第15話 藤原秀郷
「魔術の始動を確認しました。始動の反応から経路を割り出しま・・・した」
「早いですね。でも、なら・・・ここからはコソコソしなくて良いんですね?」
「ええ、仰る通り。派手に行きましょう」
その言葉に、ミルシは待ってましたとばかりに潜んでいた階段下から飛び出し、風邪のように駆け出した。
「グ・・・グウ?」
「グア?」
「グア?・・・ウググ」
離宮のあちらこちらからは困惑と怒号がない混ぜになったようなグールたちの声が飛び交っている。しかし、そのお陰でミルシが多少バタつくような音を出しても気付かれずにいた。
「・・・っと」
その目の前に、のっそりと立つ1体のグールが背中を晒す。絶好の標的に矢筒から矢を抜きかけたミルシは、しかしそのグールがいる場所を見て思わず舌を打つ。
そいつがいるのは階段の前。そんな奴を射倒せば、まず間違いなく階段から転げ落ちて大きな音を立てることだろう。
「シッ!」
だから、ミルシは気付かれるより速く、静かに近づいてその膝裏を思い切り蹴りつけた。
「グ!?」
人体の構造から、当然に膝を無理やり曲げられたグールはそのまま仰向けに倒れる。そこから流れるような動きで、ミルシは驚きで白黒させる目の下にある喉元に弓端の刃を突き立てた。
「グフ?」
あまりの素早さに、そのグールは自身の身に何が起こったのか察することすら出来なかっただろう。ただ、最期に驚きで目を大きくひん剥いて、そのままガックリと力尽きた。
「・・・うぷ」
しかし、そのあっけなさとは裏腹に、その単純なまでの死に様と感触は彼女に自分が『殺した』ことを自覚させるのに十分で。臓腑から湧き上がる酸っぱい味に、ミルシは何とかそれを口と掌で外に出すことを押し留める。
「大丈夫ですか?」
「い、いえ・・・はい。すみません、今更」
そう、彼女は元々が狩人であるのに加え、これまでも数多の人命を奪ってきた。それが今回に限ってこんな生娘のような反応を見せてしまうのは、それこそ彼女の言う通り今更だ。
「構いませんよ、気にしません」
が、それに対して果心は「それでよい」とその未熟を肯定する。
「でも・・・」
「第一、小生も松永殿も、貴女がそれに慣れることは望んでいませんから。それに・・・」
「に?」
「いえ、何でもありません。それより」
「え?・・・って、あ!」
倒したあと、ボヤボヤし過ぎた。廊下の先から、こちらを見つけたと思しきグールが「グアウ!」と大声を出してこちらを指さしてがなっていた。
「チッ!」
舌を打つより早く、ミルシの弓が唸りを上げる。そしてその弦がピュンと軽やかな音を立てる頃には、放たれた矢はそのグールのコメカミへと突き立っていた。
が、やはり咄嗟の行動には限界がある。一撃で仕留める為に放たれた矢の勢いはグールに刺さるくらいでは低減されず、その勢いのままにグールの死体を派手に転がしていった。先に叫んでいたことと併せて、さぞやミルシたちの存在を高らかにアピールしてくれることだろう。
「しまった!?」
「いえ、どの道です。松永殿の状況を鑑みれば、惜しまれるは時間ですから。割り切って行きましょう」
つまり、コソコソしている時間は無い。ならば今発見されるのとこの後発見されるのに、何の違いもあるものか。
「そう・・・ですね。案内は任せます」
「お任せを。地図は頭に入っていますし、起点の位置も特定済みです。まずは、この右の廊下を真っ直ぐです」
「では!」
弓を小脇に抱えると、その体勢のままミルシはスタートダッシュを切る。
そうとも。彼女がそうこうしている間も、久秀はグールの大群と戦っているはずなのだ。それがどれほど無茶で、どれほど無謀かはあの夜に3人でとっくり話し合った。
「・・・はず、なんですけど」
「何か?」
「いえ、繰り言です。極めて個人的な」
