26.終わらせたいナイトフィーバー【Day26・深夜二時:桐生+土屋+高梁】
時刻は丑の刻、草木も寝静まる時間帯だが『
「全っ然、眠くならねえ……」
「変な時間にひるね、しちゃいましたからねー。私もぎんぎらぎんです」
「それ言うならギンギンだな。しかしどうしようね」
リビングに車座となっているのは
さて、問題はここからどうやって睡眠に持っていくかである。
「永介が子守唄歌うしかなくね?」
「逆に訊くけど、お前子守唄聴いて寝たことある?」
「……、なんかアロマでも焚いてみる?」
「そんな洒落たものあるんだ。初耳だけど」
「いや永介持ってそうだなと。俺は蚊取り線香しか持ってない」
「何じゃそりゃ。俺だって持ってないやい」
わいわいと言葉を交わす土屋と桐生、その間で高梁は地味にうとうととしていた。人の会話が持つ一定のリズム、それに眠気が誘われたのだろう。二人が楽しそうに話しているのを横目に、彼はリビングの床に横たわった。
「「待て待て待て」」
「へぇ? なんですか?」
「寝るならベッド行きなって。体痛くなるぞ」
「っていうかお前、よく眠くなれたな。どうやったの?」
既に目を虚ろとさせている高梁は、話の半分が頭に入ってきていない状態だった。どうやった、とは何の話だろうか。そう言えば寝るとか寝たいとか、そんなことを言っていたような。いやよく分かんないけど。
「ふたりのはなしごえが、ここちよく……、……」
「だからここで寝るなって!」
ああもう! と土屋は呆れと怒りの雄叫びを(ひっそり)上げて高梁のことを持ち上げる。それを横で拍手し讃えている桐生に「お前も手伝え!」と声を荒げた。ふたりで静かに、高梁の部屋へ連れて行く。扉を開け、ベッドに転がす。今日彼と同室の
すると桐生、土屋のスマートフォンにひとつのメッセージが入る。タイミングが異なったので個人宛かと思ったらその通り、送り主は
『お兄ちゃんはもう寝ます。早く寝なさい。』
そんな簡潔なメッセージに、桐生と土屋は少し委縮した。日出は土屋と同室なので、部屋にいない土屋のことを想像しメッセージを送ったのだろう。そして恐ろしいことに、続け様にメッセージが送られる。今度は
『お兄ちゃん寝るからねー、さっさと寝るんだよー』
御堂は桐生と同室、つまり日出とほぼ同じ経緯で送られて来たメッセージだ。桐生と土屋、ふたりは少しよろめいた。というかこのメッセージ、マジで何の打ち合わせもせずに送ってきたのか。それなら凄まじい、思考のシンクロ率が。
桐生も土屋もとぼとぼとリビングに戻った。リビングのソファに座り、テレビをおもむろにつける。
「眠くなるまで洋ドラでも見るか……」
「いいけど、おすすめある? 俺、何も分かんない」
「好きなやつあるからそれ見よ。……っていうか、俺も本社戻って作業してれば良かったかな。折角眠くないんだし」
折角眠くないとは変な言葉だ、と桐生は横やりを入れる。眠くない、というのは良い状態じゃないだろう。そもそも土屋は朝型人間だ、夜型の南方とは違う。今体内時計を狂わせたら直すのが大変になってしまうこと間違いなしだ。
こいつは無理にでも寝かしつけた方が良いのでは、と桐生は鋭い目つきで土屋を見つめる。
「な、なに? 殺意を感じる……」
「睡眠欲を感じてほしい……」
「なんだそりゃ。いや寝たいのはやまやまなんだけど」
「じゃあ子守唄歌ってやるよ。なにが良い?」
「どうしたいきなり」
先程まで「子守唄聴いて寝たことあんのか」などと言っていた男が、急に子守唄を歌ってやると言ってきたのだ。不審に思わない人間はいないだろう、実際土屋もかなり不審に思って多少後ずさった。
「なんで遠退くの」
「お前が怖くて……訳わかんねえのなんのって」
「いや、色々考えて今一番大事なのは亜樹の体調だって思っただけ」
「はい?」
土屋は首を傾げる。色々考えてそこに行くのが突飛すぎる。いや桐生のことだから、シンプル過ぎるのか。
「もうすぐ初めての海外ロケなんだから、体調崩してる暇もない訳だし」
「それもそうだけど」
「いっちゃん寝ちゃったかな。一緒に寝てください、って言ったら添い寝してくれるかな」
「まあ一緒に寝た方が、寝つきがいいのは分かるけど」
「亜樹も日出くんに添い寝してもらいなよ。人の体温って安心するし」
どうぞ、と桐生に腕を広げられ困惑する土屋だが、二秒ほど迷ってその中にダイブした。身長がほぼ同じであるため密着度が高い。いつもの高そうなシャンプーとヘアオイルの匂いがする。
「なるほど、分かったわ」
「眠くなってきた?」
「わりと。永介も?」
「それなりに」
笑って永介は立ち上がった。亜樹もそれにならって立ち上がる。もうすぐ三時だが明日の仕事はそこまで早くない、何とかなるだろう。欠伸を噛み殺し、それぞれの部屋に入った。
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