第11話 失業
「......ちょっと一人で考えたい。今日はもう帰ってくれ」
ひとしきり話し終えた後、ビーチャムに言われた。
大成は素直に引き下がり、別に戻りたくもない貧乏宿舎へ帰っていった。
「いきなり、俺は火星から来た火星人だ、と言われたようなもんだよな」
小汚い布団に寝転がってから、ため息混じりに呟いた。
果たしてビーチャムは、どう思っただろうか。
興味津々に聞いていたとは思う。
ただ、そもそもなことがあった。
「なんであの男に、あそこまで話してしまったのだろう......」
今更ながら
元々は王都で高名な魔導博士だった......というのも、真実かどうかはわからない。
たとえ真実だとしても、信用に値する人間かどうかはさらにわからない。
「ヤバい。完全に直感で行動してしまった......」
たまらなく不安になってくる。
それでも現実は残酷で、また明日も過酷な労働の一日が待っている。
気がつけば、どろりと眠りに落ちていた......。
翌日。
いつものように肉体労働に汗を流している大成へ、思わぬ
人事勧告だ。
「明日からはもう来なくていい?」
「そうだ。今日中に宿舎から荷物まとめてとっとと出ていきな」
労働者用の貧乏宿舎を出たところで、少ない荷物を抱えたまま呆然とした。
逃げたいと思っていた。
実際逃げようともした。
けど、まさか追い出されるような形になるとは思いもしなかった。
いずれにしても、ついに過酷な肉体労働の日々からは解放されたわけだ。
「良かった......のか?まだ何の準備もできてないぞ?ぶっちゃけ、行くあてないぞ......」
例えるなら、借金を抱えたまま家賃も払えていない状況で転職先も決まっていないのに仕事を辞めたようなもの。
嫁がいたらブッ飛ばされるか愛想つかせて逃げられるかのどちらかだろう。
このままでは、すぐに生き倒れるかもしれない。
「ど、どうする......」
「おい」
「......」
「おい!」
「えっ?」
「え、じゃない!僕だ!」
ハッとして大成は我に返り、目をパチクリさせる。
誰かが目の前に立っている。
背の低い、銀髪の、白衣を着た男。
「ビーチャム!?」
「他に誰がいるんだ?一晩で阿保になってしまったのか?」
「え、ええと、何でここに?お、俺に用?」
「僕が貴様を安全にこの町から逃してやると約束したことを忘れたのか?」
「もちろん覚えているけど。あっ!俺が仕事をクビになったのって...」
「先に言っておく。貴様を町から逃してやることはしない」
「は?」
「そこで代替案がある」
「な、なんだ?」
「いいか、よく聞け。明日からは僕が貴様の雇い主だ」
「えっ......えええ??」
「ということで、研究所に帰るぞ」
大成の転職先が決まった。
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