集団ストーカーの正体を暴け!~ぼくの水道にだけ毒が入ってるんだが?~
秋広
第1話 どうやら監視されています
「やっぱり、居る」
僕はクラクラと揺れる視界の中どうにか部屋のカーテンを開け放ちはす向かいの三叉路、僕の部屋から死角になっている部分に止まっていた黒い車がゆっくりと発進して夜の闇に消えて行くのを確認する。
僕はカーテンを再び閉じ、よろよろとシングルのベットに腰を下ろす。
そして未だ通知の鳴りやまないスマートフォンを持ち上げる。
『陰謀論おつ』『え? じゃあなに? お前のためだけに水道工事してお前の家の水道にだけ毒を盛ってる人間が居るってことになるけど??』『それが本当なら水道水飲むなよ』『とりあえず1回病院行ってみろよ。学費が払えなくて休学してるのは知ってるがここで病院にいかないと大変なことになるぞ』
僕のスマートフォンの画面いっぱいにこんな感じの意見がわっと表示される。
「クソっ……確かに一見信じられないかもしれないけどそこまでいう事はないだろ」
でも世間の大半が僕の訴えについて否定的な意見を持っているという事は事実らしい。
「落ち着け、もう一度洗い直すんだ」
僕は自身のポストした内容を最初から洗い直すことにした。
__僕は最近何者かに監視されているようです。
それも特定の個人とかではなくて集団に。
こんな風に言うといま流行りの集団ストーカーだとか統合失調症だと囃し立てられるかもしれないですが、とてもではないけど今の状況が自身の妄想や勘違いだとは思えなかったのでこのポストを投稿しています。
集団ストーカーという言葉を使いましたがあるいはそれは例えば興信所とか警察とか……そう言う組織が絡んでいるのかもしれません。
勿論そんな所に素行調査されるようなことをした覚えはありませんがその可能性も捨てきれません。
僕がこの違和感を覚えることになったきっかけは……。
★
ある爽やかな初夏のこと。最近僕の周りには男女2人組がやたらと多かった。
大学を休学している僕の行動範囲と言えば自宅のアパートとスーパー、コンビニが精々と言った所だ。
普段は1人で買い物に出ているおばさんや子供連れの親子、しょぼくれたスーツを着たおっさんなんかが主な通行人である中でアベックはそれはもう目立った。
大学からも少し距離のあるベッドタウンなので若い男女がこの辺りをうろついていると言うのも中々おかしな話。
なにか有名なデートスポットでもあるのかとこの地域の来歴や周辺の地理情報を調べてみたけど特別そういうものがあったりそう言う所にアクセスしやすいということはなさそうだった。
最初は不思議なこともあるものだな、としか思わなかったがその男女の顔ぶれが曜日と完全に一致していることに気が付いた。
浅黒い肌の男と茶髪の女の組み合わせは水曜日と土曜日。黒髪のスポーツマン風の男とポニーテールの女は月曜日と木曜日。火曜日と金曜日と日曜日には禿た頭の男と若い女の組み合わせだった。
毎週曜日を決めてデートをする几帳面なカップルが3組も……。
年齢=恋人居ない歴な僕はカップルとはそう言うものなのかとも思いそうになったがある日思い立って深夜にコンビニに訪れた。どうしてもコンビニの盛り蕎麦が食べたくなったためである。
流石に深夜、田舎も田舎なので人なんか居らずコンビニまでの十数分、快適な夜の散策といった感じだったのだが道路を横断する時偶々すれ違った車が問題だった。
車には濃いスモークが貼られていたが夜だったため街灯の光の加減で偶々室内の人間が見えた。
その人間は記憶に新しい禿頭の男と若い女だった。
僕はスマートフォンを取り出して曜日を確認する。今日は彼等の日、火曜日だ。
しかし時間が問題だった。そう、時刻は深夜2時。
僕は背筋にぞわりとした悪寒が走るのを感じた。
それから僕が彼等に尾行されていると確信するまでそう時間はかからなかった。
