第8話 意表
「花梨ちゃん!起きて!起きなさい!!今起きたらお仕置きはナシ!起きなければお仕置き100倍よ!」
「シャキーンッ!」
「ハイッ!なんでございますでありましょうか!?」
「なんかもう色々メチャクチャな人だな…。」
裕也が呆れていた。
「監獄が何者かに襲撃されたんだって!何か送られてきたデータとかない!?」
八代はすぐに時前のノートパソコンを取り出した。
「…あります!この画像は…」
八代が送られた画像を拡大して良く見てみる。
「鉄格子を刀か何かで斬られた跡ですね!」
黎はすぐにピンときた。
「まさか、天宮がやったと言うのですか!?」
「ええ、倒された監視の数から見ても天宮様なら考えられます。そしてこの鉄格子は天宮様の革命前の南グループであった部下の騎龍の収容されてた独房だと思われます。」
お嬢が震えていた。
「では、まさかその弟の独房も…?」
「はい、別の鉄格子が斬られた画像も送られているのでおっしゃるとおりです。今回の反革命は騎龍と騎馬の殺し屋兄弟の二人も巻き込んだ壮大な出来事になることが予想されます。」
「今すぐ!今すぐあの兄弟を止めに行ってくるわ!」
お嬢は冷静でいられなかった。
「待ってくださいお嬢!ここで何も考えず一人で行動するのは危険です!それに騎馬は千佳の部下だったので今は天宮、千佳、騎龍、騎馬が4人で行動している可能性だってあります!」
黎は必死にお嬢の体を抑えた。
「でも!!今すぐ止めないと!!」
「彼らが何処に居るのかだって分からないでしょう?慌てる気持ちは皆同じです。気を確かに持ちましょう。」
すると興奮していたお嬢は大人しくなり、
「………ごめんなさい。」
と涙ながらに言った。
「八代、この感じだと天宮と千佳は行動を共にしている可能性が高いです。天宮一人でこのようなことするとは考えられません。きっと千佳が唆したのでしょう。」
黎は推定したことを素直に話した。
「はい。ワタクシも同感です。しかし千佳様は気まぐれな性格故にどのような目的でそんなことをされたのかまではわかりかねます。わかる事といえばリソス様の部下に当たる方であったことぐらいですが…。」
黎には思い当たる節があった。『殺し屋の兄弟』というのがどうにも引っかかった。殺すことに快楽を得た二人が何よりも好むこと…。
「桃香お姉ちゃん…。」
裕也が突然口を開いた。
「市香といつも二人一緒でかつて南グループの殺し屋と呼ばれていた…。」
続いて菱沼が深く考えながら言った。
「…まさか…!?」
屍の塔の頂上にて…
「パァン!」
市香の撃った拳銃の弾が桃香の頭上のりんごを貫いた。
「きゃあ~♡市香ってばイ~カ~ツ~イ~♡次は~桃香の番~♡」
「桃香ってば飽きないね~。私達の辺り一面りんごの残骸でぐちゃぐちゃじゃな~い。っていうかりんご何個用意してるわけ~?」
「う~ん、え~っとね~、いち~、にぃ~…」
「パァン!パァン!」
「え~、市香ってば数えてるうちに不意打ちはなくな~い?」
「私、撃ってないわよ~?」
「どうやら遊びに飽きてきたあなた達の遊び相手になってくれる子達が来てくれたみたいね。」
二階堂は真剣な表情で皮肉を込めて言った。
「ほほ~う?えらい楽しそうやないか?御三方さ~ん?」
騎龍は緑色の液状の何かが顔にかかった表情で笑みを浮かべていた。
「ご無沙汰やな~。その楽しそうな遊び、俺達も混ぜてくれよ~。」
騎馬はおびただしい数の弾薬を肩から帯状にぶら下げていた。
