第3話 小日向真司2歳

ようやく片言だが真司は言葉を覚えてきた。

最初に話した単語は「おちゃ」だった。

この頃から文枝は母乳を卒業させて、お茶を飲んでいた。

文枝が「お茶を沸かさないと~」、「真司、お茶を飲みなさい」と毎日のように連呼していたから、自然とその言葉を覚えてしまったのだろう。

何を最初に話してくれるのだろうかと期待していた誠司と文枝は、さすがに感動が薄まってしまった。


日曜日になると三人でよく散歩に出かけた。

この当時は自家用車を持っているのは一部の金持ちだけで、一般家庭には高嶺の花だった。

ちなみに誠司の通勤も、文枝の買い物も自転車が活躍していた。

だから遠出することはめったになかった。


歩いて出掛ける先は、もっぱら近所の公園や河川敷。

よちよち歩きの真司の右手を誠司が、左手を文枝が握って三人は並んで歩いた。

それでも三人は幸せだった。


真司は代わる代わる誠司と文枝の顔を見上げた。

見つめ返してくる両親の顔は満面の笑顔だった。

この頃からだろうか。

真司が両親を笑顔にすることが、自分の使命のように思い出したのは・・・。

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