つまり彼等は何かしらの目的を持って僕を監視していると考えるに至ったのだが、1つだけ問題があった。
そう、僕を監視する意味が無いのだ。
例えば大金持ちだとか、犯罪者の疑いを掛けられているだとか、あるいは凄い美形とか危険思想の持主だったり……。
そう言う何か他人と違う特別な理由を僕自身が持っているのならばそう言う事もあるのかなと思えるのだが、生憎僕は冴えない大学生(休学中)。
そんなことをする意味がまるで見当たらない。皆目見当もつかない。
だから僕は彼等が僕の何に注目しているのか割りだそうと考えた。
まずは一番簡単そうなところから行くことにした。
金目当てはありえないだろうとは思ったが自分のなけなしの全財産を取り合えず銀行から引き出して歩いてみたりしたが特に行動に変化はなかった。
まぁ、彼等が付きっ切りで僕を見張っている時給の事を考えると僕の遠い親戚に石油王とかが居てその遺産相続の権利が僕にあるとかでもない限り割りには合わないだろうしそりゃそうか。
次、危険思想説だ。
予防拘禁と言うのは僕も聞いたことがある、つまり未然に犯罪者の芽を摘むという奴だろう。
確か大学を休学したばかりで今よりずっと鬱々としていた時期動画で爆弾の作り方というのを見て材料を検索した記憶がある。
もしかしたらそれで最近話題のロンリーウルフとかって奴と勘違いされてしまったのかもしれないと思いホームセンターまで足しげく通ってみたりもしたが特に監視が強まるようなことはなかった。
むしろホームセンター内での監視は殆どなかった。監視カメラがあるからなのか?
取り合えず僕の小さな脳ではそれ以上の方法を思い浮かべることが出来なかったので保留だ。
最後、これもありえないと思うが僕に顔がそっくりさんな犯罪者とかが居て僕がその犯罪者であるという風に思われているのではないかという所だった。
これは正直ありえないだろうなと思っていた。
何故なら警察が冤罪を出す事はあれどそれは0.1%以下と言われているうえに、怪しきは罰せず。つまり制度的に不幸を被る人が最小になり、かつ治安を守るうえで最適なルールとして法が存在している以上僕のような人間に警察がここまで張り付くとは考えにくかったからだ。
何せ人畜無害である。精々スーパーとコンビニの往復でニート生活を満喫している僕を立件しようもないだろう。
……ないよね?
ま、まぁ、とりあえず本当に僕にそっくりな犯罪者が居るとして僕なんかを監視するよりもその本物の犯罪者をはやく捕まえて欲しい物である。
そうやってとりあえず犯罪者チックな行動を取ることにした僕は、じゃあ犯罪者ってどういうことをするのだろうかと考えて適当にWEBサイトなんかを使って犯罪者についてチェックしてみた。
ふむふむ生涯継続型犯罪者と青年期限定犯罪者ね……。全く参考にならんな。
取り合えず薄暗い方が犯罪者も犯罪しやすかろうという考えの元、僕は夜に出歩くのを増やす事にした。
すると少し変化があった。
前までは大体15~30mは距離を取って監視していた彼等だったが、もうすぐそば、精々7m付近にまで接近したり、時にはすれ違うようにして僕を監視することが増えるようになったのだ。
いやまぁ、監視してないという可能性も未だに残っているが正直僕の夜の散歩の時間は深夜に設定しているのにその時間に合わせてカップルで揃いのランニングウェアを着てランニングというのは正直もう隠す気もないだろう。
この適当さから僕は恐らく彼らは警察とかではないだろうなと考えた。
これで警察だったらこの国終わりだよ。
だが、彼らの活動が僕をターゲットにここまで続いているという事に相当な違和感を僕は感じた。
夏の始まり……大体5月から今6月までの2か月間、1日も途切れることなく彼らは僕を見張っている。
