ソートフィルター
菜月 夕
第1話
「まったく君は何でこんな間違いをするのかね。
この間もこれと同じ間違いじゃないか。この間といい今回といい単純な書式ミス。まったく君は……」
課長のいつもの部下いじめが始まった。
ネチネチネチネチとこんな風にずうぅうぅぅっっと続くんだ。これも今日までだ。
まったくこんな課長の下にいるだけで鳥肌がたってジンマシンが出て悪寒が走る。
こんな会社も明日でドューダってトラバるのだ。相変わらずネチネチネチとイヤミを言う課長の目の前に辞表をどおおっっーーっと叩きつけ、目を白黒させている課長を尻目にさっさと俺はあこがれの一流企業の階段を踏み出したのだ。
かねてよりネット内の試験で適性を認められ、あの大企業の最新開発部へ抜擢されるのだ。
情報産業の世にあってF社といやあ一流中の一流である。そんなとこへ超2流企業の俺がどうして引き抜かれたのかはイマイチ不思議だが。話を聞くと納得する。
「いまやコンピューターの発達・スピードは限界近くまで発達してしまい軒並み頭打ちです。そこで人間の脳の空き時間を利用する方法が考えられたのです。特にアナログ処理とか汎用処理を人間の潜在意識に行わせるのです。
潜在意識を使う為に個人的特性・適性などが処理に影響しますが、調査の結果あなたはこの手の処理でも汎用性が高く、使用頻度が多いソート・フィルタに向いている事が判ったのです…。
実際の仕事ですが、脳電コイルというのを頭に張り付けて貰うだけです。
脳電コイルは弱電流を脳に与えるのです。脳は殆ど気が付きませんが、潜在意識は無意識で感じてそれを処理するのです。連続した映像の中に一瞬だけCMなどを入れるとそれが潜在意識に残ってその商品が売れるというのがありましたが、それと同じな訳です。」
判ったような判らないような説明だったが。
ま、そういやオレは整理整頓が好きできちょうめんな方ではある。
ソート・フィルタが向いてると言えばそれでいいのだ。
そんな訳で(どんな訳か知らないが)、オレはあんな会社が嫌で嫌でたまらなかった事も手伝ってその仕事にドューダした。仕事といっても潜在意識を使うだけだから日中は何をしてても構わない。
小さな脳電コイルを頭に張り付けているだけ、この脳電コイルが脳とコンピュータのインターフェイスという訳。
それでいて24時間稼働だから、給料もいい。勿論これは俺が使用頻度の高いソート・フィルタに向いていたからでもある。
この手の給与はなんでも使用頻度と時給だそうだからだ。
まああぁぁーーーっったく。調子のいいこと。
金と暇。それを満たしてくれるこの商売はやめられない。しかし、これも1ヶ月程だった。
始めの1ヶ月が過ぎると何故か微熱が出たり、気持ちが悪くなったり。医者で調べても精神的な物でしょうくらいしか判らない。
そこで、「問題が起こったら連絡して会社に来て下さい」という事でF社に向かった。
そこには、アノいや〜〜な課長が。「カ、課長…。どうしてここに」
「いや〜〜、君もこの会社に引き抜かれてたのかね。
私も先週から私の潜在意識に目つけられてね。なんでも汎用フィルタ類の類を総括するコ・プリプロセッセとして就職することにしたんだよ。
今日は会社から私の受け持ったフィルタの一つが不調だから面倒を見るようにと言われてきたのだが。
そうか、君が私の下で働いていたフィルタだったのかね。
うんうん。君の事ならなんでも知っている。さあさあ、君の問題点を話したまえ」
課長の頭には小さな脳電コイルが光っていた。
そおか、やっとあの課長から離れたと思ったのに。
こんないい生活やめる訳にもいかないし、前の会社なら会社にいる時だけ我慢すれ良かった訳だが。俺は脳電コイルでこれから4―6時中こいつに繋がるようになってしまったのだ。
俺は鳥肌もたってジンマシンも出てきた。
ソートフィルター 菜月 夕 @kaicho_oba
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