第2話 知らない天井だ

―――――知らない天井だ……。


テンプレのセリフだ。自分が思うことになるとは考えもしなかったが。

文字通り知らない天井、壁、床。木造の建物で俺はベッドに寝かされていた。これじゃあ病人みたいだな。


何故俺はここにいる?とりあえず思い出せるところまで思い出す。

たしか、アルレルを出て、行き当たりばったりの旅だから空を飛ぶより歩いたほうがいいって考えて。それで道を歩いているときに……そうだ。


自分が何をしたのかは思い出した。だが、血を吐いた以外何が起こったのかは分からない。俺がしたことによって吐血したのは間違いないだろうが、因果関係がさっぱりだ。


……いや、いいや。どうせ時間はたっぷりあるんだ。ゆっくり考えていけばいい。旅をしていく中で、新しい発見をし、そこから結輪を見つけるのもまた醍醐味なのだろう。


さて、ここはどこかな?見たところはただの一軒家に見える。うん、やっぱりただの一軒家のようだ。魔法便利。木造の平屋。部屋数は多くも少なくもなく。人間は……いるな。この家には3人。男一人、女二人。ん?うち一人がこっちに向かってくる。


コンコン


「入るよー。……って、あ!」


入ってきたのは同い年くらいの少女。ラノベのような、いかにも村娘と言わんばかりの装いだ。


「よかった。目が覚めたんだね。」


「あなたが私を?」


「うん、そうだよ。びっくりしたんだからね?草の上で君が倒れてたんだから。周りに何もないところでちょっと怖かったよ。」


「そうでしたか。それは」


……まて。


「一つお伺いしたいのですが、周りに何もなかったとは?」


「え?そのままの意味だよ?あそこは草しかないけど……。」


「何か、異変は無かったですか?」


「うん。ほんとに、緑の草が広がるだけの場所だったよ。」


なるほど。俺が見た血だまりは無かったと。

おかしな話だ。何者かが隠蔽した?俺は移動中も警戒はしていた。襲撃を受け、不覚を取られた訳ではないはず。あそこは町から離れた場所のはずだから、通行人がどうこうした可能性も低い。そもそもメリットがないだろう。

あとは……。考えたくはないが俺が『空間』を無意識に使ったか暴発でもしたか?だとすると……

やはり。『空間』でのマップ表示が事実を物語っている。地名に関して、俺の空間マップは知っている場所は名前が表示される。しかし、マップ上にラーベアル王国やアルレルの文字はない。それどころか、今自分がいる場所以外、一切の情報が無い。どこか遠い場所へ転移してしまったとみるのが妥当か。何も知らない異世界に転移して、こんな短期間で別の知らない場所へ転移することになるとは思わなかった。

幸い、地球からこの世界みたいな意味不明転移じゃなく、異世界内の転移だ。いつかは辿り着くだろう。


「ねぇ……。大丈夫?さっきからボーっとしてるけど……。」


そういえばマップは他の人に見えないんだったな。マップ自体が網膜投影みたいな感じなのかもしれない。


「すみません。改めて、助けていただきありがとうございました。」


「ううん、いいよ。言ってしまえば私が勝手に助けただけだしね。誘拐とか言われなくてよかったよ。私はリギット。君は?」


「私はレイ。」


「レイね!よろしく!そんな堅苦しい敬語はいらないよ。なにかの縁だと思って仲良くしよ。レイは今いくつなの?」


「15です。」


「嘘、同い年!?同い年で言葉遣いにこうも差が出ちゃうかぁ。うん、敬語はなしで軽めでお願い!仲良くしたいのもあるし、私の精神的にも!」


「……分かった。」


ラスカとも同じやり取りをしたような……。


「うんうん。ちゃんと敬語抜きで話せるようで安心。レイはどこから来たの?」


はい、面倒な問いいただきましたぁ。ほんとに、どう答えたものか。

馬鹿正直に、ポカやらかして血を吐いて転移しちゃったみたいです、んでいつの間にかその血は消えちゃってて、なんて言う線は当然ナシだ。一番面倒なことにならなさそうで、かつ現実味のある返しは……。若干賭けになるが、これで行こう。


「実はまったく覚えてなくて……。いつの間にかあそこにいて倒れてしまってた。」


「ええ!?だ、大丈夫なの!?」


「ああ。別に自分のことを忘れた訳じゃない。ただ、なんであそこにいたのかは分からない。」


嘘はついていない。なぜここに転移したか覚えてないし、転移したのかも怪しい。原因に予想がついているというだけだ。

この答えの弱点は少しのぬけに気づかれること。そんなことあるわけない、なんか話が飛んでない?とか言われたらどうしようか迷うことになったけど、その心配はなさそうだ。


「そうなんだ……。じゃあ、ここがどこかも分からなくて、行く当ても無いってこと?」


「そうだな。邪魔だって言うならすぐに出ていく。介抱してくれてありがとう。」


「邪魔じゃないよ!行く当てが無いんならウチにいればいいって。ほら、勝手に助けたのは私だから。きっとお父さんとお母さんもいいって快諾してくれるから。」


下にいるのは両親か。


「いいのか?」


「もちろん!」


正直、まだここの場所が全く分かっていないし、原因不明の転移からして、家があるのはすごくありがたい。今の状況でうろつくのは得策ではない。この辺りの知識を蓄えてから行動すべきだな。


「決まりだね!動ける?お父さんとお母さんに聞きに行こう。私一人よりもレイがいたほうが説得しやすいから!」


そう言って明るく笑うリギット。人懐っこい猫のようだ。

ついてきて、と言わんばかりに部屋から出ていく。浮かれすぎな気がしなくもないが、これも個性か。


……説得?快諾してくれるんじゃなかったのか?







——————————————————————

【あとがき】

第二章第1話については、かなり後にならないと出てきません。


この話、ほのぼのに見えますが、実は重要だったりします。

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