ここまでの熱心さは仕事でもないと説明がつかないがこの2ヵ月の日給を換算するに24時間を最低賃金で働くと仮定しても、まぁ大体900円くらいはあるだろうしそれに深夜料金なんかも加味して計算しやすいように時給1000円とかにする。すると1日で1人に2万4千円。2人なので倍の4万8千円。細かい数字はどうでもいいので5万に切り上げして60日間。するとこの2ヵ月僕をひっきりなしに監視することで人件費が最低でも300万円はかかっているということになる。
もしもこれが興信所に依頼されたものならば僕を調べるために300万円。おそらくそれ以上のお金を動かして僕を調べていることになる。
それだけのお金を動かして僕を調べるってなんだ? となったので、とりあえず一旦そちらの可能性は保留にして、彼らが営利で動いていない非営利団体……。
つまりボランティアで活動している可能性を考えることにした。
なるほど、ボランティアだとしたらあの適当さにも納得がいくが……そうなってくると何か勘違いや行き違いが起こってる可能性に着目しないといけなくなってくる。
何故ならボランティアでここまで熱心に監視を続けるという事はそれだけ重大事であると向こうは認識しているということなのだ。
ましてや僕の行動範囲はこの地域の中のスーパーとコンビニ程度。
それでこんだけ熱心になるというのはどういうことだ? ますます意味が分からない。
だけどわからないなりにまず僕の行動範囲である所の行きつけのコンビニとスーパーの従業員を調べてみることにした。
調べると口にするとなんだか大仰なことのように感じるかもしれないがそう難しいことではない。
行きつけのスーパーの出している求人とシフトを見てその時間ごとにどれくらいの人の出入りがあるのかを従業員出口とかを見張っているだけでいい。
要するに顔がわかればそれでいいのだ。
僕はスーパーを見下ろせる雑居ビルの猫カフェでコーヒーを啜りながら通販で買った安物の双眼鏡で人の出入りをノートに付ける。
恐らくボランティアなのか監視者たちはこういった経費の掛かる場所までは入ってこない。
僕が毎日このビルに入って猫カフェに入っていくのを見ると彼等はそのままビルの外で待機することになるのだ。
監視者はここで僕が猫と戯れて荒んだ心を癒しているとでも思って居るのだろうか?
僕は比較的おとなしそうな猫の眉間をぐりぐりとしながらコーヒーを飲み干す。
猫の嫌そうな顔が何だか少し面白い。
まぁ1週間もすれば対応してくるかもしれないがその前に僕の目標は達せられる。
その点コンビニは厳しいかとも思ったが深夜は恐らく店長なのだろう……その人がずっとワンオペで朝まで回しているので案外苦労はなかったので雑誌を立ち読みしたりカップ麺を啜ったりしながら1週間で充分に全員のシフトを確認することができた。
しかしここの人物が僕を監視している人物と被ることはなかった。
気になった点と言えば雑誌を立ち読みしている僕とガラスを1枚挟んだ真正面に堂々と車を止めて僕を観察していた監視者たちの肝の太さくらいか。
監視者たちも僕が何かおかしなことをしているという事には気付いているだろうが、恐らく的外れなのだろう。ピンときてない顔をしている。
あるいは監視対象が何かに感づいてもそれを後押しするような変化は与えないものなのだろうか? ボランティアだとしたらプロでもないだろうしそこまで徹底してるのもおかしな気はするけど、とりあえず変化はなかった。
こうなってくると僕が所属してる組織だ。
日本に所属しているため警察……はもうなさそうだなと判断したため後に残るはもっと小さい奴だ。
大学と町内会。
取り合えず手近に感じられる大学から心当たりを洗ってみる。
大学……そう言えば僕は大学を休学する前に同じサークルの後輩から告白されたことがあった。らしい。
と言うのも僕は生粋のロリコンなので成人済みの女の子からの好意なんかにはとんと興味がなく、そのせいで彼女の猛烈なアタックに気が付くことなく、勝手に向こうが振られた気になっていたという話だ。
いや、もう本当に告白とかされた記憶がないけどこれは僕にも非があったのかもしれない。