けれども、ミルシの脳裏にはあの時、もっと上手く言えたのではないかという後悔がこびり付いていた。
「・・・こんな風に自分を粗末に扱うなんて、合流したら引っ叩いてやるんだから」
「・・・・・・はい?」
パチパチと竈の残り火が爆ぜるのを背に、ミルシはパチクリと眼を瞬かせた。
「何、って?」
「何じゃ、難しいことは言っておらぬぞ。ただ、『儂が派手に暴れて回る故、その間に2人で敵陣へ忍び込め』と言うただけじゃ」
「いえ、そうじゃなくて・・・やっぱり、そういう意味なんですね」
「当たり前じゃろう」
何を言っておる、とキョトンと小首を傾げる久秀とは対照的に、ミルシは額を押さえて軽く被りを振った。
「まず、1つ。忍び込むって言ってもどこからです?裏門はダンジョーさんが使うってことですし、正門は・・・そう簡単に忍び込めるなら、こんな手は使いませんよね?」
先に述べた通り、この離宮へ入るには正門と裏門からのルートしか無い。そして、その両方が駄目ならどうする、というのは自然な疑問だ。
「簡単な話じゃ。そのどちらも使わずに、じゃ」
しかし、久秀はそんな回答をさも簡単に言ってのける。まあ、本人が簡単だ、と枕詞を付けた回答の述べ方が小難しい方が問題だが。
「え・・・と、はい?」
「じゃからの」
まるで察しの悪い教え子を導くように、久秀は地図を指し示す。
「確かに、お主の言う通り。この離宮へ入る門はこの2つしか無いが・・・『入り込む』のなら別じゃ、
「え、ええと・・・つまり?」
「つまり、松永殿はこう仰っているのです。忍び込め、と」
その助け舟に、ようやくミルシも「ああ!」と頷いてポンと手を打ち合わした。
「果心、お主のう・・・こ奴が自ら導き出さねば、意味が無かろうに。まあ、良い。それでじゃの・・・ここが仮に敵の要害なら、そんなことは流石の儂も軽々には申さぬ」
気を取り直して、久秀は地図上の離宮の外縁をぐるりとなぞる。
「じゃが、ここは飽く迄元離宮で、今も貴族の別宅じゃ。このように周りも塀に囲まれておるとは申せ、櫓や出城、狭間や虎口が設けられておる訳では無い」
「つまり、防衛用の施設じゃないから、突破は容易く・・・無い、ですよね?」
「当たり前じゃ」
言葉は厳しく、されど表情は柔らかく。
「腐っても元離宮、つまりは王族の過ごす場所じゃからの。その備えは万全であったろうし、今は貴族の別宅じゃ。そこに抜かりがあろうはずもない。が・・・」
「だからこそ、付け入る隙がある、と」
うむ、と久秀は静かに頷く。
「儂の見込みではこの地点、丁度裏門を北と見て東南東のここが狙いめじゃ」
「ここは・・・森、いや庭ですか?」
「そのどちらも正しかろう。塀を乗り越えて直ぐに鬱蒼と茂る木々が植わっており、それを上から望めるように出窓、『てらす』じゃったか?が設けられておる。忍び込んでくれ、と言わんばかりにの」
「でも、見張りくらいはいるんじゃ?」
「うむ。恐らくはここと正門までの中間点にある棟に見張りがおろうが・・・お主の腕なら問題はなかろうて」
「・・・簡単に言ってくれますねぇ」
「囮になるよりは簡単じゃろう?」
そう言われれば、ミルシからはぐうの音も出ない。
「それに、果心もお主に付けてやるでの。お主の隠形とこ奴の術があれば、人ひとりが忍び込むくらいは容易かろう」
「って!カシンさんも一緒ですか!?」
「不服かの?」
「不服ですか?」
まったく同じタイミングで、1人と1匹は怪訝そうな声を漏らす。
「じゃなくて!ダンジョーさんは大丈夫なのかって・・・その」
「儂か?まあ心許なくはあるが、こ奴には重要な仕事があるでの。仕方なくじゃ」
「仕事?」
「ええ。魔術を感知して、その起点を探し出すのは小生にしか出来ませんから」
久秀の作戦はこうだ。
