二重レンアイ

瑞々 桃夏

1話 初めての彼女。もう振られそう。

「ちょっと待って!」


 一目惚れした。前代未聞だ。


「?」


 不思議そうに振り返るのは美が3つくらい付くであろう少女。

 夕焼け空バックに靡いた髪。

 きっとそれは絵画だ。


 そう思えるほどに完成されたモノだった。

 

「あの!好き、です!」


 だから私は口走る。

 根拠に基づかない告白を行ってしまう。


「好き?——ってええ!?」


 茹で上がっていく。

 その美少女の顔は下から順に赤に染まってしまう。


「え!私何言って——いやほんとごめん今のなし」


 突発的な告白を後悔しながら先の自分の言葉を撤回した。


「な、無しなんだ。残念」


 美少女は少し残念そうな表情で——


 って——


「え?」


 も、もももしかしてイケる系?

 もしかしなくても!イケる感じ?


 気付いた途端、私の心臓が重低音を奏でてしまう。


「ごめん。こっちこそなんでもない、や。だって『無し』なんだもんね」


 わざと私の気を惹かせるみたいな言い方は気のせいだろうか。


「いやえっと——やっぱりありで!」


 私は撤回の撤回を行う。

 

 私はせこい人間だけど文句あります?


「あ、そう?」

「うん!」


 私はドキドキと美少女の次の台詞を待った。


「ただ『好き』の次のあなたのセリフが気になった、んだ」


 好きの次のセリフってなんだ?

 好きという気持ちを伝えて次は——私がどうしたいかを伝えるってこと?

 

 そりゃあもちろん——


 でも、断られたらどうしよう。


「ひ、ひとつ言っておくと。今の時点での海音のあなたへの好感度は相当高い、よ?」


 そこで私は男になる。

 流石の私でも分かる。こんな他に類を見ないお膳立てをされてしまってはそうならざる終えない。


「えっと!わわわわ、私と付き合って欲しい、です」


 上擦った私の告白は漆黒系お笑い芸人ちゃんの挨拶みたいでたぶん全く男らしくなんて無かっただろう。


 それでもこれは私にとっての一世一代の初告白。

 とっても緊張した。


 ど、どうなるのだろう。

 返事は——


「わ、分かりました」


「え?マジで?マジなの!?」


「う、うん」


 私は飛び跳ねて美少女に駆け寄った。


「う、うん。本当だよ?それともあなたには海音が無責任に告白を受ける酷い人に見えたの?」


「いやだって。こんなお人形さんみたいな女の子が私なんかと付き合ってくれるとは思わなかったんだもん」


「違うよ。『なんか』じゃないよ。今この瞬間からあなたは白谷海音しらたにうみねの恋人だよ」


 トゥンク!私の胸がそう告げた!

 というか海音ちゃんって名前可愛くない?いや、可愛くないわけがない!


「あなたは綺麗だと思うよ。少なくとも海音はそう思うよ」


「海音ちゃん——ありがとっ!」


 私が照れ臭さを押し殺して感謝を述べるとその場に沈黙が流れた。


「あ、えっと。いきなり馴れ馴れしかったかな?白谷さん?それとも白谷様?間をとって白さんの方が良い!?」


 付き合って5秒で別れの危機かも——と思ったがそれは杞憂だったっぽい。


「ううん。海音ちゃんが良い!」


 海音ちゃんは絵になる笑顔を私だけに向けた。


「そ、そういえば。あなたはなんていう名前なの?」


「私は咲野冬さきのふゆ!よろしくね。海音ちゃん」


「分かった!よろしくふゆちゃん!」


 こうして私は海音ちゃんと付き合うことになった。


「そうだ。付き合う前にひとつ断っておくと、海音はすごく忘れっぽいから」

「え?うん?」


 忘れっぽい彼女。うん可愛いからオッケー!

 なんて思っていた。


 そして——次の日のことだ。


 昨日と同じ場所で彼女と待ち合わせをした。

 しかし、時間になっても彼女は一向に現れない。


 不安に思い、昨日教えてもらった連絡先に連絡してみるも連絡はつかず——


「ああ、私。捨てられたんだ——」


 そう悟った。

 踵を返し、帰路に着こうとしたところ。


 視線の先にあの子が——海音ちゃんがいたのだ。

 スタスタと前方を歩く彼女。

 私の方に気付く気配は無かった。


「海音ちゃん!」


 だから急いで後を追い、声をかける。


 ゆっくりと海音ちゃんは振り返った。


 するとまたもやあの光景が作られた。

 昨日と同じ、いや昨日よりも綺麗な光景だった。


 次の瞬間には『ふゆちゃん』と可愛い声で私の名前をを呼んでくれると思って、笑みを作る準備をしていた。


 しかしそうはならなかった。


「馴れ馴れしいんだけど!あんた誰よ」


 鋭く光る眼光。

 それは敵を見据える目線に他ならなかった。


「え?」


 私はただ立ち尽くすことしか出来ずにいる——

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