第34話 『空気の読めるツイスターゲーム』で遊んでみた!

 ハーク・ラム・リーリエの三人パーティーがセーフティールームに帰還すると、ダイニングでのんびりとお茶を飲んでいるクロエの姿が。


「ふぅ~……ン? あれ、おかえりぃ~……なんか今日、早いね……?」


 クロエが疑問を呟くと、ラムが微妙な表情で簡潔に答える。


「え、ええ、まあその……バグ? っていうんですっけ、何だかそういうのが出ちゃった感じで……」


「あ~、ランダム生成ダンジョンだからねぇ……わたしもよくわかんない時あるし、帰ってきて正解だったかもね~……そういう日は休むに限る、限るぅ~……」


 ぐでーん、とテーブルに身を預けてだらけていたクロエ、だがすぐさま何か思い出したのか、身を乗り出して提案する。


「……あっ!? そだ、あのさぁ~……昔わたしが作ったアイテム保管用の倉庫(※異次元仕様)、漁って見つけたんだけど~……」


「ああ、セーフティールームにある、あのいくらでも入る謎の倉庫……クロエちゃんが作ったんですね、道理で。最初に知った時は面食らっちゃいましたけど、便利すぎて今じゃ普通に利用しちゃってましたよ」


「そうそう。そんでね……この〝〟ってやつ! みんなで遊んでみない~っ?」


「え? あたしはまあ、いいですけど……そもそもツイスターゲームって、何なんです?」


「さあ……? でもゲームなんでしょ~? わたしゲーム、好きだし~……!」


 なるほどクロエの言う通り、珍しく彼女の眼は輝いていた。具体的に言うなら超高難度ランダム生成ダンジョンの主にして《異次元の魔女》の目、輝いている。


 まあそれこそ年相応の少女の反応だろう。クロエの義兄であるハークと、幼馴染のリーリエも、頷きながら笑った。


「ははは、クロエのゲーム好きは相変わらずだな。そうだな、探索しないなら時間を持て余すし……今日は久々に遊ぶか」


「うんうん、ハークに異論ないなら、私も遊びたいわ。ラムさんやクロエさんとも……考えてみれば友達と遊ぶとか、ほとんど無いし」


 若干、リーリエの交友関係の薄さに闇を感じるが、そこはハークやクロエもよっぽどなので、空気の読めるラムさんは何も言わないでいた。


 とにかく今はクロエの……《異次元の魔女》(ラスボス格)の希望通りツイスターゲームで遊ぶ時だ。


 さて、それが一体どのようなゲームなのか、ハークが簡潔に鑑定すると。



 ――――★鑑定結果★――――


『空気の読めるツイスターゲーム』の遊び方

 アイテムを使用し、プレイヤーを二人選ぶことで、魔導システムが自動的に音声指示をしてくれる。その指示に従い、既定の色に既定の四肢を触れさせるべし。

 四肢が既定の色から離れるなどすれば、ゲーム終了。


 ↓ゲームマットの大まかな配置説明↓

 ●=赤 ■=青 ◆=黄


 ●●●●

 ■■■■

 ◆◆◆◆


 ――――★鑑定終了★――――



 ゲームの説明を受けたクロエが、ふむふむ、と頷く。


「ふむふむ~、なるほどぉ……ゲーム性はシンプルだけど、なかなか楽しそうだねぇ……よし、じゃあまず……ラムちゃん、きみに決めたっ。イケニエもとい最初をゆずってあげよう~……お試しお試し★」


「今イケニエって言いましたねぇ完全に! まあ別に危険は無さそうですし、いいですけどぉ……えっと、参加はマットの上に立てばいいのかな……」


『――プレイヤーA、ラムの参加を受け付けました』


「うわっ喋ったっ!? お、女の人の声……? どうなってるんでしょ、この妙な高機能……魔導システム、って初めて聞きますし……ま、まあとにかく、もう一人。あっ、じゃあクロエちゃん、一緒にやってみます?」


