第9話 別れ
屍の塔の頂上にて…
「パァン!パァン!」
騎馬は発砲するが桃香には当たらない。
「あっぶな〜い♡ていうか市香の銃の腕前に比べたら全然大したことないんですけど〜♡っていうかあんた大丈夫〜?さっきからずっと大人しいんですけど〜?あんた達本当にあの有名な殺し屋兄弟〜?」
桃香が余裕の笑みでナイフを構える。
「ヒュンッ!」
騎龍の振り下ろした青龍刀を市香はひらりとかわす。
「おっそ〜い。桃香に比べて遅すぎるよ〜。あんた噂に聞いてたより全然喋らないじゃない〜。さっきまでの威勢はどうしちゃったのかな〜?」
市香が余裕の笑みで二丁拳銃を構える。
しかし二階堂は心中穏やかではなかった。
戦死した者達の復活により魔力を消耗していたせいで毒霧の持続時間が短いことを彼女は自覚していた。
そして彼女は気づいていた。なぜ兄弟が霧が立ち込めた後一言も喋っていないのか。
一方その頃黎と裕也は屍の塔へ向かっていた…
「黎お兄ちゃん!それであの兄弟が毒霧の中でも平気なのってどうしてなの!?」
裕也は黎に担がれたまま聞いた。
「俺も最初はまさかとは思いましたが、彼らは恐らく戦闘中に呼吸をしていないのだと思われます。」
「ええ!?そんな事って可能なの!?」
裕也は素直に驚いていた。
「飛翔型の監視映像を見た時に、霧がかかっていてあまりよく見えませんでしたが、いつもは饒舌で飄々としている兄弟が、口を一切開かず無駄な体力を消耗しないような戦い方をしていたように見えたのです。それに…」
裕也は黎の次の言葉を待った。
「霧をまく呪文を唱えた二階堂は現在屍の塔にて戦死した者達の蘇生で魔力を消耗していると思われます。なので霧の持続時間は恐らくそこまで長くは続かないでしょう。」
屍の塔の頂上にて…
4人が戦闘を繰り広げる中、霧の緑味がだんだんと薄くなり、そしてさらにしばらくすると、霧は綺麗さっぱりなくなっていた。
「………ぷはーーーっあやうく死んでしまうところやったわ。それにしても独房で暇やったからどれだけ死ぬ間際まで息止められるか遊んでた甲斐あったわ。」
騎龍が青龍刀を担いで呼吸を整える。
「やっぱ外の空気は美味しいやんなぁ〜。千佳ちゃんの言ってた通り、二階堂ちゃんは魔力を消耗しすぎてて全力を発揮できんかったやんけ〜。」
騎馬も肩を鳴らして言う。
それを聞いて市香がハッとなって二階堂に目をやると、二階堂が跪いていた。
「二階堂様ッ!」
「ザシュッ!」
すると青龍刀が市香の体を切り裂く。
「ぐあッ!はッ!」
市香は吐血した。
「油断したらあかんで〜?お前の相手はこのわしなんやろ〜?こっからが本番や〜。」
騎龍が市香の髪を掴み体を持ち上げる。
「ぐッ…」
「市香ッ!!」
桃香が騎龍目掛けて右手のナイフを投げる。
「パァン!」
それを騎馬が撃ち落とす。
「パァン!」「パァン!」
2発の弾が桃香の背中を貫く。
「ぐはッあッ!」
桃香は背中を撃たれ出血し、吐血した。
「おいおい〜、お前の相手は俺やないか〜?何敵に背中向けとんねん〜。」
騎馬が歩創を担いで言った。
騎龍が市香の首を獲ろうとした時に騎馬が、
「兄ちゃん〜、俺ら大事な事忘れてるんやないか〜?」
すると騎龍が不機嫌そうに、
「なんや、今ええとこやったのに。でも、お楽しみはこの後っちゅうわけやな〜。」
すると騎龍に笑みが戻り、市香を掴んでいた髪を投げ捨てるようにして、騎馬とともに二階堂の方へ歩み寄った。
「兄ちゃん〜、こいつ好きにしてええんやろ〜?」
「お前、獲物の楽しみ方わかっとるんか〜?」
2人が二階堂のもとににじり寄ったその時、
「ギャアアアアオオオオオオオン!!!」
遠くから天を切り裂くような声が聞こえてきた。
「おいテメェら!!俺様の舎弟達に何か用かゴラァ!?土の噂で聞いたぞ!随分可愛がってくれたみてぇじゃねえか!?あ!?」
