第3話 無尽蔵の体力

リギットの両親は本当にいい人だった。

自分で言うのもなんだが、見ず知らずの人間を快く泊めてくれるやさしさを持つ。親子だからか、考え方は似ているもので、『娘が勝手に助けたから』という理由だった。途中で拾ってきたとか聞こえたような気がするが、気のせいだろう。


俺は家の一室を貸してもらって、そこに住むことになった。俺的には厚意に甘えてもいいが、さすがにどうかと思ったので、家業の手伝いを申し出た。リギットの家はイメージ通り代々農家だそうだ。つまりここに住んでいれば新鮮な野菜が食べられるということ。


リギットの家がある村は小規模に分類されるような村で、人口も少ない。リギット世代やリギットより下の子どもの数は10に満たないぐらい。だが、特に高齢化している訳でもない。年齢層で言えばバランスの取れた村と言えるだろう。

人口は少ないが辺りの土地は広大であるため、リギットの家が持つ畑もかなり広いらしい。その広さを生かしているため、さまざまな種類の野菜を育てても、一種類あたりの数は充分すぎるほど採れるのだとか。

余談だが、リギット達は姓を持ってないらしい。この辺りで姓があるのは領主など王侯貴族だけ。


余談はどうでもよくて、今は畑のほうだ。リギットの案内で畑に来たのだが、はっきり言って圧巻の光景だ。まさしく、見渡す限りの農場。北海道の農業地帯とかはこんな感じだったなぁ。行ったことないけど。

育てている野菜の種類はなんと10種以上。しかも、その一つ一つが地球の一般的な農家の方と同じ収穫量を誇る。これが他の家もなのだから、村はもっと繁栄してそうだが。


今の時期、ちょうど半分ぐらいの野菜が収穫シーズンだそうで、俺はその収穫を手伝うことになった。もちろん、手作業だ。まだ5、6種類ぐらいの収穫の仕方なら、即興で覚えられる。さすがに10種は無理だ。

そうして収穫すること約6時間。長かった……。数の暴力とはこういうことを指すのだろう。

ただ、リギット曰く、普段ならありえないほど短いらしい。普段なら丸一日かけても終わらないそうだ。今日はリギットが俺を拾ってくるというトラブルがあったため、半分いかないだろうと思っていた3人はとても驚いていた。その驚き方がまた面白く、あんな3人そろった反応を見せられると、親子夫婦が如何にそっくりになるか理解してしまう。


昼頃から始めたので今は夕刻。太陽が沈みかけているところだ。

当然、運搬用の機械なんかある訳ないので、何往復もして家に運んでいく。そして最後のカゴを持ってリギットと並んで歩いている。リギットの両親は先に家に戻っている。


「いやぁ、ほんとに助かったよ。まさかあんな早く終わるなんて。」


「宿代だと思ってればいい。泊めてもらっている以上、これぐらいは当然だ。」


「だから、そのスピードが異常なんだって。私が一個収穫する間にレイは何個収穫してたと思ってるの?10とか20じゃないんだって!」


「へぇ、そんな数いってたのか。ま、俺はちょっとズルしてたからな。お前より数が多いのは当然だ。」


「ズル?」


俺が使ったズルとは魔法のことだ。切り離すタイプの野菜は、風属性で通常の刃物では時間がかかるところを一瞬で切り、引っこ抜くタイプの野菜は土属性で野菜の周りから土をどかし、ただ持ち上げるだけにして収穫していた。魔法無しの手作業からしたらズルだろう。


「それはいいとして、レイがいると作業効率が段違いだなぁ。私達もいつもより余裕があって、話しながらできたし。……ねぇ、レイ。レイさえよかったら……」


リギットが顔を逸らし、何かを言いかけたその時


「あーーーーー!リギットお姉ちゃんが男の人連れてるー!」


突然、女の子の声が響いた。

声のしたほうを見ると、何人かの子供がこっちに駆け寄ってきていた。おそらく、この村のちびっ子たちだろう。全員、まだ10歳前後か?

先ほど叫んだ声と同じ声の女の子が言う。


「ねえねえ、リギットお姉ちゃん。その人、誰?お姉ちゃんの恋人さん?」


「こ、恋人!?」


女の子の発言にリギットが赤面する。あーあ、普通に否定すればいいものを。


「へぇー。リギット姉ちゃんに恋人かぁー。やったじゃん。」


ほら。リギットの様子を見た男の子がからかい始めて、周りの子も便乗し始めたじゃないか。

それにしても、こういうのどかな村の子ども達は元気だ。どこからそんなエネルギーが沸いているのやら。今の日本の都市部の子どもはそうはいかない子が多い。機械という文明の利器に触れるかどうかは、大きな差を生むのだろう。

俺はいまだに赤面しているリギットを呼び戻す。


「おい、リギット。さっさと戻ってこい。子ども達が誤解したままだぞ。」


「……ハッ。あ、ち、違うよ!レイは、このお兄ちゃんは訳あって今ウチにいるの。恋人って訳じゃないから!」


「ウチにいる?一緒に住んでるの!?」


リギットがアワアワし始めた。さすがに助け船をだすか。


「俺はリギットに助けてもらってね。その関係で今お世話になってるんだ。」


「そうなのか!なぁなぁ兄ちゃん!その話、もっと聞かせてよ!」


「別にいいが、今日はもう晩いだろう?だから、また今度な。」


「ちぇー。じゃあ兄ちゃん!約束な!今度会ったら聞かせてよな!」


「私も一緒に聞きたい。いい?」


最初の男の子と女の子に続いて、他の子も口々に聞きたいとせがみだす。

別に話すくらいはいいだろう。


「いいよ。ただし、仕事がないときな。ほら、そろそろ夜になるからさっさと帰ったほうがいいぞ。」


「分かった!またな、兄ちゃん姉ちゃん!」


子ども達は走っていった。昼間、遊んでいるだろうにまだ元気とは。子どもの体力は無尽蔵かっての。人間という種の不思議だ。


その後、立ち直ったリギットと共に家に戻った。立ち直ったとはいえの状態だったが、まぁいつか戻るだろう。


その日の夕食はその日採れた野菜を使った料理で、とても美味しかった。小枝亭といい勝負だが、自分で収穫した分、こちらのほうが美味しく感じる。






——————————————————————

【あとがき】


のどかな風景って癒されますよね。










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