第19話 懐中秘白

 やれやれ、どうなることかと思いました。

 しかし、この地の魔術師も中々なものです。これまで出会った魔術師と名乗る連中の腕ならば松永殿を破ることなぞ出来ぬ、と高を括らせてもらっていたのですが。

 いやあ、甘かった、甘かった。

 それに、松永殿の状態を見極めることが出来るのは、この術を用いた小生だけだと自負していたのですが・・・いやはや、どうやらこの地の人間の技量に対する認識を改めなくてはなりませんね。

 それにしても、本当に今回は危ないところでした。

 松永殿は、あれで生き汚いのを厭う御仁ですから。あそこでミルシ嬢の助太刀が間に合ってなければ、まず間違いなく死を選んでらっしゃったでしょう。

 まったく、勿体ない。

 こんな機会は中々与えられるものでは無いというのに、危うく今までの苦労が水の泡になるところでした。困ったものです。

 今度からこのようなことが起こらないよう、出来るだけ松永殿と離れることはしたくは無いのですが・・・いえ、駄目でしょうね。

 あの方はそういったことには敏い方ですし、小生も戦については素人です。戦術的な面については嘴を挟めません。

 ですから・・・そうですね。あのミルシ嬢が、良い塩梅に働きそうです。松永殿も彼女にはあまり強く出れない様子ですから、良い制止役として扱えそうです。

 それに、次に向かう場所は彼女にとっても因縁の地。ややもすると、ミルシ嬢からも結構なモノを頂くことが出来るかもしれません。楽しみです。

 それにしても、松永殿とはもうかれこれ30年以上の付き合いになりますが・・・よくもまあ飽きさせてくれないものです。小生としては珍しい話ではありますが・・・若しかすると、小生がここまで肩入れしたお方は初めてでは。

 いえ、それはありませんね。忘れるものですか、あの御人だけは。


 さて、そろそろ転移の術に使う要石に着くころですから、泡沫の夢から現世に帰るとしましょう。

 しかし、自身の状態を知ってしまった松永殿は、これからどうしていかれるのでしょう。

 使い勝手の良い言い訳として使い、己を誤魔化していかれるのか。

 飽く迄己は己を貫かれて、女子の如き所業に向き合い傷ついていかれるのか。

 諸々悉くが小生の仕業と看破して、諸共滅そうとされるのか。

 それとも・・・それとも?

 ああ、どちらにせよ、どうなるにせよ。きっと、あの御仁は小生を愉しませてくれるでしょう。

 小生を牛馬のようにこき使うでしょう。

 虚無に生きる小生に、生きる実感をくれることでしょう。

 

 それが、堪らなく楽しみです。

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