第8話

家に戻ると、咲さんは洗濯物を干す準備をしていた。

呼吸を整えて、汗を拭いて

咲さんが申し訳なさを感じないように元気な声で声をかけた。


「ただいま。」

「お帰り。暑かったでしょ。」

「まだ朝だしそうでもないよ、リンゴとオレンジ買ってきた。どっち食べる?」

「そっか。じゃあリンゴ。」

「了解。」


台所に行き、テーブルにそのままの食器を流しにおく。

リンゴをエコバックから取り出し、きれいに洗った。

リンゴはとても赤くて、中を見ると蜜入りだった。


「剥いてくれてるの?ありがとう。」

咲さんの声が聞こえたので目線はリンゴのほうへ体は咲さんのほうへ向けた。

あなたの話を聞いていますよと表現するために。


「見て。蜜入り。絶対おいしいやつだよ。」

そう言って半分に切ったリンゴを見せる。

「本当。おいしそうだね。」


剥いたリンゴを咲さんに渡して、

自分はパンケーキを食べた。


「すみませ~ん。」

玄関のほうから声が聞こえてきた。

「私出るよ。咲さん食べてて。」

ジェスチャーでごめんと伝える彼女ににこりと微笑んでから

「はーい。」

と玄関に向けていった。


「どちら様ですか~?」

と言いながらドアを開けると目の前には先日海辺で見かけた変な人が立っていた。


「あの隣に住んでいる夏樹ですけど、回覧板持ってきました。」

「どうも、」

「じゃあ、失礼します。」

と背を向けた彼を引き留めるかのように

「あ、あのご挨拶遅れてすみません。最近引っ越してきた結城桜と言います。」

お辞儀をしながら早口でそう言った。

初対面の相手にこんな大きな声で話すのは久しぶりだった。

{声、裏返ってなかったかな}

と思いつつ顔を上げると小麦色の肌に茶髪の髪がよく似合う彼は

少し驚いたような表情をして

「昨日、お兄さんからご挨拶してもらったので、

こちらこそよろしくお願いします。」

と冷静に答えて軽く会釈した。

「それじゃ、俺帰ります。」

「は、はい。」

短い時間だったけど、すごく長く感じた。


回覧板を胸に抱えてしゃがみこんで大きくため息をついた。

「びっくりした~。」

立ち上がってリビングに戻ろうと振り返ると兄さんが廊下に立っていた。

「なに?」

「いや、大丈夫だったかと思って。」

「過保護すぎ、これくらい余裕だから。」

「そうか?」

「そうだよ!てか、仕事は?」

「今は少し休憩中~」

「ふ~ん。」

横目で兄を見ながらサンダルを脱ぎリビングへ向かった。

リビングに戻ると咲さんが食べ終わった食器を片してくれていた。

「ありがとう。出てくれて、なんだった?」

「隣の夏樹さんから回覧板だって、」

「そうなんだ~。」



食べかけた朝食を口に入れながら窓の外を眺め見ていた。

山からひょっこりと頭を出している入道雲が見えた。

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