臨時3便:「―現着 異世界SA―」

 ――ユトロンSA。

 無限に広がる超空空間に、広大かつ長大に張り巡らされる超空軌道路線の。その各所に設けられる、休憩・観光のためのサービスエリア施設の一つだ。


 内のユトロンSAのその最大の特徴は、その施設敷地が超空空間を一度出て。通常宇宙に存在する、ある一つの惑星内に接続。その地上に敷地施設を置いている事だ。

 この形式自体は他にもいくつものPA・SA施設に見られ、ユトロンSAに限定されたものではないが。

 ユトロンSAには他に、ある特徴があった。

 それは、この施設敷地を惑星が――


 ――剣と魔法の世界である事。


 魔法、魔術、妖術が存在し。

 亜人、魔人、魔物、魔族やモンスターが。

 妖、妖怪、物の怪の類が。


 住まい、あるいは生息。

 そして天界や魔界、神魔までもが存在する。


 まさに描いたファンタジーのような世界である事であった――


 この、超空空間とはまったく趣を異とするこの惑星世界。

 この地といたずらに急いた邂逅、接触して超空空間とつながりを持つことは、この惑星世界の独自の文化形態を最悪崩壊させることが危惧された。


 その関係からこのファンタジーのままな惑星は、保護・干渉制限惑星とされ。表立っての接触は避けられて現在に至った。

 そしてしかし、いくつかの施設が秘密裏にひっそりと存在。

 その一つが、ユトロンSAなのであった。


 ユトロンSAがこの摩訶不思議な惑星を建設設営敷地と定めた理由には。PA・SAの配置の際に、要項とされる距離間隔などがメインの理由としてあったが。

 この幻想的な世界を、ひっそりとでも観光の地として利用したいという腹積もりも少なからずあった。

 そして、この惑星世界の住人からは認識されないように。認識遮断保護の効果設備によって秘匿され。

 さながら異世界・ファンタジー世界に潜まされた、海中展望塔のような在り方で。今日まで運営運行されて来たのであった。



 ――超空空間と別時空を超える航法行動、〝ヴォイド・トランス〟にて。

 侵外と渥美を乗せた巡回車――超空ヴォイドフィールド21は。

 ブラックホールすら穏やかに見える程の、不気味で歪なゲートウェイをしかし当たり前のように抜け、通常宇宙へと出現。

 そこから惑星上に存在するユトロンSAへと通じる、ランプ軌道を伝って惑星へと降下進

入。

 かつては宇宙船によって命がけで行われていた大気圏突入を、しかしなんでもない姿で成し遂げて見せ、大気圏内へと到達。

 そして魔法の世界の惑星内に秘匿されて存在する、ユトロンSAの上空に到着。

 誘導ランプ軌道に沿って経路通りに進入し、程なくして物理的に舗装された広大なSA駐車場へとタイヤを降ろして接地。

 そこからしばらく、その自動車の姿形に本来あるように。地上をしばらく走行して、駐車場端の他の利用車輛を阻害しない一か所に停車した。


「――っと」

「さて」


 渥美と侵外は巡回車より降り、一度SA駐車場空間を見渡す。

 広大な空間を取る駐車場スペースだが。本日は超空空間の共通・基準の暦では平日になるため、利用車両の数はまばらだ。


「――管理隊さんっ」


 そんな所へ、声が掛かりと届く。

 渥美と侵外がそれぞれふ振り向けば、SAの建物施設側より一人の人物がこちらに小走りで向かって来る姿が見える。

 妙齢の女性、その服装格好はSA施設の事務所職員のもの。関係者であることは明らかだ。


「あぁ、お疲れ様です。こちらの事務所の方ですか?」

「はい、SA事務所長の句野と言います」


 渥美の発した問いかけに、事務所職員はその身分の合わせて句野と名乗った。その句野の様子顔色には急き、そして微かに困惑する色が見える。


「通報で、異世界の住民の集会に囲われているとの旨を受けているのですが?」

「えぇっ、まずは見てください。案内します」


 通報内容を伝え、事実関係と照らし合わせての確認のための言葉を紡ぐ渥美。

 一方のそれに対して句野は、話すよりも実際に見てもらうほうが早いと言う様子で。促し二人を案内した。



 句野の案内でSAの建物施設の内部を通って抜け、施設敷地の反対側へと出た侵外と渥美。

 出た先は屋外の、広くスペースを取った開けた空間。フードコートを兼ねる、屋外の展望エリアだ。

 やはり平日であるため利用者はまばら。

 そして。そのいくらかの利用者は一様に、訝しみあるいは少しの困惑の色を見せながら。展望エリアより向こうに望める光景を眺めていた。


 展望エリアは高台の上に敷地を持ち、その向こうの景色光景を望むことが出来る。

 広がり見えるは、鮮やかな草原や小高い丘が遠くまで広がり。河川や森、そして向こうには街が見えて景色を彩っている。そのさらに向こうには連峰が、そして透き通るような大空広がり。

