day19 トマト(サラダ以外の料理)
ある日、両親と一緒に家に帰ってみると、そのプチトマトの多くが赤く色付いていた。丁度今が、食べ頃だろうという色だ。
母が夕飯の支度をしている間に、朝恵は父と一緒にそのプチトマトを収穫する。
「たくさんとれたね、おとうさん」
「そうだな。ちょっと、一回に食べるには多すぎる量だな」
父の言うのはもっともなことであった。収穫できたプチトマトは、朝恵たちの両手には収まらないような量があったのだ。
「どうしたものかな。冷蔵庫に入れても、あまり長いこと置きすぎたら、せっかくのプチトマトが駄目になってしまう」
父は腕を組んでうーんと唸っている。
お兄ちゃんにお裾分けしたらどうだろうか。お兄ちゃんは一人暮らしだと言っていたが、少しならプチトマトも使うかも知れない。
「ねえ、おとうさん。おにいちゃんにおすそわけしたら、だめ?」
「
夏休みには科学館にも連れて貰うことだからな、と父は頷いた。
「お裾分けだからな。よく出来た大きなプチトマトを選ぶんだぞ、朝恵」
「うん!」
たくさん採れたプチトマトを持って、朝恵たちは家の中へと入っていった。
そして、翌日。
翌日は小学校が休みの日であった。
朝恵はいつもの手提げカバンと、プチトマトを入れたケースを両手に持って、ミヤコ屋へと向かう。プチトマトを渡したとき、
お店が開店してすぐだと、仕事の邪魔になるだろう――両親との協議の結果、昼ご飯の前に朝恵がプチトマトを持って行くことになっていた。
「おとうさん、おかあさん。いってくるね」
「行ってこい、朝恵」
「あまり邪魔をしないようにね」
両親に見送られて、朝恵は店の外に出た。
清遊堂の入口は、暑い今日もひんやりとしている。店が休みじゃないのを確認してから、朝恵は少し重い扉を開けて、中へと入った。
「いらっしゃい。――ああ、朝恵ちゃんか」
今日はどうした、と真雅はいつもかけている椅子からゆっくり立ち上がると、朝恵のところまで来てくれた。
「あのね、おにいちゃん。これ、うちでとれたプチトマトなの。たくさんとれたから、おにいちゃんにもたべてほしいの」
朝恵は冷蔵庫で直前まで冷やしていたケースを、真雅の方へと差し出した。
「これは、よく出来たプチトマトだ。――俺様が貰ってしまっても大丈夫なのか? 朝恵ちゃんの家の分ではなかったか」
「だいじょうぶだよ、おにいちゃん。うちにはまだたくさんあるの」
「それなら遠慮無く頂くぜ。ありがとう、朝恵ちゃん」
真雅は片手でプチトマトの入ったケースを持つと、朝恵に鮮やかに笑んでみせた。
「せっかく持ってきてくれたんだ。冷茶くらい飲んでいくか?」
「いいの、おにいちゃん? わたし、おしごとのじゃまになってない?」
「それは、大丈夫だ。――まあ、入ってくれ」
真雅が手招いてくれたので、朝恵は真雅の言葉に甘えることにした。――本当は、真雅と少しでもお喋り出来るのは無条件に嬉しいから、目を輝かせながら。
真雅は冷茶だけではなく、お菓子まで一緒に出してくれた。今日お茶に添えてくれたのは、よく冷えたゼリーだ。
「おいしいね、おにいちゃん」
「そうだな」
夏限定の青いゼリーの中には、金魚も泳いでいて見た目も涼やかだ。
「おにいちゃん。おにいちゃんはプチトマト、どうやってたべるの?」
「普段はサラダだ。でも今回は少し迷っている。朝恵ちゃんの持ってきてくれたプチトマトは結構数があったから、色々使えそうだと」
「――プチトマトって、サラダいがいにもつかうの?」
真雅の言葉に、朝恵は息を飲んだ。ちょっと、テンションも上がってくる。
「使えるな。パスタにも使えるし、焼いてもいいし――あとは、チーズと合わせてもいけるぞ」
「ほんとうにいろいろつかえるんだね、おにいちゃん」
パスタもいいし、チーズと合わせるのも美味しそうだ。想像してみた朝恵は自分もそうして食べたくなった。両親に頼めば作ってもらえるだろうか?
「――食べてみたくなったか、朝恵ちゃん?」
「うん。サラダいがいのたべかた、わたしもしてみたいなって。かえったら、おとうさんとおかあさんにたのんでみるね」
「そうしてみるのがいいな。――駄目だったら、俺様が作ってやろう。昼ご飯にでも、食べさせてやるぜ?」
「ほんとう、おにいちゃん?」
「ああ。一度朝恵ちゃんに、俺様の料理を食べて貰うのも良い気がしてきているんだ」
真雅の作る料理。――それは絶対一度、食べてみたい。朝恵の中ではなんとなく、真雅は料理上手のイメージではあるのだが。
あまり真雅の邪魔をしてはいけない、と両親に前日から言い聞かされていたので、朝恵はここで清遊堂を出た。
両親は、プチトマトでサラダ以外の料理をしてくれるだろうか?
――真雅の手料理が食べてみたいので、両親が駄目と言ってもいいかも知れないと不謹慎なことを考える、朝恵であった。
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