第17話 惨劇
「言ったはずだぞ。俺はお前の大切なものを奪うと。アネモネ、ついてこい。」
命、金、権力って具体的に聞いたのに、2つも奪わず終わるなんてありえないだろう?
俺はブタの首根っこを掴み領主館の屋根に上がる。お、ちょうどいい高さだ。領主館の敷地内に町を見渡せるであろう塔が建っていた。ここは町の中心だからちょうどいい。
「アネモネ。」
手招きしてアネモネを呼んだ。こっちに来たアネモネの腰に手を回して抱え上げる。え?というアネモネを無視し、俺は空に飛び上がった。『空間』の魔法で足場を創っていって、駆け上がっている。『空間』の代名詞のひとつとも言える使い方ではなかろうか。
俺は2人を抱え塔の天辺に来た。よく見る尖っているところだ。そこにブタを足場と同じ要領で打ちつけ、行動を封じる。これでブタは磔刑のようなかたちに、俺とアネモネは宙に浮いているような形で対面する
アネモネを創った別の足場に降ろす。足場は無色透明だが、怖がるようすはない。高所恐怖症ではないようでなにより。
「さ、ここから後半に入る。」
ブタがこちらを睨みつけてくる。ここまできてもまだ、余裕があるのか。関心関心。途中で放心されたりするとつまらないからな。
「おめでとう。後半はお前にとって絶望のオンパレードだ。俺達にとっては愉悦そのものだが。何か言いたいことがあるなら聞いてやるぞ?」
「こんな事をして無事でいられると思うな!国王陛下が、王国が黙ってないぞ!」
「せっかく命乞いのチャンスを与えてやったのに、それか。ま、どうでもいい。王国がどうとか、相手にならないし、お前は関係ないだろう?なにせ」
お約束のとってもいい笑顔を浮かべつつ、宣告する。
「お前はここで死ぬんだから。」
ブタが、え?という反応をする。もしかしてほんとに殺されないとでも思っていたのか?だとしたら今まで相当な暮らしをしてきたんだろう。おめでたいやつだ。
「では、始めよう。因みにこの町には魔法が使われていて、領民は1人たりともこの町から出られない、つまり逃げ場は無い。」
アネモネの突入後、結界を張ったのは領主館だけではない。町全体にも張っておいた。遮音効果付きで。
「今からお前はアネモネと似た体験をする。自分の大切なものを目の前で、何も出来ずに奪われる。後で感想を聞くから考えておけよ。いやー、ちょっと手こずったよ。建物を半数残し、なるべく死なないように負傷させるのは。」
始めの段階で皆殺しにしなかったのはこのためだ。というのも、ブタに見せつけるのに、ちょっと思いついたことがあった。まさかこんな使い道をするとは思ってなかった。ただ、使い方自体は応用も何もない、本来の有り様そのものだ。
俺は手のひらを掲げ魔力を込める。そこに球体が生成された。その色は綺麗な赤。
そう、火属性魔法だ。
「何故か俺は火属性の扱いが下手くそでな。放ったが最後、だいたい爆発する。さて、そんな危険物を町にポイするとどうなると思う?」
アネモネは察した様子だ。ブタは・・・まだ分からないのか。
ま、いいや。百聞は一見に如かず。
俺はほぼ爆弾を町に放った。
ドカーーーーン!!
おおー。着弾したところが吹き飛んだ。当然、そこにいた人間、建物諸共だ。ブタはようやく分かったのか、顔が青ざめていっている。
「どんどんいくぞ。」
俺は同じような魔法を生成しては町に投げていく。そうそう、以前はこれを創ると熱さで火傷しかけたが、全身を『空間』で隔てると解決した。アネモネとブタにも同じものを張っている。
建物は崩れ火がつき燃え無くなっていく。いたる所で人々の叫びが聞こえる。直撃して死ぬ人間、爆風に煽られ死ぬ人間、建物の火が引火し焼死する人間等様々だ。前半で足を怪我し、動けないものは爆弾や火が迫ってくる中何もできず死ぬしかない。動けるものは町の外に出ようとするが、結界が張ってあるため出られない。さらに、俺は町の中心から外側に向かって順番に放っていっている為、最後は結界と挟み撃ちとなり最期を迎える。俺の結界はこれぐらいの魔法が直撃した程度では何ともない。領主館の結界は外を見えなくしていたが、町の結界は見えるようにしてある。案外、出れそうで出れない、見えない壁との挟み撃ちの恐怖は、足を怪我したものより大きかったりして。
そして、魔法を投げ終えた。俺は魔法でこの町全域を確認する。地上、地下くまなく。間違いない。たった今、この町の人間は死に絶えた。
「終わりだ。今この町に生きている人間は俺、アネモネ、そしてお前の3人だけだ。これでお前は領地を壊された事で金、つまり財産を、部下を殺された事で権力を奪われた訳だ。さ、感想を聞かせてくれよ、って」
ブタはヨダレをたらし目を見開いて止まっていた。ナニコレ。
「どういうこと?生きてんのかこれ。」
「・・・たぶん生きてる。」
答えたのはアネモネだった。アネモネに感想を聞くのは後のお楽しみだ。
「・・・取り敢えず、水ぶっかけたら治るか?」
水属性魔法でブタの頭上に大量の水を生み出して落とす。時間にしてだいたい5秒ぐらい。
「ッガハ!」
あんな方法で戻るもんなんだな。
「ッハ、そうだ。今までのは全部夢だ。夢なんだ。だから私は目が覚めたら」
「何寝ぼけたこと言ってんだ?現実だよ。じゃ、感想を聞k」
「ギイィィィヤァァァァ!!」
「お、いい反応だ。どうだ?アネモネと同じような体験をした気分は。」
感想を聞いているのに、ブタは暴れて叫ぶだけで何も答えない。『空間』で固定しているから動けないのは当然だ。が、
「うーん?確かに絶望を味わえって言ったけど、受け答えができないとなぁ。」
「ぁぁぉぁぉぁぁぉぉぉぉだぁぁぁだ」
「このままだとずっと叫びつづけるか。・・・興醒めだな。」
「ひぃぃぃぃいぃぃぃぃぃぃぁぃぃぃぃい」
「うるさい。」
俺はブタの首を切り落とす。静かになった。
「はぁ、全く。受け答えできないまでいくのは面白くないな。効率重視やそれが目的ならともかく。要改善っと。さ、仕上げだ。」
俺はアネモネをまた抱え上げ、今度は塔より高く上がる。次に、町に張った結界を倍以上に広げる。
そして、手を空に伸ばし例の火球を生成する。ちょうどこの町と同じぐらいの直径で。
「さぁ、フィナーレだ。」
俺は腕を振り下ろした。
この日、日が昇る前にサネルの町は領主や住民とともに姿を消した。
町と同じ大きさの真っ黒なクレーターを残して。
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