第35話 故地旅出
「あ~あ」
ポツリ、とミルシが独り言ちる。
「家も、垣根も、畑も。何も・・・な~んにも、無くなっちゃいましたね」
「・・・・・・」
「ラルフさんが、シャランさんが、ガルフさんが・・・み~んなで作って、直して、耕して。いっぱい、いっぱい色々やってきたのに。綺麗さっぱり、無くなったちゃいました」
カラリ、と。それでいて伽藍洞のように空虚な笑みを浮かべながら口にするミルシに、久秀は何とも言えないような顔でそっと近づいた。
久秀としては、目の前の光景が如きは珍しいものでは無い。統治者として数十年、京や、大和、日ノ本の津々浦々でこのようなザマはそれこそ、見飽きるくらいに見てきたものだ。その中には、久秀自身が作り出した光景もある。
が、それはそれとして。絶望と悲しみに打ちひしがれながらも、懸命に元気を保とうとする若人の健気さをおいそれと眺めておれるほど、久秀も大人としての義務を放棄してはいないのだ。
「・・・ミルシや」
「何です?」
「泣いても、良いのじゃぞ」
「・・・きっと、馬鹿にするじゃないですか」
「せぬ。せぬよ」
「ですか?」
うむ、と頷く久秀に、ミルシはどこか照れ臭そうに頭を掻くと、
「でも、ですねダンジョーさん。何故か、理由は分からないんですけどね」
「ふむ?」
「不思議と・・・何ででしょう、泣けてこないんですよ」
「そういうものかの?」
そういうものなんでしょうかね、とミルシは困ったように首を傾げる。
「ここで・・・思いっきりワンワンと泣けたら、この心の痞えもスッとするのかもしれないんですけど。残念ながら、どうやらそうも上手くはいかないようでして」
そう言って浮かべるミルシの笑顔には、確かに強がりめいた強張りは無く。少なくとも、今の発言が本心に依るものなのは間違い無いだろう。
「ダンジョーさんこそ、そういった経験は無いんですか?」
「ふむ、故地が滅んだ経験のう・・・無いの」
「へえ。いっつも、あれだけ人生経験が豊富だって自慢してるのに?」
そう言われても、思い当たる節が無いものは無いのだから仕方が無い。
久秀の生まれ故郷が戦火に巻かれたことは無いし、そもそもミルシのようないい思い出がある訳でもない。辛うじてあるとするなら彼女が手塩をかけて築き上げ、接収された多聞山城がそうかもしれないが、あれが棄却されて以降に久秀がそこを訪れたことは無いから、この場合にはそぐわないだろう。
「自慢なぞしておらぬが・・・果心、お主はどうかの?」
「小生ですか?小生は・・・・・・内緒としておきましょう」
「何じゃ。今更、隠し立てするようなことでもあるまいに」
むう、と不満そうに下唇を突き出す久秀に、果心は呵々と笑うと「では、小生も少し周りを見てきます」と言ってチョロチョロと走り去って行った。
「忙しないのう。して・・・何をしとるのじゃ、スツアーロ」
「おや、バレてましたか」
頭をポリポリと掻きながら背後に生い茂る藪の中から現れたスツアーロに、久秀は困ったように肩を竦める。
「バレるもなにも・・・気配が隠しきれておらぬ。それに念の為、周りを見回って来ると言うたのは、他ならぬお主ではないか」
「それはそうですけれどね。しかし、だとしてもダンジョーさん」
「何じゃ?」
「気付いていたのだとすれば・・・俺以外である可能性もあるのに、えらく余裕でしたね?」
「敵ならば、ガサゴソと自らの位置を暴露する間抜けはおらぬ」
そして、そんな間抜けなら敵でも問題ない。そう、最後まで語らずとも久秀の眼は物語っていた。
「しかしの、スツアーロ。お主がこうして姿を現したとあれば・・・」
「ええ。少なくともこの周辺には、ダンジョーさんの邪魔をする者はいません」
単に「敵がいない」と言えば良いだけなのに、随分と回りくどい言い回しをするスツアーロに、ミルシが「むう」と柳眉を燻らせる。尚、平然としていたことから分かる通り、彼女もスツアーロの接近に気付いていたことは言うまでもない。
