第18話 私の気持ちは

サネルを爆破した直後。

俺とアネモネは結界の外に『転移』していた。アネモネを下ろし、結界を解除する。


「おお、壮観。」


サネル跡地には文字通り何も無い。死骸も建物も食料も何もかも。普通に爆破しただけではこうはならないはずだ。もとから何も無いところを爆破しましたって言うほうがしっくりくるぐらいだ。

そんな景色に感激していると、メインが残っていることを思い出す。いまだに黙り続けるアネモネをみる。


「どうだった?形は違えどお望みの復讐ができた気分は。」


さぁ、聞かせてくれよ。


「・・・ん。ちょっと待って。」


「?」


そう言うとアネモネは立ち上がりクレーターに向かって歩いていく。その表情は俯いていて見えなかった。いったい何をs


「ざまぁみろ!!」


突然の叫びに俺はポカンとするしかなかった。えぇ・・・・・・。アネモネさんあなたそんなタイプでしたっけ?

そんな俺をよそにアネモネは叫ぶ。


「お前がやった事は許さない!!こうなったのは当然の報い!!お前が全て失うのは当然!!領民がみんな死ぬことになったのもおまえのせい!!自業自得!!何もできないくせに私のお父さんとお母さんを殺した!!あの世でお父さんとお母さんにえいえんにあやまれ!!ずっとずっどあやまれ!!お前が・・・・・・」


途中から泣き始めて声が震え何を言っているか分からなくなった。言い終わったアネモネは涙を拭っている。

ちょっと待って俺はアネモネに問い掛ける。


「それじゃあ、感想を聞こうか。」


アネモネは涙を拭い、振り返る。


「ん、満足!」


その声はもう震えていない。











「さて、これからお前は契約通り俺の駒だ。」


あのあと、数分待ってアネモネを普段の状態に戻した上でアネモネに告げる。


「・・・・・・ん。」


アネモネ頷いたものの、その表情は晴れていない。


「どうした?復讐には満足したんだろ?それとも今になって駒扱いが嫌か?」


そう問うとアネモネは首を横に振った。


「違う。復讐には満足したし、駒を契約だし特に思うところはない。」


「じゃあ何で沈んでるんだ?」


「変な感じ。あんまり実感がない?嫌とかじゃないのに何故か変な気分になる。」


うん?どういうことだ。嫌じゃないのに変?満足はしていて特に文句もない・・・・・・あ。


「もしかしたら、お前は今寂しいのかもな。」


「え?」


「ほら、お前は両親を殺されてから復讐復讐言って他のことに対する余裕なんてなかったろ?それが、全て終わった今になってでてきてるんじゃないか?ま、仕方ないことだよ。急に殺されてからずっどつめつめだったからな。お前みたいな奴なら時間をあけてでてきてもおかしくない。だからと言って駒にするのは止めないが。」


思案顔のアネモネに俺は言い放つ。


「いいか、アネモネ。今のお前は親という拠り所を失って迷っている最中だ。止まる枝が無い小鳥のようなものだな。その上、復讐で人間を殺して、直接ではないとは言え町を消した。一気に不安とかがなだれ込んでくるのが普通だ。それが悪いとは言わない。そういうのを感じなかったり無視できるのは俺みたいな人種だけだろう。」


その不安とかの原因の一部は俺だが黙っておく。


「要はその不安やらをどうにかできる拠り所がない訳だ。そのせいでお前は虚脱状態になっている。拠り所は何もひとつじゃない。」


いつの間にかアネモネがじっとこっちを見ている。


「拠り所は一種の依存と言ってもいい。世間では、何かに依存せず自律し生きていくべきだ、とか言われてるらしいが俺はそうは思わない。別に依存したっていいじゃないか。拠り所を見つけられるのは自分の武器にもなり得るし、生きるための一助ともなり得る。使い物にならなくなるぐらい行き過ぎるのは考えものだが。まぁ、何が言いたいのかっていうと拠り所を見つけろってのことだ。お前の元の性格的にそういったものは必要だろう。いつか、そんなものを見つけるまでは、」


俺は笑って、ギザったらしく言う。


「俺の命令を拠り所にすればいい。そのための駒扱いでもある。お前は基本自由ってのもあるしな。俺は忠実な僕を得て、お前はいつでも乗り換えられる拠り所を得る。もちろん、拠り所を見つけても命令には従ってもらうし、拒否権は無い。元からそういう契約だからな。」


言い終わるとアネモネは下を向いて考え始めた。これくらいは待ってもいいだろう。まだ、月は昇っている。

やがて、アネモネが顔を上げ聞いてくる。


「あなたは、私の枝になってくれる?」


俺は不敵な笑みを浮かべ答える。


「俺は敵には容赦しないが、忠実な駒はできる限り長く使えるようにする。精神面でもな。」


「ん。」


頷くとアネモネはこちらに歩いてきて、俺の目の前で片膝をついた。

そして、口にする。


「レイ、いえ、レイ様。私はあなたに救われ契約を交わしました。そのおかげで私は親の仇を取れました。だから、この命はあなたのものです。あなたの命令にはいついかなる時でも従います。どんな過酷な事でも、どんなに憚られるような事でも、全力を持って忠実にこなしましょう。」


忠誠の誓いを。


「そうか。」


対して俺はそれだけしか返さない。アネモネには、これで十分だろう。これからきっと役にたってくれるはずだ。

ただ、忠誠の証は渡すつもりだ。


「なら、今この時より、お前の名は『シャス』だ。これから駒として、よろしく頼むぞ?」


「はっ!」


アネモネ改めシャスが返事をする。








黒歴史というように、人間が過去に囚われることは多々ある。これは大袈裟な言い方だか、あの時こうしておけば、という経験は誰にでもあるのではないか。そんな経験がないのは人間全体の数%だろう。『過去』だって、何十年も前のこともあれば、昨日や数分前だって過去になる。度合いの幅は大きくあれど、こういった後悔は心に残りやすい。そして、これを独力で振り切れるものは少数派だ。後悔が大きければ尚の事。だから、人間は他をあたる。比べたがる。他人と比べたり、他人に聞いてもらったりして、紛らわそうとする。こうしたものを依存すると言うのではないか?これは悪いことではない。寧ろ推奨される方法だ。そうでもしないと、人間は壊れる。人間は脆い生き物だ。何故自殺する人がいるのか、突き詰めればそれは依存対象がないからではないか?決して誇張表現ではない。何なら、表現ですらない。逆を言えば、限度はあれど、依存する対象がいれば、全員にいれば、どうなるか。


シャスはもう大丈夫だろう。

 






【あとがき】

シャスが  仲間に  加わった!


本話の最後のほう、なんか語りみたいになってしまってすみません。


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