第14話 万札無限製造術



 ペッペっぺっ。

 玉藻は机を叩く。叩くたび一万円札が現れた。


「何これ! だめだよ、偽札なんか使っちゃ」

「偽札ではありませんよ」

「え、じゃあ、どこから出てきたの?」


 確かにお札を見ると透かしも入ってるし、番号もあるし、本物っぽい。


「お金は巡るものですから、世の中のそのめ巡りの中から適当に出てきます。私たちにとってはこんなものはただの紙切れですよ。人間にとっては大事なツールのようですが」


「そりゃそうだよ。この紙切れを稼ぐために働いているんだもん」


「まあ、それが人の修行の一部なのでしょうね。お金がないから働かなきゃいけないという仕組みは、よくできた修行システムですね」


「修行かあ。確かに、我慢することばかりだし、修行みたいなものなのかもね。でも、玉藻みたいな精霊はお金が必要ないなら、なんで働くの?」


「働く、という認識とはまた少し違う気がしますね。役目に対する概念が違うようです。我々の場合は、この魂に与えられた使命として行っておりますから。むしろ、その役目のために生かされていると言いますか。お役目は宿命ですので、逃げられぬものなのです」


「そうなんだ、立派なんだね」


「そんなことはありません。私は決まりを破った大馬鹿ものですから」

「それで追われてるの?」

「はい」


「でも何か理由があったんでしょう」

「はい。私の中では、許せなかった。龍騎士様というものを、私は知らなかったんです。龍は神獣です。その神に対して、龍騎士様は敬いのかけらもない仕打ちをなされていたことを知った。世を守るためとはいえ、あんなこと、あんな目に、私は龍たちを遭わせたくなかった。だから、全ての龍を解放し、まだ卵だった蒼龍様は私がお持ちして逃げてきたのです」


「なんか、よくわからないけど、もしかしてそれってものすごい大変なことをしたんじゃ……?」

「ええ。捕まれば私の魂は消されるでしょう。人間の知るところの死ではなく、魂ごと消され2度と転生もしない。本当の死、消滅です」


「そんな。でも、玉藻は龍のためにいいことをしたんでしょう? それなら、」

「龍のためでも、人のためにはならない。世のためにもならない。龍騎士様は、龍がいなければ戦えないから。世を守る戦士がいなくなる」


「そういうものなの?」

「はい。ジィ様も本当はどこかの龍騎士様の龍になるはずでした。でも、前のがだめになったから次のなんて、そんな使い捨てみたいに龍を扱うような龍騎士様には絶対に龍を渡したくなかったんです」

「それは、酷いね。でもじゃあ、その龍騎士は今龍がいなくて困ってるの?」

「そのはずですよ。闘いには出られずにいると思います」


「闘うって、何と?」

「いろんな悪いものですよ。龍騎士様たちは鯰と呼んでますが」

「鯰ーー」

「魔物の一種なのですが、地震を起こしたりするので。でも、そもそもそういった魔物は人間の想念が生み出すものですから。歪んだ人間の心が生んだ魔物を倒すために、龍様が戦いに出ねばならないなんて。そんなの勝手です」

「そうだね」

 なんだか難しい話だ。


「人間としては、守ってくれてる人がいるのはありがたいけどね」

 私は考えがまとまらず苦笑いするしかない。

「今の普通の生活を送れるのは、誰かがどこかで今の普通を守ろうと頑張ってくれてるから。私はそう思っているからさ。龍騎士様がそういう人なら、龍と龍騎士に感謝しちゃうな」

「せめてそう思ってくださる方がいれば、龍様も浮かばれます。でも大方の人はそうではありませんから。今の普通の生活は、当たり前にあるものだと思っています。ある日突然崩れることがあるなんて、夢にも思わないんです」


「そうかもしれないね」

 なんだかしんみりしてしまった。

「ありがとね。ご馳走様。片付けは私するね」

「いえ、それも必要ありませんよ」


 玉藻がそういうと、目の前の皿が浮かんだかと思うと流しへ飛んでいき、蛇口から勝手に水が出て、スポンジが泡立って勝手に皿洗いを始めた。


「ど、どういうこと」

 今まで不思議なものを散々見てきたが、今の状況が一番驚いてるかもしれない。

「精霊術です。物質を操ることなんて簡単なのですよ。物質なんて借り物、まやかしに過ぎませんから」


「すごいんだね」

「そんな感心するほどのことでもないのです。本当は人も皆こういうことはできるはずなのです。ただみんな力の使い方を忘れているだけで」

「そうなんだ……」


「ただ力を使えばやはり疲れますけどね。この部屋に結界も張らせてもらったので、だいぶ消費しました」


 玉藻はいうなり、目をトロンとさせる。眠そうに目をこする姿はやはり小さな子どもにしか見えない。


「お風呂は?」

「もう入りました」

「じゃあ歯磨きしてもう寝よう」

「はい」

 なんだかお母さんになった気分だ。

 静かだと思ったらジィもいつの間にか龍の姿になって眠っている。


 これからどうなるのか、不安はあるけど乗りかかった船だし仕方ない。

 玉藻とジィをベッドに寝かせて、私も横になる。


 セミダブルだから広さは充分だし大丈夫だろう。

 電気を消したところで、スマホが鳴った。

 届いたメッセージは相手は意外な人物だった。


『問題ないか?』

 部長。

 いつもクールな部長がこんなふうに部下のことを心配してくれるとは思わなかった。

『こんばんは。今から3人で寝るところでした。ベッドがちょっと狭いけど、問題はありません。おやすみなさい』


 私はメッセージを返してスマホの電源を切ると、眠りについた。







 翌朝、スマホを見ると着信履歴が部長で埋まっていた。




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