「それと、聞かれる前に言っておくぞ、ミルシ。あの村の皆があの一党にいるわけじゃない。他の、荒事を好まない人たちは遠縁を頼って他の村に行っちまった」
「ああ、そうなの。じゃあ、コッパンさんとかも・・・」
「いや。あの人は死んだ。殺されたよ」
あっさりと、顔色を変えずにそう言ってのけるスツアーロに、ミルシはどこか悲しそうな眼を向ける。
「スツ・・・アンタ、変わったのね」
「好む、好まざるとな」
「・・・ふうん」
「どうした、幻滅したか?」
「別に。・・・ま、アンタがそうそう筋目を変えることは無いでしょうから、クドクドとは言わないけど。ただ・・・忘れて無いでしょうね?」
「勿論」
「なら、良いわ」
言下に返されたスツアーロの回答に満足したのか。ミルシはそう言うと大きく背筋を伸ばし、
「じゃあダンジョーさん、私も自分の家の跡を見て来ますね」
と、久秀が『はい』とも『駄目』とも言う前に足早に村の奥、ミルシとライの家があった所まで駆けて行った。
「やれやれ、落ち着きがないのう。あれでは嫁の貰い手が無いぞ?」
のう?と意味深な目配せを送ってくる久秀の視線から、スツツアーロは頬を真っ赤に染めて目を逸らす。どうしてこれだけ分かり易い反応をするというのに、肝心要のミルシにはその心が通じないのだろう。
「・・・まあ、そう言いますけどダンジョーさん。ミルシも、あれで良く気が利くんんですよ」
「かの」
「ええ。今も・・・ひょっとして、私に気を使ってくれたのかも」
しれません、という語尾を口の中で転がしつつ、スツアーロはその場にどかりと腰を降ろした。それに倣って、同じように久秀もその場に腰を降ろす。
「では、ダンジョーさん。お話ししましょう」
「うむ、聞かせて貰おう。何故、お主が野盗の頭領なぞに身を窶しておるのか、をな」
「・・・まず。その『野盗』、と言うのは少々語弊が」
「ふむ。では、何と?」
「そうですね・・・レジスタンス、と呼称するのはどうでしょう?」
照れ臭そう頭を掻くスツアーロだったが、困惑したような顔で小首を傾げつつ「れ、れじ・・・?」と鸚鵡返しに言葉を返す久秀に、「おや?」とこちらも小首を傾げて見せた。
「ご存じない?」
「う、ううむ・・・いや、ある!この博覧強記の儂の頭じゃ。き、きっと、あるはずじゃて!」
しかし、いくら頭を揺さぶってみても、久秀の知識の中にその存在を上手く言い表す単語が無い以上、無駄だ。形の良い指で艶やかな頭髪をわしゃわしゃと掻き回す彼女を見かねて、スツアーロは助け舟を出す。
「まあ、俺も正確なニュアンスは知らないんですけど。確か、北辺由来の言葉で『攻めて来た勢力に反抗する地元民』を指す言葉だとか」
それを聞いて、頭を掻き回していた久秀の指が止まった。
「俺たちはこれでも、村を取り戻すためにあんなこんなをしてる訳ですから。大きくは外れていないと・・・あの、どうしました?」
「いや、何でも無いぞ?」
「それが、何でも無い顔ならむしろ心配ですよ。どうしたんです?」
彼が重ねて尋ねるのも無理は無い。今の久秀の相貌は、苦虫をダース単位で噛んだような
「何でも無いと言っておろう。ただ・・・ちくと、嫌な連中を思い出しただけじゃ」
そして、久秀がそんな顔になってしまうのも無理は無い。なにせ、彼の人生は寺社勢力やら国人一揆、元亀動乱では一向衆といった統治に反駁する連中へ散々と悩まされてきたのだから。
「仰る通りに。この方の百面相をいちいち気にしていては、貴方の気がもちませんよ?」
「お主は言いようを少しは気にかけよ・・・待て、果心」
「何でしょう?」
「お主、いつからそこに?」
ちょろり、といつの間にか尻尾を丸めて座る久秀の膝の上に陣取っていた果心は、「さあ?」と相変わらず人を喰ったような返答をした。チラと横目でスツアーロを見れば、彼もギョッと目を見開いていることから、どうやら彼も感知できていなかったらしい。
