デルタの星

KISEKINOHOSHI

第1話 終わりと始まり

「23xx年、地球は何者かに支配されるだろう…。」

世界一の預言者ジョン・グエイムズが発した言葉。

その時彼は青ざめていた。

その後彼は巻き込まれることを恐れ、自殺したらしい。

その時こそ誰も信じなかったが、それが現実になるなんて…。


23xx年地球は死んでしまった。

デルタという謎の生物の支配があった。

彼らが使用するデルタナロボは人を一掃させた。

もちろん、一夏(いちか)の家も…。


「いやあ、残酷ですね。」

メガネを付けた研究員が、デルタが通った跡の道を歩きながら言う。

辺りは血で染まり、亡骸がいくつもあった。家もボロボロで、木も草も潰れてしまった。

「生きている人なんか、そうそういないですよ、所長。」

もう一人のメガネ研究員も言葉を発する。

所長と言われた男は、カミナシの、やはりメガネだった。

「もう、このあたりはいないかもな…。」

皆が諦めて、帰ろうとしたときだった。

ブーーッ!

「所長!生命レーダーに反応がありました!」

所長が顔を上げ、レーダーを凝視する。たしかに一つ、点が輝いている。

「行くぞ!」

「はいっ!」

短い掛け声と共に、彼らは血の道を逆走した…。


底にあったのは、崩れた家と、やはり血まみれの道。

その家と道の真ん中で、一人の女の子が倒れている。

年齢は、12歳くらいだろうか。

「この子です。」

「緑髪とは、珍しいな。地毛だろうか。」

そう、その子は明るい緑髪の子だった。

肩より少し長めの髪で、きれいにハーフアップでとめている。

「お嬢ちゃん、立てるかい?」

その子はそう言われると怪我した血まみれの足をなんとか持ち上げる。

皮膚だけでなく肉も切り裂いたその傷は、なんとも痛そうだ。

「お嬢ちゃん、お名前言えるかな?」

「……一夏。」

その声は枯れていて、おそらく泣いていたのだろう。

周りに4人以外おらず、4人以外の生命レーダーの反応もない。

「足に怪我をしているな。背負っていけ。」

「イエス・サー!」

所長の命令は絶対なのだ。そう言わんばかりに女の子を背負う。

「帰るぞ。」

「はい!」

次の瞬間、彼らはその場にいなかった。


一夏は目覚めたら、病室らしきところにいた。

消毒薬の香りがした。体は動くだろうか。良かった、動く。

しかし、左足を動かすと、激痛が走った。

「いっ、だっ…!」

よく見ると、足が縫われている。なるほど、こりゃなれるのには時間がいるな。

その時アナウンスが流れた。

「生き残った諸君、おめでとう。君たちの中にいるのは血の繋がった者を失った人も多いだろう。」

いちかはその時唐突に思い出した。家族のことを。

浮気をした父親。恐ろしい母親。身勝手な祖母。

そして…大好きな姉と兄…。

泣きたくなってきた。苦しい。

そんなのことも知らず、アナウンスは続く。

「そんな苦しい過去も乗り越えてからこそなるのが未来だ。これから我々が予定している計画について話そうと思う。」

そんなの、どうでもいいから!

