あの夏を取り戻す〜高校1年の夏休み〜

CocoA

あの夏の日

 私、桐崎桃きりさき ももがまだ幼かった頃。ずっと一緒に育った男の子がいた。名前は竜野涼たつの りょうくん。私が困ってるとすぐ助けてくれた、優しい男の子。


 「涼くん、明日は何して遊ぶ?」

 「……俺」

 「ん?」


 蝉が鳴く夕暮れの中、明日は何をして遊ぼうか。そんな話をするのが日課になっていた私達。


 いつも通り問いかけても涼くんは中々返事をしない。どうしたのかと顔を覗き込んで見れば、それはとても悲しげだった事を今でも鮮明に覚えてる。


 「明日、引っ越すんだ」

 「え……」


 突然そんな事を言われて、私も困ってしまった。


 明日から涼くんに会えないの……?


 帰って泣きながらお母さんに問えば、やっと聞いたのねと言わんばかりに、なだめるように抱きしめてきた。


 「なんで?なんで涼くん引っ越しちゃうの?」

 「……いろいろ理由があるのよ」


 後から知れば、その理由はご両親の離婚。当時の私に分かるわけもなく。今思えば納得出来る理由だった。



 そんな夏の出来事から数年。私は高校2年生になった。


 親友の橘瑞希たちばな みずきと至って平凡な生活を送っている。


 「待って瑞希!」

 「遅いよ桃ー」








 「おい待てよ椎名ー」

 「遅せぇよ。全く」






 そんな私達がすれ違っていたなんて全く気づかなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る