第一段階。ミルシと果心で離宮へ侵入。時間としては夜間、或いは明け方が望ましいが、第二段階の都合と見張り兵を射殺する以上、交代の点呼が終わってからの方が望ましいため日が明けてしばらくしてからの侵入とする。
第二段階。久秀が周囲に存在する見回りを打ち破りながら、丁度西側を迂回するようにして裏門を目指す。これはミルシたちから目を逸らす為である。その後、裏門前と川の間にある出丸、若しくは曲輪のような場所で出てくるグールを殲滅する。
「そして、出てきた魔術師に術を使わせて起点を探り、そこを私が目指す・・・と。使います、魔術?」
「そのための大暴れじゃ。儂が『ぐうる』を倒して倒して倒しまくれば、それを蘇らそうとするじゃろう」
「ああ、成程。そういかなかったら?」
「出て来ぬ場合は、そのまま裏門から侵入してお主らと合流すれば良い。仮に敵の防衛網が濃くてそこまで辿り着けなんだ場合も、その時は外で暴れまわれば良いだけじゃから問題は無いの」
「・・・問題しか無い気がしますけど」
「じゃが、兵法における陽動策としては基本中の基本じゃぞ?」
彼の韓信将軍はワザと敵城の前で川を渡り、それを侮って出撃してきた敵軍を誘引して時間を稼ぎ、その隙に別動隊を以て敵城を落とした。
所謂、背水の陣の語源である。
「でも・・・」
「ミルシ嬢、無駄ですよ。この人はこうと決めたら梃子でも動きません。策士気取りの策謀家気取りですが、本質は武家をやりたくて武士に成った頑迷な人ですから」
「・・・せめて、頑固と言わんか。人聞きの悪い」
しかし、その表情とこれまでの経験から、その言葉が正しいのもミルシには良く分かる、分かってしまう。
「じゃあ、1つだけ。・・・・・・死ぬ気は無いんですよね?」
「当たり前じゃ、儂を誰じゃと思うとる」
そう言い切る久秀の顔には一毫もの衒いも迷いも無く、だからミルシもそれ以上の再考を促すことも出来ず。
「・・・そして、今に至る。と」
「心を読まないで下さい!」
立ちはだかるグールへ射かけつつ、ミルシは果心へと怒鳴った。
「はは、これは失敬」
本当に失敬だと思っているのだろうか。そう考えてしまうほどに、その言葉は軽い。
「それよりミルシ嬢、目的地付近です」
「付近じゃ分かりません」
「正確に言えば、そこの角を曲がったドアの奥ですね」
「って、わぷ!」
ナビゲートに従って角を物凄い速さで曲がったミルシは、歯牙の距離にあったドアへと顔を打ち合わせた。あと一寸でも足のブレーキが間に合わなければ派手に衝突していたことだろう。
「おや、止まれましたね」
さも意外そうに呟いた果心を、ミルシは荒々しく掴み取って壁へと投げつけた。
「ちょっと、危ないじゃないですか!」
「はは、怒らない、怒らない。一寸した悪ふざけじゃないですか」
「その悪ふざけで私が怪我したらどうするんですか、もう!」
プンプンと怒りながら、それでも注意深くドアノブへ手をかけようとするミルシを、果心が「待って下さい」と今度は真剣な声音で止める。
「今度は何です?」
「この扉の向こうから、妙な気配を感じます。馬鹿正直に開けない方が宜しいかと」
そう言われて、ミルシはドアとドアノブを睥睨するが少なくとも罠の気配は無い。
しかし、ミルシは知っていた。この果心という人物がこうした声音で注意する時、それは悪ふざけでも驚かしでもない本心からの注進であることを。
「でも、開けないといけませんよね?」
「ええ。それは当然です」
「・・・なら」
試しに革のブーツをノブに掛けて軽く揺すると、立て付けは良いのか揺るぐ感触は無いが、代わりに鍵がかかっている感覚も無い。そして、その動きで、中で誰かが動く気配も無い。
「いきますよ?」
「はい。いつでもどうぞ」
念のためピンと尻尾を立てて警戒する果心が落ちぬよう、されど万力の力を込めて。
「いっせーのっせ!」
古来より伝わる
「う!?」
「こ、これは?」
