24.炎天下が揺らめく直前のこと【Day24・朝凪:水面+御堂】
「うちの99lineは本当に早起きだね~」
「みなもんは……寝てないな?」
「実はね」
実はねじゃない、と
仕事の入り時間がよっぽど早くなければ早朝にジョギングをするのが御堂斎の日課だ。元々は
宿舎のダイニングでは水面がブラックコーヒーを飲んでいた。彼は御堂にコーヒーは要るかを訊き、御堂は「水で良い」と返す。
「カフェインもそんなに摂ってないんだっけ」
「元々好きだったから、逆にね。デカフェは飲むけど」
「本当に徹底してるなあ、えらすぎ、褒めてあげる~」
「どうもどうも、まあみなもんは不摂生過ぎるけど」
早朝に起きて運動をしていた御堂と反対に、水面は夜中から作業にとりかかりこの時間までずっと起きていたそうだ。そしてコーヒーを飲んで、もう少し作業を続けるという。いや寝ろよ、体内時計狂うぞ。
「いや卒制絡みだからさ、夏休みに入るまでに形にしたくて」
「そうは言っても体内時計狂うと仕事できついでしょ。いや、通学もきついでしょ、通学の方がきついわ」
「それはそうなんだけどね~……なかなかまとまった時間も取れないし」
最近まで水面は気落ちしている様子だった。『
「作品の進捗はどう?」
「方向性決まって、プロデューサーと先生にも話して、あとは取り掛かるばっかりかな。なんか、ぼくの我儘でEP盤のコンセプト決めて申し訳ないなとは思ってるけど」
「新しいことに挑戦してるし、僕は好きだよ」
「本当?」
「僕はみなもんの絵のファンなので」
胸を張って伝える御堂を見て、水面は嬉しそうに顔を綻ばせる。楽曲製作隊である南方、
「なんか今日、久し振りにめちゃ心が落ち着いてる」
「やっぱりしんどかったんだ」
「まあね~、もう若くないし、知見が広がって逆にってところはあるかも」
「平均年齢から考えるとまだまだ先は長いけどね」
「ド正論」
でもさあ、と水面はそれでもうじうじと机に擦り寄る。言わんとしていることは御堂も理解できる。アイドルという職業の性質上、デビュー年齢はかなり若い。特に最近は年々若年齢化が進んでおり、水面と同い年で既に中堅アイドルという人も珍しくはないのだ(特に女性アイドルで多い傾向である)。
子役時代を経て比較的下積みが長い水面はこの業界の嫌なところも散々見てきているし、大きな事務所であっても実力があっても人気があっても、時流とその時の風向きで何が起こるか分からないということも熟知していた。
「先が長いって分かってるから、色々と息抜きしたり趣味作ったりしてるんだろうね、先輩方も」
「いっちゃんも趣味人だもんね~あきさまも」
「僕は本当小さい頃からの延長だから……、最近始めて続いてるサーシャの方にそういうことは訊いたらいいんじゃない?」
御堂は小さい頃より漫画やアニメが好きで、息抜きと言えば漫画を読んだりアニメを見たりすることだった。土屋はキャンプやアウトドアが趣味で、それこそ少しでも暇があれば車を走らせて自然と触れ合いに行く。サーシャこと
水面が高梁の写真事情をよく知っているのは、彼が写真を撮る時の構図などを教えているからである。以前、そういう授業を取ったことがあるとのことだ。
「そもそも絵を描くことが趣味なんじゃないの、みなもんは」
「まあ、それもそうか~」
「今は勉強してるから作品制作を楽しむより前に評価が重要になるけど、卒業したら楽しんで取り組めるんじゃないの? 『佐々木水面の作品』ということに価値を感じる人間はごまんといる訳だし」
「いやあ~、そんな、」
「そうだよ。みなもんの名前が書かれた作品が欲しい人は、きっと沢山いる」
芸術家としてはどうかと思う評価基準だが、芸能人にとってはこの上ない評価基準ではないだろうか。そりゃあもちろん、作品そのものが良いと言って評価される方が良いが、水面は画家ではなくアイドルなのだ。自分そのものが付加価値として名を上げているなら、これ以上のことはないだろう。
「チャリティーオークションとかやりたいね、そのうち」
「……めっちゃ良いじゃん」
「買ってくれる人いるかな~? ぼくの絵を出して、買ってくれた金額を全額被災地とか、色んな保護団体とかに渡すの。ぼく以外にも絵を描いてるアイドルはいっぱいいるから、事務所とかの垣根なくやってみたい」
「え、それさ、本当にやらない? 企画書書いて、多分すぐにはできないと思うけど」
企画するだけしてみたら良い、あとはそっちのプロが駄目なところを指摘してくれる。どうしてできないかを考えて、ブラッシュアップしていけばいずれできるのではないか。
「じゃあ今日はプールに浸かりながらそういうの考えようかな~」
「ぷ、プール? 行くの?」
「庭でやろうかと」
「絶対に怒られるからやめな……?」
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