「兄ちゃん〜アイツ誰や〜?」
「ヒュウウウウウウ…ズザアアアア……。」
「わしも知らんわ〜。なんか飛行物みたいなんが墜落したで〜?しかも『土の噂』やの〜て『風の噂』やろ〜?アイツアホやんな〜。」
2人は笑い転げていた。
そうこうしていると頂上に長身の抹茶色の髪の男がやってきた。
「この俺様を知らないだと!?正気か!?テメェら!?」
「わしらに正気なんてもの求めたらあかんで〜、あるのは殺気だけや。」
騎龍が青龍刀の刃を舌で舐めながら長身男に近づいて行った。
「兄ちゃん〜久々の人間や〜!いや、爬虫類か〜?まぁどっちでもいいか〜。でかい分撃てる箇所も多くて楽しそうや〜。」
騎馬が背負っていたガトリング砲を長身男に向けて設置した。
「なかなか気合はいってるじゃねえか。まとめてかかってこいやゴラァ!!」
騎龍が青龍刀を長身男目掛けて振り下ろす。
「カキィン!」
長身男は刃先を手のひらで受け止めた。
「な、なんやこいつ?」
長身男は鋭く騎龍を睨みつける。
「ドドドドドドドドドドドドド!」
騎馬がガトリング砲を長身男の体目掛けて連射する。
「カンカンカンカンカンカンカンカンカンカン」
長身男の体から弾が全て弾かれる。
「ば、化け物やないか?」
長身男は鋭く騎馬を睨みつける。
「テメェら口ほどにもねぇな?まだまだそんなんじゃ足らねーよ!!」
長身男が騎龍に殴りかかるその時だった。
「そこまでです。」
1人の男の声と同時に辺り一面に泡が立ち込め、泡が騎龍と騎馬に付着して2人は体が動かなくなった。
「へっへーん!僕のシャボン砲は優雅に舞うのさ!」
裕也が黎に担がれたまま鼻を高くして言った。
「テメェ!こんなところに何しに来やがった!?」
「お前は誰でしたっけ?」
「ズザアアアア…」
長身男はずっこけた。
そしてすぐに立ち上がり。
「リソスだ!リソス!俺様の事を二度と忘れるな!」
「そうでしたリソス、お前の直属の部下である千佳がこいつらを脱獄させた張本人です。お前は部下の尻拭いをしてきて、ここは俺に任せてください。」
「なんだと!?またあいつか!!つーかテメェなんかが俺様に偉そうに命令するんじゃねー!!」
「いえ、これは俺ではなくお嬢の命令ですよ。」
「なに!?俺様の愛しの妻のお願いとなりゃあ断るわけにはいかねぇな。これは俺様の使命だ。ここはテメェに任せたぞ!」
するとリソスは竜化して瞬く間に飛び立って行った。
「アイツがアホで助かりました。二階堂、大丈夫ですか。」
「ええ、黎様。ありがとうございます。市香と桃香も私の魔力が戻ればすぐに治療できます。」
「黎お兄ちゃんー!そんなことよりこれからこの殺し屋兄弟どうするのー?」
「………。」
「…?」
「…二階堂、例の計画を。」
「…承知しました。裕也さん、ちょっとこちらへきて頂けますか。」
「え?うん、わかった。」
裕也が二階堂のもとへ足を運ぶ。そして二階堂のそばに来ると、
「おやすみなさい、裕也さん。」
「プスッ!」
裕也は何か左の首元にチクッと針のようなものが刺さったような感触がする。そして意識がだんだんと薄れていく。
「………それでは、始めますか。」
南グループ代々より伝わる都市伝説とまで言われる伝説の殺し屋。その殺し屋によって殺害された者は塵ひとつ残らず跡形もなくこの世から消え去り、生きてる者でその正体を知るものはいない。唯一人を除いて…。伝承によればその者の正体を知ったものはみな消されてしまうから情報が残らないのだ。闇を纏い闇に消えると言われるその者を南グループの者たちはみなこう呼ぶ。『ナイトウォーカー』…と。
次回 第10話 断罪
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