第12話 聖女の鼓動
1
「できたぁ! 」
「ウォン、ウォン」
「ホウ、ホウ」
「クルルゥゥ」
ミクスメーレン共和国に来てから約三ヶ月にしてようやくドレスは完成した。
『聖女のドレス』
〖ストーリーと効果〗
ジュエル・ダイヤモンドにより製作されたドレス。
自動サイズ調整、防塵、不滅、清潔、消毒、温度調節、再生が使用者の任意で発現する。
また、使用者が透明になることも可能である。
製作を手伝った錬金術師はドレスの効果に驚愕した。
素材として、フェリーチェの羽をベースに鉄ミミズの表皮にカラレイの糸を編み込んだ生地から作ったドレスに、製作者であるジュエルの魔力が根源として染み付いている。
聖女のドレス計画はミクスメーレン共和国の国を挙げた一大プロジェクトであった。
国を救った英雄であり、癒しの聖女、おまけに復興資金の約国家予算並みの額である国債も買ったジュエルに何か恩返しをしたい。
ジュエルは第三者から見れば、なんの見返りも求めない。無垢な慈愛の少女であった。
ジュエルの行動は端から見れば、偽善と思われるかもしれないが、偽善ではないのだ。
なぜなら、私利私欲のためにドレスを作りにきただけなのだから。
ミクスメーレン共和国を救ったことや、復興資金等はあくまでも目的を果たすための過程と手段にすぎない。
実際にそれは、無垢な慈愛である。
推しのフラワーお姉さまだけの……
「それと、これはマロン! 貴女のよ」
ジュエルが従女マロンにメイド服をプレゼントした。
「ジュエル様、これは……」
「貴女の魔力を登録したから、貴女の専用よ」
素材は余りではあるが、『聖女のドレス』と同じものだ。
これには、マロンは泣いた。
不意をつかれた。
ジュエルからすれば、ドレスが魔力登録で専用装備になるか試すためにサンプルとして作っただけだったのだが、マロンの喜びようを見ては何も言えなかった。
「よし! 直ぐに出発よ! 」
「クルルゥゥ」
「ウォン、ウォン」
「ホウ、ホウ」
ジュエルはとりあえず、勢いのままに誤魔化した。
出発する前に、国の文官が慌ててやって来て、大株主であるジュエルに国債の件で話をしたいと来た。
「全て、この国に課金します。全てはフラワー・ウェンリーゼ様のお心のままに」
ドレスができた今や、ジュエルはミクスメーレン共和国に興味がなかったので、国家予算並みの額の国債を全て
ジュエルにはもうドレス以外に頭にはなかった。
文官達は気絶した。
ジュエル達は魔女を置いてきぼりにして飛び去った。
後にこの出来事で、ミクスメーレン共和国は借金も失くなり急速に復興していった。
ミクスメーレン共和国の皆はジュエルに何か恩返しがしたかった。
国の文官、軍、錬金術師や魔導技師は魔女に相談した。
まずは、ジュエルに会うためにという根本的なグルドニア王国との距離の問題を解決することが必要だった。
「やれやれだねぇ。時期としてはいいかもしれないねぇ」
魔女の協力のもと、『転移門』が完成した。
これは名前の通り、設置した場所に《転移》を可能とするものだ。勿論、魔力も膨大に使用し制限もあるが、この発明が歴史を一つの上のステージへ押し上げた。
「人の純粋な好意は怖いねぇ」
魔女が呟いた。
2
グルドニア王国 学園
フラワーの卒業式はあと一週間後に迫っていた。
ジュエルはギリギリ間に合った。
ジュエルは疲れのせいか三日ほど寝た。
ミクスメーレン共和国でも、《回復》や治療をしながら錬金術師に弟子入りして平行して仕立て屋にも弟子入りした。
いつものように点滴と魔力回復薬、体力回復薬の薬漬けの日々だったのだ。
今となってそれが日常になってしまっていたが、限界だったのだろう。
ジュエルは起きた。
久しぶりの寮の天井を見て一瞬、全てが夢だったのではないかと焦った。
横を見ると青いドレスがある。
夢ではなかった。
ジュエルは出来ればもう一つ欲しいものがあった。
もう作ることが出来ない青い花だ。
『ラッナーの花』通称、幸せの青い花。
魔力が溢れている場所では決してなることのない花である。
ミクスメーレン共和国でも、再現は不可能と言われた。
「絶対に、ジュエルお姉さまに似合うのに……」
「私がどうか致しましたか」
その刹那の瞬間をジュエルは一生忘れないであろう。なぜなら、心の臓が跳ね上がるとともになんとも耳障りの良い声が脳を支配したからだ。
「あっあっあっあああ」
ジュエルが振り向いた先には……聖女ジュエルの全てであるフラワー・ウェンリーゼがいた。
ドッドッドッド
ジュエルの高鳴る胸の音が部屋を支配する。
「ウォン、ウォン」
「ホウ、ホウ」
ジュエルの本当の聖戦が始まる。
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