術士としては腕利きの果心、それなりに修羅場を潜ってきた狩人のミルシの両名が揃って面喰ったのも無理は無い。
「これは・・・夜?」
そう考えてしまうほど、その部屋の中は闇に沈んでいた。
「いえ、ミルシ嬢。これは・・・煤ですね」
「す、煤・・・ですか?」
「ええ。足元を見て下さい」
その言葉にミルシが見た足元にはドアへ立て積もっていたと思しき一塊の煤が外へと零れ出ていた。それにそう言われてみれば、部屋の中からはフヨフヨと黒い粒が廊下へと迷い出ていた。
「これって・・・何で?」
「この匂いから恐らくは、獣脂蝋燭から出た煤に違いありませんね。ですが・・・待って!」
「はい?」
「入らないで!恐らくは、この煤・・・いえ、間違いありませんね。魔術的な細工がされています」
「・・・細工」
真剣な顔で顎に手を当てて独り言ちるミルシもまた、最早素人では無い。今までの久秀たちとの仕事から、その内容について思案を巡らせる。
「確認です、カシンさん。この部屋が魔術の起点であることに間違いは?」
「ありません」
「・・・では、次。この中に敵の魔術師やグールは?」
「感じません」
なら・・・と、そこでミルシは自身の脚を見る。さっきまでとは打って変わって立ち止まったままの脚を見て・・・。
「足止め」
「でしょうね。恐らく、入り込んだら酷い目に遭うことでしょう」
罠としては甚だ消極的な罠だ。だが、敵としてはこの部屋の起点を潰されなければ・・・いや、自分が久秀を打ち倒して戻ってくるまでここに入られなければ良いのだ。ならばこの程度の罠でも構わないのだろうし、事実としてミルシたちは貴重な時間を浪費し続けている。
「カシンさん、起点の場所は分かります?」
「一寸待って下さいね・・・・・・確認終了。間違いありませんミルシさん、敵の術式の起点はあの宝石です」
「あの・・・って、どれ?」
「お待ちを。小生の視ているものを貴女も見えるよう、細工します」
「う!?視界が・・・ん、見えました!けど・・・アレですか?」
そう問い直したのも郁子なるかな。果心の術でミルシも見えるようになった宝石はしかし、遥か彼方に輝く星ほどに小さくしか見えない。
「ええ。当然、この部屋がそれほどまでに広いはずがありませんから、その煤に乗せた魔術のせいでしょうね」
そう、と言葉だけを返したミルシは、既に行動に移っている。慌てず、されど素早く筒から矢を掴み出す。
「・・・待って下さい、射る気ですか?」
「はい。あれが何にせよ、壊せば敵の魔術は止まるんですよね。なら・・・」
なら、ミルシのすることは1つだ。出来ることも1つだ。
「なら、やるしかないでしょう?」
「・・・分かりました。ですが、その矢では少々心許ない。これをどうぞ」
そう、半ば諦めたような果心がどこからか取り出したのは、1つの鏃だった。
「これは?」
「鏃です。・・・で無し、松永殿に言われて小生が付術をしておいたものです。気休め程度ですが」
「へえ・・・って、いうことは」
「ええ。この状況も予期していたということでしょう、あの人は。もっとも、本人は『何でも拾っておくものじゃ』なんて言って笑ってましたが」
よく見れば、その鏃にある凹みからその鏃はあの時、久秀が拾っておいたソレに相違ない。
「まったくもう。それならそうと、言っておいて下さいよねぇ」
「まったくです。これだから他人に誤解されるんですよ、あの御仁は」
「まあ、助かりましたけど、ね」
ブツクサ言いながら、ミルシはその鏃を矢に嵌め込む。小憎らしいことに、その大きさはミルシの矢にピッタリと合う。
「さて・・・と」
「しかしミルシ嬢。小生の術で手助け出来るのは飽く迄当ててからの話です。それまでは・・・」
「分かってます」
そう、彼女はあの、小石の1粒にしか見えない宝石に矢を当てなければならないのだ。それも、試射もなしに。
