていた。

 キャンプ場には澄んだ小川もあり、自然も多く、遊ぶ場所には事欠かない。


 両親がテントを張っている間、朝恵はたくさん落ちている石で遊んでいた。石を積んでお城を作ったり、綺麗な石を集めたり。


 このキャンプ場には、綺麗な石がたくさんあった。家に少し、この綺麗な石を持って帰ろう――どの石を持って帰ろうかと、吟味していたときだった。中の石の一つを落としてしまったのは。石は落ちて他の石に当たると、あっけなく割れてしまう。


 持って帰る候補にしていた綺麗な石を落として、少ししょげた朝恵だったが――その石の割れた断面を見て、目を丸くした。――石がきらきらと、白く光っているのだ。


「あ……きれい……」


 まさか中に、こんなに綺麗な色が隠れているとは想像もしなかった。持って帰るのはこの石にしよう――朝恵は石を両手で持つと、両親の元に戻った。


「お、戻ってきたか、朝恵。テントも出来たぞ」

「あのね、おとうさん。わたし、きらきらの石を見つけたの」


 朝恵が石を見せると、父は興味深げに覗き込んだ。


「これは綺麗だな。どこで見つけたんだ?」

「すぐそこだよ。――おとうさん。このきらきらはなにかわかる?」

「うーん……父さんはわからないな」


 ごめんな、と父は朝恵に向かって手を合わせた。


「おかあさんは、わかる?」

「私もわからないわ。ごめんなさいね、朝恵」


 母も首を横に振っている。これが何かは、わからないようだ。


 このきらきらには、絶対何かあるはずだ。こんなに綺麗なのだから、何も無いわけがない。

 ――帰ったら、お兄ちゃんに聞いてみよう。きっとお兄ちゃんなら、これが何かわかるはずだ。

 リュックに石をしまい込みながら、朝恵は真雅しんがのことを思い浮かべていた。





 キャンプはとても楽しく終わり、また日常が戻ってきた。


 大切にしている小箱に持って帰ってきたきらきらの石を入れて、朝恵はミヤコ屋にやって来ていた。朝のうちは宿題をして過ごし、昼からが朝恵の自由時間である。自由時間になったら真雅を訪ねて行って、石について質問してみようというのが、今日の朝恵の計画だった。


 昼ご飯を食べて、少し本を読んだりしてから、朝恵は小箱を持って真雅の元を訪ねる。

 裏のインターホンを押すと、すぐに真雅は出てきてくれた。


「こんにちは、おにいちゃん。いま、わたしがおはなししてもだいじょうぶ?」

「大丈夫だぜ。ここは暑いから、中に入ってくれ」


 いつもの掛軸のかかった部屋に通してもらって、朝恵はきちんと正座して座る。


「そんなにきっちり座らなくてもいいぞ、朝恵ちゃん。――まあ、これでも飲んでくれ」


 真雅が出してくれたよく冷えた冷茶を口にしてから、朝恵は本題に入った。


「あのね、おにいちゃん。これを見てほしいの。きのういったキャンプでね、きらきらの石をひろったの。おにいちゃんは、この石がなにか、わかる? おとうさんとおかあさんは、わからなかったの」

「石、か。まあ見てみるか」


 真雅は朝恵から箱を受け取ると、中の石をその大きな手に乗せた。


「これか。――これは、恐らく雲母だな」

「うんも?」


 初めて聞く名前だ。やっぱりお兄ちゃんはこの石が何か知っていた――朝恵は目を輝かせながら、真雅の次の言葉を待つ。


「鉱物の一種だな。――朝恵ちゃん、この石はすぐに割れただろう?」

「うん。わたし、その石をおとしちゃったんだけど、われたらそのきらきらが出てきたの」

「そうか。――雲母の特徴は、割れやすいことだ。落としてすぐに割れたのなら、これは雲母で間違いないだろうな。白いから、白雲母だ」

「しろくないものもあるの?」

「あるな。黒かったら、黒雲母だ。――雲母は、またの名をきららとも言う。これは、きらきら光っている特徴からの名前だな」

「かわいい名まえの石なんだね。きららって、わたしすきだな」


 雲母という名前よりも、きららという名前の方が断然素敵だ。朝恵はその白くきらきら輝く石を見つめていたが、ふとあることを思いついた。

 この、可愛い名前の石について調べるのを、夏休みの自由研究にしてはどうかと。


「ねえ、おにいちゃん。――この石についてね、いろいろしらべてじゆうけんきゅうにするのは、へんかな?」


 その朝恵の言葉を聞いた真雅は、鋭い瞳に喜色を浮かべて、頷いた。


「いいんじゃないか? 夏休みに見つけた石について調べるというのは、立派な研究だ。雲母も結構奥が深いから、調べ甲斐があると思うぜ」

「じゃあわたし、これをじゆうけんきゅうにするね。しゅくだいができあがったら見てね、おにいちゃん」

「勿論だとも」


 朝恵は小箱の中の石を見つめる。きらきら輝く、可愛い名前も持っている石を。

 まずは図書館に行ってみよう。本をたくさん調べて、わかったことをまとめてみなければ。


 顔を上げたら、真雅と目があった。その綺麗な黄色の瞳は、今日もとても穏やかで。

 その瞳に見つめられると、朝恵は自然と笑顔になっていたのだった。





 早速図書館に出掛けると、雲母が載っている本を何冊か借りてきた。

 その夜、自分の部屋の勉強机に向かった朝恵は、一冊の新しいノートを用意した。

 これからこのノートに、この雲母という綺麗な石について、調べたことをまとめていくのだ。

 せっかくの新しいノートだ、何か名前がつけたくなった。

 きららという、可愛い別名も持っているこの石についてどんどん調べていくノート。ときどきは絵も入れてまとめてみたい。――なら、こんなタイトルはどうだろうか?

 朝恵はペンで、一気に書いた。


『きらら☆絵日記』


 ――うん、とってもぴったり。

 満足した朝恵は、早速真新しいノートの一ページ目を開いたのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る