わが家はローグライク風ランダム生成ダンジョン! ~俺の部屋だけ固定セーフティールームなんですけど?~

初美陽一

第一章 ランダム生成ダンジョンに住まう青年、少女剣士と出会う

第1話 少女剣士と――寝間着姿の青年の出会い

 何処どこの国にも属さない、とある山間部の中ほどに。

 一年ほど前から突如として現れた、超高難度ダンジョンが存在する。


 あらゆるダンジョンを踏破した熟練の一流冒険者ですら、一階層さえ攻略できない。

 異様なまでの膂力・魔力・破壊力を有したモンスターが蔓延る、そのダンジョンで。


 今、凶悪な能力を持つ魔物に追われ、逃げ回るのは――


「はあ、はあっ……ひぃんっ……こ、怖いですっ……」


 ピンクブロンドの長髪が柔らかそうな、見るからにおっとりとした、可憐かれんな風貌の少女剣士――ミニスカートのベルトに固定された長剣の鞘が、いかにも不釣り合いだ、が。


 そんな彼女も、間違いなく冒険者。ただし、超高難度ダンジョンになど挑めるはずもない、新米冒険者である。


 しかも単独で――全くどれほど不運なら、こんな場所へ迷い込めるのか。更に不運というならば、ダンジョンの石床に出っ張りがあることに気付かず。


「は、あっ……きゃあっ!? い、いたた……っ! あ、あわわ……」


 盛大に前のめりに転んでしまった少女剣士に、追いすがっていた魔物――三頭を持つ地獄の番犬、ケルベロスに追いつかれ。


 一階層に存在して良いレベルではない、上級ダンジョンでも主を張れるほどの、通路を幅いっぱいに塞ぐほどの巨大な存在が。


『GuRururuUmm……』


「ひ、ひぇっ……や、やめて、こないでっ……」


『GoAhhhhhh!!』


「いっ……いやあっ! 誰か、助けて―――!」


 あまりにも非力で、あまりにも不運な少女剣士に――容赦なく、飛び掛かり。


 ……けれど少女剣士は、果たして、と眼を疑う事態が。



「――――大丈夫か?」


「………………………。

 ………………えっ?」



 先ほど少女剣士に飛び掛かったはずの、恐るべき三頭の魔物ケルベロスは――何かにのか、傷跡から魔力を吹き出して既に霧散を始めており。


 入れ替わりで、そこに立っていたのは。

 抜き身の剣を右手に携えた、一人の青年―――けれど彼の風貌に、少女剣士は〝信じられない〟とばかりに、つぶらな目を何度も瞬かせていた。


 青年の顔立ちは、どちらかといえば精悍、ぶっきらぼうに伸びた銀髪は無造作で。

 筋骨隆々ではなく、むしろスマートな体躯ではあった、が――そんな彼が、凶悪な魔物をあっさりと斬り伏せたという事実。


 ……いや、重要なのは、そんなことではない。

 真に恐るべきは、少女剣士が驚いたのは―――彼の装備、剣以外の、つまり着衣だ。



 その身に纏うは重厚な鎧兜……、どこにでもありそうな布地の衣服。しかも、非常に簡易なもの。何なら就寝時などに、寝苦しくなさそうな装いの。


 更に、その頭にかぶるのは――ナイトキャップ。

騎士帽ナイト・キャップ〟とか、そういう意味ではない。

就寝時にかぶる帽子ナイトキャップ〟だ。すんげぇ柔らかそうなアレだ。何かもう〝今から寝ますよ〟という意志がズンドコ伝わってくる感じのアレだ。


 ある意味、この場において奇異きいの極みたる出で立ちを見て――少女剣士が呆然と開いた口から、かろうじて発した言葉は。



「――――――?」



 この、一流冒険者ですら攻略不可能な、超高難度ダンジョンに。


 寝間着姿の青年が一人、剣をたずさえて、立ち尽くしている。


 夢でも見ているのか、と少女剣士が目をこすっている、と――遅れて追いついて来たのか、ケルベロスに比べれば小柄な、しかし数多あまたの魔物達が現れ。


 けれど、寝間着姿の奇妙な青年は、その出で立ちには不釣り合いな長剣を、右手で何気なく振るい。


「―――いよっ、っと」


「! は、速っ、見えな……す、すごっ……」


 少女剣士の言葉も追いつかず途切れ途切れになるほど、高速で奔る剣が全ての魔物を一瞬で斬り払い。


 大型のケルベロスも含め、斃された全ての魔物が――大小さまざまな、魔力を含む宝石と化し、音を立てて床に散らばる。


 きらめき飛び散る宝石を背景に。


 へたり込んで呆然とする少女剣士へと、寝間着姿の青年が言う。


「怪我はないか? 俺の名は、ハーク=A=スラスト。たまたま通りすがったところに悲鳴が聞こえて、来てみたけど……まあな」


「! は……はい、ありがとうございますっ! あの、あのっ……さっきの剣技、すごかったですっ……さ、さぞかし名のある剣士さま……もしかすると、剣聖クラスの御方かとお見受けしますがっ」


「剣技……剣士? ……うーん、俺の得意な武器が剣だったのかどうか、し、俺が剣士なのか分からないんけどな――」


「どうかっ……お願いします、ハークさま……いいえ!」


 ハークの不明瞭な言葉は聞こえていないのか、少女剣士は円らな目をキラキラと輝かせて、ハキハキと通る声で懇願した。



「アタシを、ラム=ソルディアを、弟子にしてください!

 お願いします―――ハーク師匠!」


「ん? ………んん?」



 今、少女剣士――ラム=ソルディアが、

 姿の青年、ハーク=A=スラストに、



 超高難度ダンジョンの只中ただなかで弟子入りを懇願するという、珍妙な光景が展開されたのだった―――

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