「え~、わたし~? どうしよっかなぁ~……と言いつつゲーム好きだから、やろっかな~。それじゃわたしも乗って……ん?」


 ゲームマットに乗ったクロエ、だが――ラムの時のように、参加受付の音声がない。何か間違っているのか、と誰もが首を傾げていた……その時。


『―――ツイスターゲームは男女でプレイするのが醍醐味なので、もう一人のプレイヤーは是非とも男性をお選びください』


「なんかえらく空気読んだこと言い出しましたねぇ!? 〝空気の読める〟ってこういうことなんでしょーか!?」


「……ん? もう一人のプレイヤーは男性、って……俺しかいないな。あー、じゃあ俺がやろうか。飛び入りみたいになっちゃったけど、よろしくな、ラム」


「あ、は、はい。……え、えへへ、なんかだったかも……?」


『――プレイヤーB、ハークの参加を受け付けました。ゲームをスタートします』


 なし崩し的にではあるが、ラムとハークの二人でゲームをすることに。これにはクロエも〝ぐぬぬ〟と不服のご様子(自業自得)。


 とはいえ、今から始まるのは未知のゲーム。何をさせられるのか、と緊張気味のラムに、ゲームから指示が出る。


『プレイヤーA、赤に右手を置いてください』


「……あっ、プレイヤーAってあたしだっ。え、えーと、じゃあ……よいしょ、っと。こんな感じでいいんですかね?」


『プレイヤーB、黄に左手を置いてください』


「ん。次は俺か……ああ、なるほど。こうやって四肢を置いていくと、キツイ体勢とかも取らされそうだな。なんか体幹とか鍛えられそうだな、ハハハ」


『プレイヤーA、黄に左足を置いてください』


「な、なるほど、確かにハーク師匠の言う通り……って、ひゃわわっ、マットがそんなに広くないから、けっこう密着しちゃいますねっ……ひゃ、ひゃ~、なんかドキドキする……だ、醍醐味ってこういうことです……?」


『プレイヤーB、赤に右足を―――………』


 さて、そのようにして、ゲームは進行していき。



 ――――★状況鑑定★――――


 〇=ラムの右手・左手 ◇=ラムの左足

 ×=ハークの右手・左手 ※=ハークの右足


 ●〇〇※

 ■■■×

 ◇×◆◆


 フリーダム=ラムの右足・ハークの左足


 ――――★鑑定終了★――――



 ……現状、ラムはほぼ四つん這い、正確に表すなら三つん這いとでも言うべき状態で、既にかなり際どい現状だ。

 ほぼハークとも密着している状態で、次の指示部位によっては、とんでもない体勢になる――今の時点で顔真っ赤のラムが、こいねがうように言葉を発する。


「う、ううぅ……ちょ、この体勢、いくら何でも……お、お願いします、変な指示、出さないでくださいよ!? 絶対ですよ、絶対だかんな――」


『プレイヤーA、黄に右足を置いてください』


「ウッウオオオオ空気読んでんじゃねーですよぉ!? 黄って、そこ、そこに足を置いちゃうと、それっ……」

※参考までに=上記★状況鑑定★の右下2つ以外には置けまいて。


『リピート。プレイヤーA、黄に右足を置いてください』


「ぐ、ぐぬぬぬっ……く、繰り返してきますしぃ……ああもぉ、探索から帰還直後で、スカートのままなのもアダになったぁ~っ……どんなゲームか知らなかったとはいえ、こ、こんにゃろぉ~……!」


「……ら、ラム? 無理せず、ここで終わりにしても……」


「い、いいえ! このラム、ハーク師匠の不肖の弟子として、途中で勝負を投げ出すなんてしません! み、見さらせぇっ……これが女の根性ですぅ~!」


「いやこんな変なトコで、弟子の尊厳そんげんを賭けなくても……って、うわわ」


 ついに、ラムはやった――やりやがった。

 体勢的にそこにしか置けなかった〝◆=黄〟の部分に右足を置き。



 見事、ハークの顔面のド真ん前で――四つん這い状態になった――!