「それと松永殿。少しお耳を・・・」
そう珍しく断りを入れてから、果心は久秀の耳元で何かをこしょこしょと囁く。すると、それを聞いた彼女の眉が興味深そうにヒコヒコと動いた。
「成程の。『言いしばかりに長月の』・・・か?」
「ええ。『有明の月を待ち出でつるかな』・・・と。貧すれば鈍する、或いは尽くれば智の鏡も曇る、といったところかと」
「やも、しれぬの」
「えっと・・・それは一体?」
いきなり交わされる符丁らしきやりとりに、スツアーロは困ったような苦笑を浮かべつつ、小首を傾げる。
「お主は知らぬで良いことよ。それより・・・スツアーロや」
「何でしょう?」
「お主があの村・・・イズサン村を再興したい、と考えておるのは今の言葉と、そのれ、れじ・・・」
「レジスタンス」
「そう、そのれじすたんすとやらの呼称で分かったがの。実際にお主らは何をしておるのじゃ?」
「なにと言われれば・・・まあ、彼の西方騎士団、とやらの妨害をしたり、物資を奪ったりと・・・言ってみれば、子供の悪戯の延長ですかね」
朗らかに笑ってみせるスツアーロだが、やられる側だった久秀にしてみれば笑い事ではない。いち寒村の若衆の決起だからこそ、その程度の被害で済んでいるとも言えよう。
「いや、中々良い手の打ちようじゃと思うぞ」
「ですか?」
「うむ。じゃが・・・もうちくと、手勢がおらぬと厳しいかの。この辺り、他に村は・・・」
「ありましたが・・・まあ、状況は同じですね。もっとも、あちらはイズサン村より大きな村落だったのでここみたいにされず、拠点として活用されているという噂ですが」
聞くところによれば、西方騎士団とやらは労働力も自力で調達して来ているらしい。村民や地元民が農奴としてこき使われてないことは朗報でもあり・・・言いたくは無いが、悲報でもある。何故なら、扇動する相手がいないということでもあるからだ。
「ですので、ダンジョーさんたちもあまりこの辺りをウロチョロしない方が」
「分かっておる。儂とてこの歳になってまで匹夫の勇を気取る気は無いでの。して、スツアーロや」
「何です?」
「その話をするのに、如何で儂らをここまで来させたのかの?」
「それは単純に、この様子を見れば俺たちが嘘を言って無いことが分かるでしょう?」
「そこは別に、疑うてはおらんかったがの」
怪訝そうに眼を細める久秀に、スツアーロは「貴女じゃないですよ」とカラリと笑う。
「俺が見せてやるべきだと考えたのは、ミルシの方です」
「それは・・・悪趣味でのうて、じゃの?」
「そんな訳無いでしょう、常識的に考えて」
聞かれたらどうするんですか、と青い顔をして物凄い勢いで首を左右にふる様子から鑑みて、どうやらそこにも嘘は無いらしい。
「ただ、ここがこんなザマになったこと。それを実感しない内には俺がこんなことをしているのを、認めてはくれないでしょうから」
「なる。されば、儂はあ奴のおまけと?」
「俺としては。あ!そうだ・・・ダンジョーさん、その、このことはどうか、貴方のお知り合いの方にはどうか内密に」
「分かっておる。クリ坊は別に儂の主君で無し、何彼構わず伝えてやる義理は無いあからの」
安心せい、と言った途端に。まるで図ったかのように、彼女の内懐にて水晶玉がブルブルと脈動した。
「・・・むう」
「ダンジョーさん、どうかしました?」
「今、丁度話しておった奴からじゃろう。ちくと待て」
それでも、僅かな期待を胸に水晶玉を取り出した久秀だったが、
「俺だ」
「やはり、貴様か」
案の定、聞こえてきたクリスフトの声に、忌々しそうに舌を打つ。
「随分と、ご機嫌が斜めだなダンジョー。月のものか?」
「次、それを言うたらこの水晶玉、叩き割るからの。して・・・」
と、久秀は口の前に指を立てつつ、