 日中でもうっすらと見える『二つ』の巨大な衛星、この惑星の月が。この地が居なる土地である事を証明するように存在を示している。


 そしてしか――その光景は、それを埋め尽くさんまでの膨大な数の存在によって占められていた。


 草原に、丘に、大地には。

 無数の軍勢が隊形を成し、あるいは雑多に集合した姿で布陣。遠くに距離を取って、このSA施設を包囲している光景が広がっていた――


「あらまぁ」


 そんな、驚愕の光景を目の当たりにしたと言うのに。

 展望エリアに歩み出て来てそれを目視した渥美が、一番に零したのはそんな緊張感の無い一言だ。


「ッ、どういうお祭りのつもりだぁ?」


 一方、侵外は。

 また驚く様子は無く。面倒くさい厄介事を前にしたように、隠さぬ倦怠感を顰め面で表しながら。

 そんな一言を零す。

 そして侵外は、制服の肩章に下げて装備していた双眼鏡を取り。それを覗いて向こうの光景の観測確認を始めた。


 ある方角には、ファンタジー世界のお手本のような。剣や槍や己や弓を武器として、軽重いの防具鎧に身を包んだ、軍隊軍勢が見える。

 それは、この異世界惑星で栄える『魔法国家』の軍隊。


 またある方角には、亜人や魔物と呼ばれる種族。

 エルフ族、ドワーフ族、ホビット族、etsets……

 多種の亜人種からなる、『同盟軍』の集合だ。


「反対側もこれです」


 そこで句野が、手にしていたタブレット端末を侵外と渥美に差し出して見せる。

 それはSA施設の反対側に同じく広がる広野を、監視。防犯カメラが映す光景。


 そちらに見えるは。同じく亜人や魔物を主体としながらも、『同盟軍』とは様相の異なる軍勢。

 オーク・オーガ・ゴブリン・ドラゴン・アンデッド、etsets……

 特に血気盛んで戦いを好む種族などで構成されるそれは。『魔王軍』と呼ばれるこの世界に動乱を求める軍勢だ。


「んで、アレか」


 そのタブレット映像を見た後に、侵外は上空を仰ぐ。


 SA上空全周は――無数の飛翔体の軍勢に覆われていた。


 その一方向には――妖怪。

 あらゆる妖からなる魑魅魍魎軍勢。


 また一方向には、その全てを眩い白で統一する存在の一軍。

 それは――神族、天使、神の一軍。


 さらに一方向には、そのほとんどを黒で占め覆う存在の軍団。

 地獄、悪魔と呼ばれる存在の軍勢が。


 神話、絵物語で語られるに過ぎなかったはずの存在が。そのはずが、しかし現実として数多膨大な数から成る軍勢として。

 SA施設上空を覆う光景があった。


 その一見できる光景だけで、圧され畏怖するまでの光景――


「団体さんだな」


 しかし、そんな周囲各方を確認した侵外は。顔を顰めて何かめんどくさそうに一言を零すのみだ。


「あの人たちの詳細は分かっていますか?」

「えぇ――」


 その侵外の傍らで、渥美は句野に尋ね。それに応じて句野は、今見えているそれぞれの軍勢についての、説明の言葉を紡ぐ。



 まず展望エリアより向こうに望める魔法国家の軍勢。

 魔法国家はこのユトロンSA敷地がある土地、大陸の領土の持ち主だ。


 次に亜人同盟。この近く、魔法国家の領土に国境を隣接する、〝一応〟の盟友国家。

 しかし人種の違いから、素直な友好関係とは言えないらしい。


 さらに、施設の反対方角に布陣する魔王軍。

 魔法国家より向こうに支配地を持ち、この世界を脅かしているらしい。しかし現在は攻勢限界が見え、実質的な停戦状態にあるという。


 そして、上空を覆い布陣する三軍勢。


 妖怪・魑魅魍魎の軍勢は、この大陸より海を挟んだ向こうある島を支配地として栄える国の一団。

 この大陸での動乱は、中立の名目で高みの見物を決め込んでいるらしい。


 最後に。神族、天使の軍団に。悪魔、魔族に堕天使の軍団。

 この惑星世界には、天国と地獄が存在するという。

 天より、そして地の底より、この惑星を見守る――言い方を返れば監視し、一種支配している上位存在。



 そんな在り方、立ち位置のまるで異なるいくつもの勢力存在が。

 そしてそれぞれが、しかし一様に軍団を揃え。たった一つのSA施設の周りに集う、包囲をしいているのが今の現状だ。


「成程――〝ガイドブック〟で呼んだことはありましたが、それが勢ぞろいですか」

「そういう事です」


 その各勢力軍勢のおおまかな説明を受け、渥美は飄々とした様子でそう零し。句野は困った色で返す。


「それであの団体さんは、揃いも揃ってどういう用だ?」


 それを傍で聞きつつ、侵外は引き続き周囲を観測しながら零す。


「SAの認識遮断設備は?本来であればあちらの世界から、SAは認識できないはずですよね?」


 そして渥美は、また句野に尋ねる言葉を向ける。


「あぁ、えぇ。その関係もうすでに判明しています、見ていただいたほうがいいでしょう――」


 それに句野はまた少し困った顔色で答え、そして侵外と渥美へと促し案内した。

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