 この恐るべき遊戯(※ツイスターゲーム)にて、このような羞恥しゅうちあおられる羽目はめになったラムは、もはや沸騰しそうなほど顔を紅くしており。


「う、うう、ハーク師匠の顔に、ケ……お、おし……ゴホンッ! こ、このダンジョンでなぜかを突き付けることになっちゃうなんてぇ……は、恥ずかしすぎる、何ですかこの状況……」


『…………ったな』


「オイ今なんか喋りましたよね絶対。読みやがりましたね空気このやろー。……なーんて、どうせ恥ずかしがってるのあたしだけで、ハーク師匠はいつも通り、何ともないんでしょうけど……はあ、恥のかき損で――」


「…………………………」


「ん? ……あ、あれ? あの、ハーク師匠?」


 四つん這い体勢のラムが、辛うじて顔を向け、沈黙するハークを確認すると――彼は、ぽつりと一言。


「……ご、ごめん、ラム。さすがに俺も、ちょっと恥ずかしい」


「…………………………」


 頬を赤らめ、バツが悪そうに目を背けようとする、ハークの意外と初心うぶな反応を見て――ラムが思うのは。


(………満更まんざらでもない………)


 少女剣士に、変な性癖が芽生めばえそうな瞬間――!


 ……が、ここまでは黙って様子を見ていた、《異次元の魔女》と〝ハークの幼馴染〟が。


「―――おぉぉぉぉぉ……おぉんんんんん………!」

(※スキル〝呪怨散布〟発動!=周囲に呪いの気配を充満させる)


「――――フンッッッッッ!!!」

(※スキル〝森の王の覇気〟発動!=周囲に魔物も逃げ出す戦意・殺気を放つ)


「えへへ、も、もうちょっとくらいなら、このまま……ハッなにやらのっぴきならねぇ気配が!? きゃ、きゃあっ!?」


『プレイヤーA、脱落。ゲームオーバーです』


 突然に恐ろしい気配に襲われたラムが、体勢を崩して倒れ――ゲーム終了の音声が響くと、クロエとリーリエが薄っすらと微笑みつつ声をかける。


「残念だったね~、ラムちゃん……じゃ、次はわたしの番だから、わってね~?」


「あ、ずるいわよクロエさん。私だって、ハークとプレイ(意味深)したいわ」


「あ、あーっ! クロエちゃんもリーリエさんもズルイですっ! 今の絶対、二人の仕業でしょう!? ちょっと~!」


「「なんのことやら……」」


 さて、三人そろって文字通りかしましい彼女達に――聞こえてきた音声は。


『ゲームプレイ、ありがとうございました。こちらは一度限りの使い切りアイテムなので、間もなく爆発します。またの再会を願っております』


「「「………は?」」」


『3・2・1……ボンッ』


 丁寧に空気を読んで説明とカウントダウンをし、言葉通りに跡形もなく爆発し――暫し呆然としていた三人のうち、初めにクロエが口を開き。


「……つ、つ……次のやつ拾ってこないとー!? ちょっとラムちゃん、アレどこで拾ったの!? どこの階層!?」


「た、確か五階層だったはずです! 探せばまた、見つかるかも……!」


「ラムさん、クロエさん、必ず見つけましょう。次こそは私が、ハークの幼馴染として……プレイ(意味深)してみせるわ……!」


 まさか今から探しに行くのだろうか、なかなか心配になる三人娘の様子だが。


 それはそれとして、ゲームから解放されたハークは。


「……うーむ、何かまだちょっとドキドキするな。長男として、少し気を引き締め直さないと。ふう……」


 パン、パン、と数度、両手で頬を叩くのだった。



 ……ちなみに余談だが、この後、三人は運よく〝ツイスターゲーム〟を拾えたらしく。

 ハークが鑑定したところ〝死のツイスターゲーム〟(※敗者は死ぬ)だった。とんだデスゲームなので即座に捨てたようです。

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