第4話 影の再来

三田村義隆は、天影丸の呪いを解いたという安堵感と共に、京都の寺院からの帰路に着いた。刀は静かに鞘の中で眠り、まるでその恐るべき力が消え去ったかのようだった。しかし、三田村の胸中にはまだわずかな疑念が残っていた。


数日後、山下明子から連絡が入った。彼女の声は落ち着いていたが、どこか不安を感じさせた。


「三田村先生、夫の魂が安らかになった気がします。でも、昨夜、奇妙なことが起きました。」


明子の話によると、彼女の家の中で奇妙な音がし、まるで誰かが家の中を歩いているような気配を感じたという。三田村は再び山下家を訪れることにした。


その夜、三田村は明子と共に山下家に泊まり、家の中を注意深く見張っていた。深夜、家の中で再び奇妙な音が響き始めた。まるで誰かが床を歩き回っているかのような重い足音だった。


三田村は音の源を探し始め、書斎にたどり着いた。そこには天影丸が置かれていた。しかし、刀は鞘の中で静かに収まっているだけで、何も異常は見当たらなかった。


「この音は一体…。」


その瞬間、背後から冷たい風が吹き抜け、三田村は振り返った。そこには、暗闇の中で揺れる影があった。まるで人の形をしたその影は、じっと三田村を見つめているようだった。


「誰だ!」


三田村が叫ぶと、影は一瞬にして消え去った。しかし、その不気味な気配は依然として残っていた。三田村は再び天影丸に目を向け、その刃に映る自分の顔を見つめた。


「これは…呪いが完全に解けていないのかもしれない。」


翌日、三田村は再び寺院を訪れ、住職に相談した。住職は彼の話を聞きながら、深く考え込んだ。


「呪いが完全に解けたと信じていましたが、どうやらまだ何かが残っているようです。」


住職は再び古い文献を取り出し、三田村に見せた。そこには、刀の真の力を封じるためには、最後の持ち主の魂だけでなく、刀が切り裂いた全ての魂を鎮める必要があると記されていた。


「これは…。」


三田村はその重大さに驚愕した。天影丸が切り裂いた全ての魂を鎮めるには、多くの時間と労力が必要だろう。しかし、彼は決して諦めるつもりはなかった。


その夜、三田村は再び山下家に戻り、明子に全ての魂を鎮めるための計画を伝えた。明子は恐れていたが、夫の魂を完全に安らかにするために協力することを決意した。


三田村は儀式を行うため、天影丸を持ち、山下家の庭に設置された古い祠(ほこら)に向かった。彼はそこで、刀が切り裂いた全ての魂を鎮めるための祈りを捧げ始めた。


「全ての魂よ、この刀によって苦しめられた者たちよ、どうか安らかに眠ってください。」


祈りの声が夜の静寂を破り、風が強く吹き始めた。祠の周りに立ち込める霧の中から、無数の影が現れ始めた。それは、刀が切り裂いた者たちの魂だった。


三田村はその影たちに向かって、経文を唱え続けた。影たちは次第に光を帯び、やがて一つ一つ消え去っていった。全ての魂が鎮められた瞬間、天影丸は静かにその光を失い、完全に普通の刃物となった。


「これで…終わったのか。」


三田村は深い息をつきながら、刀を見つめた。呪いは完全に解けたのか?彼の心には安堵感と共に、まだわずかな不安が残っていた。


**次回予告:** 呪いが完全に解けたと思われた天影丸。しかし、三田村の周囲には新たな影が忍び寄る。刀の真の力とは何か?そして、三田村に襲いかかる新たな恐怖とは?次回、「刃の真実」、お楽しみに。

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