第15話 聖女がいない
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一週間後の学園卒業パーティー
ドレスをフラワーに課金してから一週間が過ぎた。本日、最上級生の卒業式が終わり、他国の大臣やら官僚、国内の有力貴族に王族等を招いた。謝恩会に近いパーティーが設けられる。
基本的に学園の生徒も参加は可能であり、上級生との別れの場でもある。
この場において卒業する上級生は、下級生よりプレゼントを貰うことが公に認められており、推しに課金できる最後の時間でもあるのだ。
「聖女にお目にかかることができるのは間違いないんだろうな」
だが、今年のパーティーは例年と比べて毛色が違った。
学生以外のパーティーへの出席を巡る倍率が高過ぎたのだ。
卒業生の保護者は勿論、国内の貴族、いつもはポーズだけ出席している他国の貴族、商人に何故か王族までこぞって参加を申し出てきた。
しかも、目的が
「何としても、聖女と接点を持たなくては」
卒業生ではなく、公の場に出てくるであろう聖女ジュエルが目的であった。
ジュエルは入学してから二年間ほとんど公の場や、社交界にもでてくることがなかった。
だが、数々の逸話を作った。
冒険者組合の癒し手として名を挙げた。
薬学の流通に関しても『体力回復飴』、『魔力回復飴』をはじめとした高水準な薬を大量にばらまいた。
間接的ではあるが、敵国である獣王の息子を救った。
その行為から騎士団と敵対したかと思われたが、逆に騎士達に【敵に塩を送る】とはこのことかと、騎士の気高さを知らししめた。
幻の神獣怪鳥フェリーチェを従わせた。
遠い異国、ミクスメーレン共和国では神託を授かり『魔獣大行進』から国を救った。
一歩間違えれば無断で国境を犯したので国際問題であったが……
ミクスメーレン共和国の復興支援金の元手となったフェリーチェの羽で作った『青い飾り羽』は今や、気高きものの証として貴族であれば持っていないと馬鹿にされるというほどの流行りで、どの国でも非常に欲している。
ミクスメーレン共和国の国家予算並みの国債を「そんなもの差し上げます」とお菓子でも渡すようように寄付した話しは、お布施を貰う教会出身の聖女が逆にお布施をするなどとは、世界中に『ダイヤモンド公爵家』と『グルドニア王国』『教会』の尊厳を広めた。
国際連合ですら即断即決で出来ないことを、十二歳の少女が一個人で行ったのだ。
そのお陰で、隣国はミクスメーレン共和国に侵攻することが出来ずに世界の秩序が保たれた。
ミクスメーレン共和国はそこからジュエルに恩返しがしたい一心で、世紀の大発明といわれる『転移門』の開発に成功した。
莫大な魔力と人数制限はあるが、千キロ離れたグルドニア王国に一瞬で《転移》可能で、実証実験も済んでいる。
その噂は瞬く間に広がり、ミクスメーレン共和国の国債は今や爆上がり状態なのである。
各国は揃ってミクスメーレン共和国に『転移門』の受注をした。
「全ては、聖女様のために女神であるフラワー・ウェンリーゼ様のお心のままにと」
ミクスメーレン共和国からはよく訳の分からない返事であった。
ちなみに、グルドニア王国はミクスメーレン共和国から無償で『転移門』を幾つか寄付された。
ミクスメーレン共和国からの条件は一つだけであった。
「聖女様の推し活に幸あれ」
王宮や大臣は、訳が分からなかったが王宮とウェンリーゼ、魔女がいるズーイ伯爵領に設置すると約束した。
『青い飾り羽』の件しかり、『転移門』の件しかり、今や世界はジュエルを中心に回っているのだ。
何としても聖女ジュエルと縁を作らなくてはならない。国内の有力貴族や他国の大臣の鼻息が荒いのも仕方がないことだった。
余談ではあるが、獣人連合国からは狼獣人である前王モスと息子のガージャが招かれた。戦争中の両国は三年間限定であるが、休戦条約を結んだのである。
本当は、獣王ガルルが出席すると聞かなかったが、流石にそれは不味いと、隠居した父モスと兄のガージャが説得の末やってきた。
この三年間というのは公には公表されていないが、ジュエルの学生生活が終わる期間とされている。
獣人は礼には礼を尽くす種族なのだろう。
ジュエル本人は意図していないが、グルドニア王国に一時の平和をもたらしたのである。
しかし、皆の期待とは裏腹にパーティー会場にジュエルの姿はなかった。
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