「すまんの。厄介な奴より連絡が入ったでの、ミルシには下で待っておる旨、伝えてくれぬか?」
そう、スツアーロに申し伝える。それを見て、聞いた彼が無言で首肯したのを確認し、久秀は村から出る道をスタスタと歩き出した。
「それと、若しあ奴が無理じゃったら、お主が伝えてくれても良いからの」
最後に、その言葉を付け加えて。
「・・・あれ?」
サク、サクと落ち葉を踏みしめてミルシが戻って来た時、そこに久秀の姿は無く、ただ手持ち無沙汰に立つスツアーロだけだった。
「スツ、ダンジョーさんは?」
「お偉いさんから『また』連絡が入ったみたいでな。聞いちゃ拙いかもしれんから、外で話してるってさ」
ウンザリって顔してたよ、と、スツアーロは大仰に肩を竦めて見せた。
「それで。ミルシ、なにかあったのか?」
その問いに、今度はミルシが肩を竦めて返す。
「何にも。物語なんかだと普通、こんなシチュエーションなら秘密の隠し場所から、秘伝の武器なんかが見つかるものなんでしょうけど」
「まあ、あの爺さんの性分から考えると・・・そんなの、ある訳ないなぁ」
「ご明察。スツにしちゃ賢いじゃない」
「しちゃって・・・ん、じゃあミルシ。それは?」
「これ?ああ、これが、唯一の収穫よ」
そう言ってミルシが開いた掌の中には、真っ赤に塗られた鏑矢の先っぽが1つ。よく見れば、塗料で塗り隠した中に真一文字に走る亀裂が見える。
「壊れた鏑矢?あ!その色は、確か・・・」
「そ。爺様が使ってたのを私が踏んで壊しちゃって、色を塗って玩具替わりにくれたものよ」
そう語るミルシの顔は、当然だがどこか懐かしそうな色に染まっていた。
「そうか。流石に奴らも、そんな壊れた狩猟具まで持ってったりはしなかったみたいだな」
「みたいね。けど、それ以外は・・・」
「ああ。俺も何度か見て回ったが・・・アイツら、使えそうなもんは根こそぎ持って行きやがったからな。俺んちも似たようなもんさ」
そして、それを全ての家々に行った結果が、このイズサン村の現状という訳だ。国破れて山河ありは結構だが、それは傍から見た第三者だから言えることだろう。
少なくとも当事者たるミルシはそんな風に、呑気に詩を詠めはしないし、スツアーロもきっとそうだろう。
「で、スツ」
「何だ?」
「アンタはここを取り戻そうって、頑張ってるってこと?」
「・・・聞こえてたのか」
気まずそうに顔を逸らすスツアーロの頭を、「何言ってんのよ」とミルシは軽く叩いた。
「聞かなくったって分かるわよ。何年の付き合いだと思ってんの?」
そう言ってカラリと笑う笑顔は、スツアーロの記憶の中にある数ヵ月前、そして何より数年来の付き合いの中で見せてきたそれと寸分と違わず。正に、太陽のような笑顔で。
トクン、と彼の心臓が情愛・・・よりももっと強い感情に依って大きく跳ねた。
「あの・・・さ」
だから、ではあるまいが。おずおずとスツアーロは切り出す。
「なに?」
「俺が何をしようとしてるのか、それは分かってくれたんだろうと、思う」
「え?ええ、まあね」
「それで、だミルシ。お前も・・・お前も、それに協力してくれないか?」
パチクリ、と瞬かせた目で見るスツアーロの向こうから、ヒョウ、と大きな風が吹いた気がした。
「それって・・・西方騎士団と戦うってこと?」
「そこまでは言えない。少なくとも、正面切っては戦えない、まだ」
無力感で、握った拳がワナワナと震える。
「だけど・・・だけど、きっと。きっと、いつか。いつかは果たす、果たして見せる。だから!その、ミルシも一緒に・・・一緒に、やっていってくれないか!?」
「それは・・・」
「頼むよ!俺だけじゃない、きっと皆も、お前が加わってくれれば喜ぶ!」
そう言って、グッと彼女の手を握り締めた彼の手から伝わる熱意が、その言葉が嘘偽りでないことを百の言葉より雄弁に物語っていた。
それに。
(戦う。つまり、それは・・・それは?)