苦しい息遣いは隣の親切なおばさんに、あんたさっきから大丈夫?落ち着いてね。大丈夫やよ、と言われるまで続いた。

なんて言ってたっけ…アナウンス…。

この世界は…危険……摂取することに…成功………………生き残るためには……

何だっけ、本当に思い出せない。

「以上で終了です。」

終わっちゃった…。

これからどうするんだろう…。


次の日

渡されたのは赤いもの。

黒みがかっていて、ドロドロとしていて、気色悪いものだった。

「今日から一夏ちゃんの担当をする研究員です。よろしく。」

そこにいたのは、ポニーテールをした、やはりメガネのお姉さんだった。

「はい…。」

「早速だけど、これ飲んでほしいの。」

最悪だ…。こんなの飲むとか。

「なんでですか……?」

イライラして、つい言い返してしまった。そして猛烈に後悔する。

「昨日、アナウンスでやってたわよ。これを飲むことで人面ロボットを作る計画よ。」

人面、ロボット…私はその言葉を飲み込むのに時間がかかった。

「人面ロボットはデルタをこの星から消すには不可欠なのよ。」

よくわからない。デルタって何?なんかテレビに少し写ってたかも。

「てことで、飲んで。」

言われるがままに飲んだ。鉄のような味がした。思わず吐き出そうとしたら水を無理やり飲まされた。

「美味しいって思った?期待しちゃだめだよ☆」

からかうように言ってのける研究員にイライラする。

なんとか飲み込んだら、研究員は行ってしまった。

隣のおばさんが、話しかけてくる。

まず、昨日のお礼として、簡単に会釈した。

「いいのよぉ……。はぁ…、あんたみたいな小さな子供も、あれを飲まなきゃいけないなんてねぇ…嫌な世の中だよぉ、全くねぇ。」

あれ、ってなに?聞きたかったけど、話そうとすると鉄の味が蘇り、声が出ない。

「美味しくないよねぇ…。」

それは事実だ。

おばさんも鉄の味を思い出したのか、激しく咳き込み、その後眠ってしまった。

しばらくぼーっとしていると、隣の子が話しかけてくれた。

「アンナですわ。はじめまして。」

黄金に近い髪の毛に、青色の目。年は19歳くらいだろうか。

私はゆっくり頷く。

「これからよろしくね。」

聞けば、その子はイギリスに住んでいたらしくて、今はイギリスは本当は夜だから、薬を飲むのは約8時間後だそう。どうりでこんなに喋れるわけだ。

19歳を迎えたばかりで、将来の夢は医者だという。

「私、少し眠くなってきたわ。おやすみなさい。」

その子はくうくう寝息を立てて、寝てしまった

早く死にたい。そう思う。もう何もしたくなかった。もう終われる。そうも思った。


次の日、手の血管がおかしかった。異様なほど浮き出ていて触れると痛い。

おばさんは体の半分以上がなり、苦しそうに息をたてる。

次の日おばあさんは逝ってしまった。突然だった。

アンナはおばさんより広がりが遅かったが、私よりは断然早かった。

彼女は手術を受けて、両腕と顔の半分がロボットのようになって戻ってきた。彼女はやせ細り、もう長くないだろうと思った。次の日起きたら、彼女は隣のベッドで目を見開いたまま、動かなくなっていた。


病室の人はどんどん減り、ほぼ同年代の「雷夢」(らいむ)という男の子と一緒になった。

髪の毛の毛先が黄色い男の子だ。

彼も私と同じくらいの進行の速さで、少し話すくらいの仲になった。


2週間ほど過ぎた。

治療薬が開発された。担当の研究員に処方してもらった。

すぐ治った。雷夢も治った。

よかった…。


生き残ったのは6から18歳の子どもたちだという。

アンナは19歳だったから、死んでしまったのだろうか。

アンナがもう少し生まれるのが遅ければ…なんて。

おばさんと、アンナの顔が見たくなってしまった。


半年が経った。一回手術を受けた。

髪の毛は腰くらいまでになり、ハーフアップではなく、研究員と同じ、ポニーテールに変えた。

研究員の動きが何やら慌ただしい。

「デルタに見つかってしまったの。」

担当は、そう答えた。

「あなたを保存容器に入れるわ。」

私と、雷夢、両方連れて行かれた。

連れて行かれた場所は、人一人は入りそうな、大きなボトル。中にはいっている透明の青みがかった液体が、なんとも気味悪い。

「さあ、入って。」

雷夢と私、同時に息を止めて入る。呼吸ができず、苦しい。

そう思ったとき、上から銅線みたいなのが降りてきた。

体のあちこちに繋がれて、眠くなってくる。

私…死ぬんだ…。


だけど、それが始まりだった。











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