第40話 好感スイッチ

 そうして......。


「ほう。確かにこれは便利だな」


 大成の説明通り実際に使用してみての中年店長の反応は、好意的なものだった。

 レストラン訪問。

 無事成功だ。

 

「ありがとうございました。それでは本日はこれで失礼します」


 そして大成が引き上げようとした時だった。


「おい、にーちゃん」


 中年店長に呼びかけられ、大成は振り向いた。


「何でしょう?」


「商人なんだよな」


「ええ、そうですが」


「あんな魔導具自体が珍しいが、そもそも魔導具をタダで配る商人なんて見たことねえ。にーちゃんは本当にただの一介の商人なのか?」


 大成は内心「来たな」と思った。

 無論、待ってました的な意味で。


「私は、ビーチャム魔導研究所でお世話になっている商売人です」


「あのマッドサイエンティストのか!?」


 中年店長が勢いよく驚くも、これも大成には予想通りのリアクションだった。


「そう噂されているビーチャム博士が研究開発した魔導具が〔メラパッチン〕です」


「おいおい危なくないのか!?」


「先ほども申しましたよね。すでに百軒以上の一般家庭でご使用いただいていると」


「じゃあみんなマッドサイエンティストが作った物だってことは知ってんのか?」


「知った上でお使いいただいています」


 これは事実であり、大成の営業力が実現したことだ。


「そ、そうなのか」


 あまりにも泰然自若たいぜんじじゃくとした大成の態度に、むしろ中年オヤジの方がひるんだ。

 大成は誠実感たっぷりの眼差しを向ける。


「何か気になることがあればいつでも研究所までいらしてください。また、次にこちらへ訪れる際はビーチャム博士も連れて参ります」


「そ、そこまで言うなら......」


「ありがとうございます。それと最後にひとつ」


「?」


「私とビーチャム博士は、我々の研究開発した魔導具によって多くの人々が豊かになることを目指しています。ただ......」


 ここまで言ってから大成は、不意に悪戯っぽい顔を見せる。


「それだけで満足するのはビーチャム博士だけです。私は商売人ですから、ちゃんとこれを商売にしていこうと考えています。商売にするからには、しっかりとお金を生むものにしていくつもりです」


 えて自分はあくまで商売人だということを示しつつ、ビーチャムのイメージを少しでも払拭する。

 そんな言い方だった。

 

「......ふっ、ハッハッハ!」


 突然、中年オヤジが豪快に笑い出した。


「にーちゃん、おろしれーヤツだな!」


「褒め言葉として受け取ればよろしいんですかね?」


「もちろんだ!もしにーちゃんが綺麗事を言うだけだったらこうは思わなかったがな!」


 どうやら中年店長の好感スイッチを見事に押したようだった。

 大成はほっと安堵すると同時に、これでまたビーチャムの悪い噂が薄れていけばいいなと思った。


「じゃあな、にーちゃん。まっ、頑張れよ」


 こうして大成は、中年オヤジに笑顔で送られながらレストラン訪問を終えた。



「よし。うまくいったぞ!」


 夜道でひとり呟きながら、この後も大成は数軒の飲食店をまわり、一日の仕事を終えた。

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