ドラゴンと弱きものたち

@JingleJin

第0話 ドラゴンの巣作り

ドラゴン。


それは、この世界に数千種いるとされるモンスターの頂点に立つ存在。果てしなく広い世界にたったの数百体しかいないが、人知を超えた力を操り、世界を支配する存在。絶対に手を出してはいけない存在。


それがドラゴン。


モンスターからも、人間からも、ひどく恐れられている。


だがしかし、真の恐ろしさはその強さではない。


ではいったい、比類なき強さをも超えてくるとは何だろう?


それは、だ。


モンスター学者によると、ドラゴンのメスは千年に一度産卵し、百年かけて子育てをする。やがて巣立ちの時を迎えると、未だ幼さを残した独り立ち直後のドラゴンは、他の個体の支配下にない土地を求めて旅に出る。数年の月日を経て、琴線に触れる土地を見つけた瞬間――災厄が始まる。


何食わぬ顔で巣作りをするドラゴンの姿に狂気したモンスターの大移動が勃発する。森の木々はなぎ倒され、あちこちでモンスター同士の争いが起こり、川や海は血で真っ赤に染まり、そうして弱者がこの世から駆逐されていく。


影響が及ぶのはモンスターだけではない。当然人間も大損害を受けることになる。新たに出来た巣の近くに位置する村や町、都市は、大移動に巻き込まれて瞬く間に壊滅する。


壊滅した村や町、都市の住人は、安息の地への逃避行の中でその多くが命を落とす。だが、悲劇はそこで終わらない。避難民が大勢押し寄せた土地では、食料が枯渇し、最終的には衣食住をめぐった紛争に発展することも珍しくない。


そうやってモンスターと人を巻き込んだ大混乱は、運が良ければ数年、悪ければ百年も収束に時間がかかる。


そんな迷惑極まりないドラゴンという存在をこの世から消し去るため、歴史上多くの勇者がドラゴンのせん滅を掲げて挑み、一体も倒せずに破れていった。


つまるところ、弱者である人類はドラゴンに屈し、辛酸を舐めながら生きていかなければならないのだ。


長くなったが、僕が言いたいことはたった一つ。


一度ドラゴンの巣作りが起こると、人は多くのものを失うということ。故郷や仕事、そしていのちが手のひらから零れ落ちていく。


そう、まさに今の僕のように。

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