「私のアンデッド達は保険適用外なので慰謝料は高く付きますけど、分かってるんでしょうね?」
すると二階堂が呪文を唱え辺り一面に毒霧がまう。
「市香~久しぶりのお客さんだよ~♡」
桃香が両手にナイフを持ち、騎馬に向かって素早く駆け抜ける。
「パァン!」
桃香は軽い身のこなしで弾をかわしすぐに騎馬の距離に詰め寄る。
そこで騎龍の青龍刀の刃が桃香の頭上に降りかかるところで、
「パァン!」
と銃声が鳴り響く。
弾は騎龍の顔目掛けて真っすぐ飛んでくるのを銃声とともに察知した騎龍が咄嗟に桃香の頭上に振り下ろそうとした青龍刀で弾を弾く。
「も~う、桃香ってば気が早すぎぃ~。」
桃香と騎馬が見合って
市香と騎龍が見合って
桃香と市香は声を合わせて
「あんたの相手は私〜。絶対に殺ス!」
「あんたの相手は私〜。絶対に殺ス!」
と言い放った。
お屋敷にて…
黎達の推測が正しければ…
「ただいま飛翔型の監視映像より、屍の塔の頂上にて毒霧が発生しているとの情報が入りました!」
「映像を見せてもらえますか?」
「はい。こちらです。」
やはり桃香と市香、殺し屋兄弟と屍の塔で衝突していた。緑の霧でよく見えないが桃香が騎馬、市香が騎龍と戦っているようだ。
「ねーねー黎お兄ちゃん、桃香お姉ちゃんと市香お姉ちゃんはアンデッドだから毒霧が大丈夫だけど、どうしてあの兄弟は平気なの?人間なんでしょ?」
「私もあの霧は呼吸をするととても苦しかったのを今でも覚えています。到底人間が耐えられるものではないかと…。」
裕也と菱沼の疑問は最もで、黎も同じことを考えていた。
「…呼吸をすると…?…まさか!」
「どうしたの?黎お兄ちゃん?」
「裕也、屍の塔に向かいますよ。菱沼、お嬢は少し気を張りすぎてしまっているので、無茶しないように見守ってて頂けませんか?一応ダンテとライトもここに呼びます。」
「わかったよ!黎お兄ちゃん!」
「ちょっと………黎?何をするつもりなの?」
お嬢が不安そうな目で屈み込んで黎に視線を向ける。黎はお嬢を椅子に誘導して落ち着かせる。
「大丈夫です。お嬢、すぐに戻ってきますから。俺を信じて待っていてください。」
黎が両手でお嬢の左手を握る。
「お嬢、お嬢の率いる南グループは最高です。」
お嬢の視界から黎の姿が虚ろになっていく。
「お嬢、南グループに不可能なことはありません。」
お嬢の手から黎の左手が静かに離れるのがお嬢にはなんとなくわかる。
「お嬢、絶対に南グループの舎弟達を誰も死なせたりしません。」
黎の右手が遂に離れ、お嬢は黎を肌で感じ取れなくなるのがわかる。
「お嬢、俺はお嬢を信じています。だからお嬢も俺を信じて頂けませんか?」
お嬢が必死に黎の方に左手を伸ばす。お嬢は違和感に気づく。黎と共有しているはずの記憶が供給されてこない。
「黎……!」
お嬢は黎が裕也を連れてどこか遠くへ行ってしまうような気がする。
「黎…!黎…!!待ってよ…!!黎……!!!」
お嬢の虚ろな視界の中で黎がだんだん遠くなっていく。
「ドンッ!」
お嬢が椅子から崩れ落ちた。
「お嬢様!大丈夫ですか!?落ち着いてください!」
菱沼がお嬢を落ち着かせる。
「私を…一人にしないで…。黎……。」
お嬢の目からは涙が溢れ、視界が滲む。
お屋敷の広間を後にし、外へ出て行ってしまった黎と裕也の姿は、もうお嬢の目にはすっかり映らなかった。
次回 第9話 別れ
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