第14話 好きなものは溜め込むタイプでした




 連れ去られた先、姫は大木のうろの中で体を起こした。

「こ、腰が痛いですわ。一体ここは…」


 ふくろうの巣がそのまま巨大化したような空間には、落ち葉が敷き詰められていてそれなりに居心地が良いように作られている。

 自分を連れ去った巨大な魔獣は、また餌を探しにどこかへと飛び去ってしまった。


「魔界はなんでもスケールが大きすぎますわ。木の洞ひとつでも私の実家の部屋と同じくらい大きいだなんて」

 そう言いながら外を見ると、地面は遥か下。

 飛び降りたりすれば怪我では済まないような高さに姫は取り残されていた。


「…助けが来るのを素直に待つべきですわね」

 辺りを見回すと、木の実やら果実やらが溜め込まれているのが見える。

「最悪、あれを食べれば空腹で死ぬことも…」


 ふと、さらに奥に視線を移す。

「…」

 昨日、頭を咬まれて大変なことになったアーモンドが大量に転がっている。


「助けてーーーーー!!!」


 姫は一心不乱に外へ向けて叫び声を上げた。




 ◇ ◆ ◇




「どこまで行っちゃったんだ、姫」

 辺りを見回す勇者たちは、大木が立ち並ぶ森林の中を歩き回っている。


「あれ、遊んでるんじゃなかったんだね…。勘違いしちゃった、おねーちゃん大丈夫かなぁ」

 申し訳なさそうにするまーちゃんへ向けて、勇者は「大丈夫だよ、姫は強いからね」と笑いかけた。


「勇者様ぁーーーっ!!受け止めてーーっ!!」

「ん?」


 上方から、姫が大声を上げるのが聞こえてくる。

 勇者が見上げると、姫が巨大な葉をパラシュートのように広げて落ちてくる姿があった。

 多少落下速度は落ちているが、安全に着地できるほどの勢いではない。


「相変わらず無茶するな、姫!?」

 慌ててその真下にまで駆け込む勇者。

 先に現れるのは姫を攫った大型の鳥だと思っていた勇者は、構えていた剣を投げ捨てて、出来る限り勢いを殺すようにそれを受け止めた。


「はっ、はっ。危なかったですわ。魔物より先にアーモンドに食い殺されるところでした」

「ああ、そっか。姫、生態系の一番下くらいの位置づけだもんね」

「その言い方はあんまりだと思いますの」

 文字通りお姫様抱っこされる姫だったが、掛けられた言葉が理想とは違ったせいか複雑そうな顔を浮かべた。




「キェーーーッ!!」


「うわ、でた!巨大魔獣…フクロウ!!」

 一同が見上げると、そこには梟にも怪獣にも見える巨大生物が翼を広げているのが見えた。


 勇者は姫を降ろし、剣を構えてそれを威嚇する。

「おい、こら!姫は餌じゃないぞ、こっちに来るな!」

「そうだ、おねーちゃんは美味しくないぞ!」

「…」

 それぞれの言葉に姫は何か言いたげな顔をする。


「どうしても襲ってくるなら…仕方ない!僧侶、行くよ!」

「かしこまり、バフは任せてください!」

 僧侶は勇者の合図に合わせてステッキを前方に掲げた。

 戦士はとくに呼ばれていないが、とりあえず構える。


「怪我させるとあとで魔王と喧嘩になりそうだから…脅かすだけに加減して!エクス…!」

 勇者が掲げた剣が光り輝く。


 魔力を最大まで溜め込んだ彼は、梟が襲い掛かってこようというタイミングでその全てを放出するべく声を上げた。

 合わせて、僧侶も魔法を唱える。


「―――カリバァーーーッ!!」

「―――プロ―ジョンッ!!」

「えっ」

「あっ」

 僧侶は支援魔法を使うべきところを、間違えて攻撃魔法を唱えていた。



 勇者の放った飛ぶ斬撃は梟の目の前を掠めていく。

 僧侶の放った爆風は梟の背後の大木を根元から吹き飛ばす。



「キェーーーッ!!」


 梟は驚いて逃げていくが、その背後から倒れてくる大木が、どう見ても回避不能な勢いで彼らに倒れ込んできていた。



「何やってんた馬鹿ーーーっ!?」

「間違えましたぁーーーっ!!!」


 勇者は姫を抱え、戦士はまーちゃんを肩車して走り出そうとするが、もうその回避は間に合いそうもないところまで倒木は迫ってきている。


「あれ、これ。ほんとにやばい奴じゃないです?」

 姫が見上げてそう呟いた瞬間。


「まったく、この程度か勇者よ!」

 目の前に現れた大きな黒い人影が、片腕でその巨木を受け止めて彼らを救って見せた。


「お父さん!」

「魔王!」


 巨木は、彼らを押しつぶすことなくぴたりと止まる。


「お父さん、凄い凄い!ありがとう!」

 まーちゃんはそう言いながらぴょんぴょん跳ねて、他の面々は呆気に取られたように口を開けていた。


「そうだろう、そうだろう。勇者なんかより、お父さんのほうがとってもかっこいいだろう。どうだ、これからもお父さんとずっと一緒にいたいだろう?」

「うん!でも勇者様とも結婚するよ!」

「おのれ勇者ァ!」


 魔王は悔しそうに巨木を横に投げ置く。


「ま、まあ、な。少し取り乱したが、お父さんの格好良さも十分伝わっただろう。勇者よ、まーちゃんと仲良くなりたいのであれば、このくらいは出来るようにしておくのだな」

「あ、ええと。はい承知です」

 情緒の安定しない魔王に変な驚き方をしながらも、その力強さには素直に感服したのか勇者は素直に頷いた。


 巨木が倒れた近くに、梟が溜め込んでいたアーモンドが転がっているのも見える。

「お父さん、おねーちゃん!アーモンドが落ちてるよ、拾いに行こう!」

 まーちゃんと魔王は楽しそうにそれを拾いに行く。


「そうね!いってらっしゃい!」

 姫は当然の様にその場から動かなかった。




「ね、ねえ、戦士。僕、ちょっと思ったんだけどさ」

 勇者はさりげなく戦士に耳打ちする。


「今の世代の魔王って、もしかして過去一で強い?」

「今更気が付いたのかお前」


 戦士は呆れたように答えるが、周りには悟られないよう気を遣って大きなリアクションはしないのであった。



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