きらら☆絵日記

月雲

プロローグ(そんな、ふたりの物語)

 よく晴れた夏空の下を、ひとりの少女が歩いていた。栗色の髪を三つ編みにしたおさげ髪と、大きな黒い瞳をした小柄な少女だ。


 少女は、まだその身体には少々大きく感じる真新しいパステルイエローのランドセルを背負い、手提げカバンを持って、額に汗していた。道の端に立ち止まってレースの縁取りの小さなタオルハンカチを取り出すと、軽くその汗を拭き取る。


 ――目指す場所までは、あともう少しだ。


 Tシャツにキュロットスカートという格好の少女は、残りの距離を走ることにしたようだ。眩しい太陽の光の下、おさげ髪とランドセルを揺らして、少女は元気に駆けていった。


 いつも心持ち気温を低めにしている店内で、男は気に入りの椅子にそのすらりと長い足を組んでかけていた。見事なウェーブのかかった艷やかな黒髪と、鋭いシトリンの瞳が特徴的な男だ。ほっそりとした体躯に、すっと通った鼻筋。形の良い唇にぬけるように白い肌――と、男の姿形は非常に整っている。


 男がこの時代の此方に住まうようになって、まだ十年も経っていない。それでも案外生活には慣れた。店を営業することにも、人付き合いにも、そして――常に本名とは違う名で呼ばれ、暮らしていくことにも。


 遥か昔から長い時を共に過ごしている相手も常々言っていたが、存外、正体はばれないものだった。実は男は人間ではなく、半永久的な生命を持つ、異種族であるということは。カラーコンタクトなる品物のおかけで、この地の一般的な人間とは異なる瞳の色さえも誰にも疑問に思われないのには、たまげたものである。


 今日も、悠々自適の一日になりそうだ――

 男は椅子に座ったまま、大きく伸びをした。



 この物語は、そんな少女と男の物語である。

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