第32話 失敗と成功

 翌日もぐずついた天気だったが、午後になると晴れ間が射してきた。

 この日の訪問でも、フィードバックの内容はおおむね前日と同様のものだった。

 

「ちょっと配りすぎたかな。ご不満を頂戴しに回るのにこの数は正直しんどい......」


 ついには移動中そんな言葉まで口からついて出る。

 だがこれは仕方なかった。

 元々フィードバックをもらって改善する前提で始めたこと。

 つまり今回の無料配布は営業というよりリサーチのためのものだった。

 そしてリサーチは、ある程度の分母がないと有効性のあるデータを得られない。

 有効性のあるデータを取得できなければ、意味のない不完全なマーケティングとなってしまう。

 

「意味のある失敗にしなければならない。でないと成功に繋がる失敗にならない。そして意味のある失敗は、無意味な成功より遥かに価値がある」


 これは、まだ社会人二年目の大成が、飲み会の席で、師匠である社長から聞いた言葉だ。

 その頃......。

 営業成績が一気に伸び、過剰なぐらいの自信をつけ始めていた大成は、彼にこう質問した。


「ええー、意味があろうがなかろうが、ひたすら成功した方が良くないですかぁ?」


 上司に向かってというより、組織のボスに向かって、かなり生意気な口調だった。

 酒が入っていたとはいえ、よりにもよって社長相手にイキがっている怖いもの知らずのガキ。

 そんな目で、社長の隣にいた古参の社員は苦々しく大成を見ていた。


「てゆーか成功にこそ意味があるんじゃないですかぁ?意味のある失敗って何ですかぁ?」


 懲りずに大成はへらず口を重ねた。

 生意気の上塗りだ。

 ところが社長は、ニッと白い歯を見せて面白がる。


「それもそうかもな。けど、そのうちわかるようになるかもしれないぞ?」


 社長は愉快に笑って、それ以上は何も言わなかった。

 相手を見下した様子は一切なく、不快感もまったくない。

 むしろ、今後の大成の成長を静かに期待しているようだった......。


「......あの時の俺は、クソ生意気なガキだったよなぁ」


 昔を思い出して、大成はふっと頬を緩めた。

 すると不思議と気持ちが少し楽になる。


「まだまだここからだ。ここからフィードバックを活かして改善していくぞ!」

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