第7話

息が詰まるような感覚に起こされた。


ヘッドホンを付けたままいつの間にか眠ってしまっていたようだ。


{あっついな。今何時だ。}

手元に置いてあったスマホを付けると時刻は夜中の1時だった。

変な時間に目が覚めてしまった。


とりあえず下に降りるとリビングはまだ明かりがついていた。


父じゃないことを祈りながら扉を開けると姉の姿が見えた。

「なんだ、まだ起きてたの」

そう声をかけると、千夏は少しびっくりしたかのような顔をして、

「なんだ駿か。驚かさないでよ。」

と少し怒ったかのように答えた。


自分用の青色のコップを棚から取り出し、

氷水を作りながら千夏に声をかける。

「何してんの」

「ん~進路のこと考えてたの。私就職しようと思っててさ。」

「進学するんじゃなかったの。」

県内でも有名な進学校に通っている姉の口から予想もしてなかった言葉に

驚いた。

進学するものなのだと思っていた。

俺の疑問に千夏は答えなかった。

千夏は喧嘩も強いし、わがままだし、理不尽だし、

弟として接するのに苦労したけど、

人としてちゃんとしている人だった。

謝れるし、やるべきことはちゃんとしているし

家族の中で一番俺の話を聞いてくれる人だった。

そんな姉が真剣に考え抜いて出した答えなのなら

それについて尊重しよう。

そう決めて

「そっか。」

とだけ言った。


「なんでとか聞かないの?」

「別に、姉ちゃんが決めたんだろ。俺はそれを尊重するだけだよ。」

「優しいね。」

「そうかな。結局は姉ちゃんの人生だろ。」

「うん。優しいよ。」

「父さんたちには?話したの?」

「ううん。まだ。」

「そう。」


「自由に決めなさいって周りは言ってはくれるけど

本当に自由に決めることはきっと難しいと思うんだ。」


なんだよそれ、

さっき氷を入れたばかりのコップには結露がついていて

氷はもう溶け切っていた。

コップの周りに就いた水滴を指で拭っていると

「ねぇ駿。」

と呼ばれた。

「なに?」

「駿は自分のやりたいことちゃんとできてる?」

「なんだよ。いきなり。」

脈絡もないその話題に少しむせながらそう答える。

「いいから、できてるの?できてないの?」

さっきよりも硬めの口調でそう聞かれた。


めんどくさいな。

そう頭の中でつぶやきながら、にかっと笑いながら

「できてるよ。」

と答える。

俺の顔を見て千夏は何か言いたげだった。

さえぎるように

「千夏は自分のやりたいこと決めれただろ。

俺もできてるから心配すんなよ。」

そう言って「じゃあ寝るわ」と言いながらリビングを出る。


部屋に戻って時間がたって汗で生乾き状態のTシャツを脱ぐ。

新しいシャツに着替えまたベットに横になる。


千夏のさっきの言葉きっかけで昔のいろいろなことが感情が

自分の脳みそに鮮明によみがえってくる。

「もう過ぎたことだろ。めんどいこと考えんなよ。平和に過ごすんだよ。」

そう自分に言い聞かせて

この思考回路から逃げ出すかのように眠りについた。

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