それはつまり、村をこんな目に遭わせた連中を叩く・・・もっと言えば『殺す』ということだ。
それはつまり、この惨状を見た時に感じた悲しみを、怒りを、無念を、その全てを奴らにぶつけることが出来る、とそういうことだ。
それは、つまり・・・。
(この想いを、恨みを・・・晴らせる?)
ぞわり、と背筋に何かが走る。
むわり、と頭の奥で何かが騒めく。
ぼわ、と仄暗い炎が心の中に芽生える。
「で、でも・・・ダンジョーさんが」
「大丈夫だ。俺が伝える」
「アンタが?無理よアンタじゃ、あの口の上手い・・・」
「あの人は・・・言ったんだ。お前が無理なら、俺から伝えてくれって」
え?とミルシは大きく目を見開いた。
「それって・・・」
「ああ。若し、俺がお前を誘って、それが受け入れられたのなら・・・と、俺は受け取った。それはつまり、あの人もそれを認めてくれてるってことじゃないか?」
つまり、彼女もこの、ミルシの心の中に芽生えたこの怨讐の念を認めてくれているということ。
(・・・なら)
この手を取って、この道を
「なあ、ミルシ!」
だけど、しかし。
「ゴメン、スツ」
そう、絞り出すように呟いて、ミルシは彼の手を振り解く。
「・・・え?」
「悪いけど・・・私はその道は、歩けない。今は」
「そ、それは?」
「それに・・・きっと、私はその道を、この想いで歩いちゃいけないの。だから・・・ごめんなさい」
愕然とするスツアーロを真正面に見据えたまま、彼女は彼から目を逸らさずにそう告げた。恨みを晴らし、村を取り戻す。それは、きっと楽しいに違いない。きっと嬉しいに違いない。きっと、愉しいに違いない。
けれど、この恨みを抱えたままに動いてしまえばきっと、悲しいことになるに違いない、だから。
だから、ミルシはスツアーロの誘いを断った。
「じゃあ・・・行くね、スツ」
俯くスツアーロへそう伝え、ミルシは村の出口へと、久秀の待つ方へと歩き出す。すると、
「ああ。さよならだ、ミルシ」
ぐい、と両眼を袖で拭ったスツアーロが、そう言って朗らかな笑顔を彼女へ見せる。
「でも・・・でもさ。また、会えるんだろ?」
「また?」
「ああ。俺たちはずっとここにいる。だから、お前の心が落ち着いたら・・・会いに来てくれよ!」
強がりのような、それでいて屈託ない笑顔に、それを受けたミルシの顔にも笑顔が戻る。
「ええ、ええ!きっと、きっといつか戻って来る。戻って来るから・・・それまでに、精々男ぶりを磨いておきなさい!」
そうだ。これを、今生の別れとする必要はない。彼女の心に宿る復讐心が霧散してからでも、スツアーロか、それとも他の要因かでイズサン村が戻ったのなら、彼女が彼の手を掴みに戻ってくることに何の衒いも必要は無いのだ。
「じゃあ、また!」
「ああ、またな!」
だから、彼女は村の出口で振り返ると、手を振るスツアーロそう言った。
いずれ、しかし必ず。この場に戻ってくるという誓いを込めて。
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