彼女がせめて14歳ならまだ何を言っているかわかったかもしれないが、残念ながら18歳以上、僕の眼中にはそもそも映っていないのである。南無。
と、こんなよくわからない自慢話も程ほどにして僕が大学を休学しているのは純粋にお金の事情だ。
僕はもう1年以上働いているコンビニバイトをよくわからない理由でクビになってしまい、近場のバイトももうすっかり穴が埋まってしまっているため採用されなかったり充分な時間働けなかったりで今年の授業料を払う目途が立たなくなってしまったため休学しているという現状だ。
幸いその話をすると実家がなんとか学費を工面してくれるという話になったのでそのお金が出来るまでの間は貯金を切り崩しての悠々自適なニートライフを満喫している。
勿論バイトは探さなければならないだろうが前のように学費と生活費両方を工面する必要は無いため適当に友達を頼って少ない時間のシフトを入れて貰えばOKなのだ。
と言うくらいで大学の友人が僕の事を探ってると言うのは考えにくいが一応集合写真などに目を通す。
教員名簿にも目を通すが一致する人物は居ない。
大学に在籍している人数がそれほど多いという訳ではないが全員の顔写真を入手するというのは難しいので網羅するというのは無理だろう。
もしかしたら単位を餌に教授に頼まれているとかの可能性もあるがその場合心理学部とかの実験ということになるのだろうか? 確かにボランティアの真剣さといいその線も捨てきれない。
教授とかはゼミのメンバーを奴隷のようにこき使ったりする人も居ると聞くし彼等が無給だったとしても然程不自然なことはないだろう。
まぁでも無い無い。
大学は無いな。
そもそも実験だったとして一体何を研究していると言うのだ。マシュマロテストのようなことをやらされた記憶はない。
そうやって僕は最後の心当たりに目を向ける。
後は町内会か……。
町内会、そう言えばポストに何かしらの紙が入っていた記憶があるがそもそもとして僕はそういうのに無頓着なので一切気にしてない。
精々自治会館がどの辺にあるか知っている程度だ。
この場合僕を不審者として注目しているという説になる。
痴漢だのをしたことはないがもしかしたら不審者として報告されていたりする可能性はゼロではないだろう。
何せ僕はロリコン。
しかもオープンなロリコンだ。
勿論小学生や中学生に直接話しかけたことはないがこの安普請のアパートで夜には友人と酒盛りなんかをすることもある。
その時に下世話な話になることがあるのだが僕は必ずロリの如何に素晴らしいかを滔々と語るそうで、友人たちにとって僕が筋金入りのロリコンであることが周知の事実であるように、周辺住民にとっても僕がロリコンであることは既に周知の事実なのかもしれない。
つまり地域の子供たちを守るための正義の戦士たちが僕を監視しているというパターンだが、これも考えにくい。
何故なら僕はロリが好きで好きでたまらないが決してタッチしてはいないからだ。なんなら顔だって見ないようにしてる。
精々SNSで天使のようなロリにいいねを付ける程度のことしかしていない。
ちなみに必要ないと思うが僕のストライクゾーンは9歳~14歳だ。
と、余計な情報が入ってしまったかもしれないが、正直ここまでくるともうお手上げだ。
何も心当たりがない。
丁度いい暇つぶしになるだろうと軽く探偵ごっこのようなことをしてみたがそろそろ申請していた休学の期間も明け、復学と相成る。
そもそも実害だって今の所ないのだ、アベックが僕の生活をいくら監視していようが僕に痛痒などはないのだから気にする必要は一切ない。
僕はそう思ってから1つ頷くと台所で蛇口をひねり、ガラスのコップに並々と水を注いでからそれを一息に煽った。
そしてぶっ倒れた。
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