「見取り図から察するに、部屋自体の大きさは普通の部屋です。見た目通りの距離では無いので、いつも通りの射方で問題無く届きはするでしょう、届きは」
「念を、押さない!」
多分、部屋の中央に据えられた。見た目は那由他の彼方に見える、魔術をもたらす要石。
それに
・・・射たるだろうか。
・・・間違えないだろうか。
・・・外したらみんなは、ダンジョーさんはどうなるのか。
辞めたい、逃げたい、帰りたい。そんな、汚泥のような渇望がドロドロ、ドロドロと足元に縋りつき、這い上がる。気持ち悪い、されど委ねたい、そんな感情。
「・・・駄目!」
ブンブンと、ミルシはそんな考えを振り切るかのようにかぶりを振る。そして、その手に持つ番えかけた矢をミルシはそっと外し、鏃の付け根に軽く口づける。
「ナム・ディージ・キューグ・クナーン」
それは、爺様から受け継ぐおまじない。外すべきでは無い時、射るならば絶対に射てなければならない時のおまじない。
「よし」
ギリギリと弓を引き絞る中で、芽生えかけたドロドロは掻き消える。ダンジョーさんのことも、怪訝な顔で仰ぎ見るカシンさんのことも、ミルシの頭の中からは消え失せた。
「我が矢、例い善たらずとて・・・この矢、射てさせたまえ!」
ひゅん。自分でも経験の無いほどに、その矢は見事に飛び放たれた。その飛びようは自分の想定から寸分の狂いも無く、吸い寄せられるように宝石へと導かれ、そして。
「やった!」
カキン、と高い音を響かせて、鉄製の鏃と宝石がぶつかった。そして、それをトリガーとして鏃に仕込まれた術が作動し、宝石を粉みじんに打ち砕く。
「お見事。・・・っ、隠れて!」
「ひゃ!?」
果心の忠告に、咄嗟にミルシが曲がってきた角へと転がり込んだ、次の瞬間。部屋の中で大きな爆発が起こった。その衝撃で窓ガラスという窓ガラスは全て割れ飛び、部屋の中に堆積していた煤が窓から扉から撒き散らされた。
「な、なんですかぁ!?」
「それより、あれに巻き込まれないよう、急いで!」
「ああ、もう!」
もうもうと廊下を伝ってくる煤から逃れるように、ミルシはもと来た道を駆け戻る。そして見えた1室の扉を同じように蹴破って突入すると、直ぐさまにそれをバタンと閉じた。
「はあ・・・はあ・・・これで?」
「ええ。もう大丈夫でしょう」
その言葉に、ミルシはドアを背にしてへたり込む。
「はあ・・・ふう。これって、カシンさんの術のせいじゃ・・・」
「失敬な、違いますよ。恐らく、あの部屋で何らかの反応があった場合に作動する罠だったのでしょう。しかし・・・」
珍しく、と言うより初めてではないだろうか。果心は訝しむような、呆けたような口ぶりでこちらを見遣る。
「何です?」
「・・・いえ、何でも。それより、計画通りに離脱しましょう」
久秀の立てた計画では、ミルシと果心は起点を潰したあとは離脱する手筈となっていたのだ。
「・・・果心さん、裏門の位置は分かりますか?」
「分かります・・・が、逃げるのは入って来た所から、と」
「いいえ、逃げません」
ミルシは断固とした顔でそう告げると、フルフルと首を大きく横に振った。
「私が成功しても、ダンジョーさんは終わりじゃ無いんでしょう?なら、助けに行かなくちゃ」
自分のやることが終わったら、計画を無視して助けに行こう。そう、ミルシは別れる前に決めていたのだ。
「しかし・・・いえ、確かに。ええ、そうです、そうでした」
「でしょう!」
その言葉が早いか、ひょいと果心を摘み上げたミルシは手近な調度品でその部屋の窓を打ち破る。
「え?」
「ドアからは出られませんから、外から回って行きましょう!」
そう言うと、そのまま窓から飛び降りた。
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