第19話 エピローグ2 不幸の中でしか生きられない

 1

「なっ! はぁ、はぁ、はぁ、またあの時の夢かぁ」

 ジュエル・グルドニアは目覚めた。


 フラワーにドレスを課金してから三十年近く経った。

 あの青春の日々は今となっては夢のような悪夢のような瞬間であった。


 あれから、魔女とは紛争地帯を転々と旅をした。何をしたかというと、戦争による負傷者の治療だった。

 魔女は滅多なことでは《回復》を使わなかった。《転移》が莫大な魔力を必要とするため、いつでも逃げられるようにと治療には、薬や、医学という技を使った。

 ジュエルはただただ、手伝った。

 目の前で死にそうな人達を目にしたら、体が勝手に動いた。

 体を動かしている時は無心になれた。

 悲惨な死体や、傷口や見たくないものはたくさんあった。

 何度、嘔吐したか分からない。

「ああ、手が足りないね。そっちはあんたがなんとかしな。お嬢ちゃんが踏ん張んなきゃソイツは死ぬよ」

 魔女はやはり魔女だった。

 そんな時でも《回復》は使えなかった。

 一度、魔女に「なんでこんなことしてるんですか」と聞いた。

「長生きしてると、刺激がないと心がすり減るんだよ。趣味みたいなものだから、責任も負わないし押し売りもしない。だから、対価も求めない」

 魔女はたんたんと作業を繰り返した。


「皮肉だねぇ、聖女様や。誰かを助けたい、癒したいなんてのは、不幸な誰かがいるから成り立つんだよ。聖女ってのは、不幸の中でしか輝けないのさねぇ」


 数日後、ジュエルは再び《回復》を発現した。

 どうして再び《回復》を使えるようになったのかは、誰にも分からなかった。


 なぜか、魔女が少し若返って見えた気がした。


 色々なことがあった。


 獣人連合国との休戦は三年間守られた。


 ジュエルはデニッシュに冒険者パーティー『銀狼』に誘われた。


『銀狼』は数々の迷宮を踏破した。間接的だが、ジュエルは戦争にも参加した。


 やはり戦争は言葉に出来ないほど、惨いものだ。


 デニッシュとジュエルは結婚した。

 人の気持ちとは分からないものだ。


 戦争はジャンクランドの王『巨帝ボンド』の仲介により幕を閉じた。裏では魔女が手を貸した。


 戦時中にウェンリーゼでは、海王神シーランドにより壊滅的な被害を受けた。

 キーリライトニング・ウェンリーゼと海軍の活躍でシーランドを後退させることに成功したが、キーリライトニングは戦死、フラワーは二次災害によって帰らぬ人となった。


 王都にいたジュエルには何も出来なかった。


 戦時中において、聖女が王都にいることは国民の安心を意味しており、フェリーチェを従えるジュエルはある意味でグルドニア最高戦力である。漁夫の利を狙う他国を牽制するためには仕方なかった。


 ジュエルに戦争でフェリーチェを使う気は全く無かったが、相手がどう思うかはそれは別の話である。


 実際にジュエルはここ十年以上、フェリーチェを呼んでいない


 ジュエルはどこか気が抜けたような、無気力に襲われたがいつかの魔女の一言がジュエルを引き戻した。


「お嬢ちゃんが踏ん張んなきゃソイツは死ぬよ」


「皮肉だねぇ、聖女様や。誰かを助けたい、癒したいなんてのは、不幸な誰かがいるから成り立つんだよ。聖女ってのは、不幸の中でしか輝けないのさねぇ」


 国を殺させる訳にはいかない。


 魔女の言葉は呪いのようにジュエルを動かした。

 今でも、魔女の呪いは祝福となりジュエルから離れてくれない。


 聖女の道、誰でもないジュエルが選んだ【へルモード】なのだから。


 2


「ジュエル様、本日はおめでとうございます」

 メイド長がジュエルの誕生日を祝福する。

「そういえば今日は、私の誕生日だったわね」

 ジュエルは憂鬱だった。

 既に四十歳を越えた誕生日等、たいして嬉しくない。


 朝食では、デニッシュがどこかそわそわしていた。

 デニッシュはジュエルに「今年は最高のサプライズを用意しているぞ」といった。


 こういう時のデニッシュは予想の斜め上をいくためジュエルはいつも、後処理で非常に困っていた。


 夜になりジュエルの生誕祭が開かれた。

 国内の貴族は勿論、他国では転移門を使ってミクスメーレン共和国が、獣王国からは王自ら、魔法大国リトナーからは宰相であり賢者フォロー等、その他諸々と国際会議並みの豪華な顔ぶれである。


 ビクン


 その中でジュエルは非常に懐かしい魔力を感じた。

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