大人になると言う事
羽弦トリス
人生は分からない事だらけ
僕は18年間、鹿児島の実家に住んでいて大学進学で埼玉県に移り住む。
中、高と目立って偏差値の高い男では無かったので、私立大学に進学した。
僕の人生は変わると思っていた。
法学部に進み、警察官か高校教師を目指していたのだが、1年生の夏に母が子宮ガンになり共働きじゃないと学費が払えない事を知っていたので、冬には自主退学して地元に戻った。
地元で介護施設に入社した。1年間ガードマンのアルバイトをしていたので、22歳まで介護職に就いた。
母は奇跡的に回復したので、僕はまた鹿児島を出て名古屋市に移り住んだ。親戚が岐阜にいて、日進市にも母のお姉さんが住んでいたので家族は安心して地元を離れる事を了承した。
アルバイトをしながら就職活動して、貿易会社に入社した。
かなりイジメられた。
僕が田舎者と言う事だけで、先輩や事務員に馬鹿にされた。ヘルメットで殴られた事もある。
愛知県だって、田舎じゃないか。車で15分走れば田んぼや畑がある。
でも、会社で初給料をもらった時は嬉しかった。それまで、給料といったら15万円程度しかもらっていなかったので、23万円に喜んだ。
給料日、彼女がいたので2人で焼き肉屋に行ったのを覚えている。
自分のお金で焼き肉屋に行けるようになると、大人になったと感じる事が出来る。
26歳の時、高校時代から付き合っていた彼女と別れた。
理由はあるが、書きたくは無い。
そして、28歳の時、名古屋の女の子と付き合うようになった。
2年間付き合って、結婚した。
問題のある家庭の娘で、時々常識外れな言葉を発するが、僕の方も常識外れだったので、ケンカはあまりしなかった。
30歳で結婚したが、2ヶ月後妻は僕の子供を身ごもった。
僕らはハイタッチして喜んだ。喜んでいた落とし穴が。
長年のイジメと超過勤務、給料のピンハネで僕は精神を病んでしまった。
結婚して数ヶ月でうつ病になり、会社を退職した。
妻は僕に献身的であった。だから、余計に辛かった。
早く病気を治さねばと。
しかし、その1年後には統合失調症と診断され、即日入院となった。
幼い子供と妻を残して入院していた時、僕は絶望感を味わった。
退院すると、ハローワーク通いが続いた。
1日中ハローワークにいるので、妻は弁当を作ってくれた。
延長保育になりそうな日は僕が子供の手を握り一緒に帰宅した。
統合失調症は治らない。
だが、幸い障害年金を少し貰えるようになってから、妻への罪悪感は軽減したが、無職では辛い。
毎日、毎日、ハローワークとパソコンの前に座り夜中まで仕事を探した。
精神障がい者となった僕はA型作業所で働く事になった。
それが、15年間も。
早く一般に就職したいと思っていたが、統合失調症は甘い病気では無い。
精神錯乱に陥り、自殺を図ったが未遂に終わった。
そして、現在もA型作業所で働いている。出来そうな仕事を見つけては応募するが、もう年齢が40歳以上なので、転職は難しい。
愛想をつかした妻は、春のある日、離婚を口にした。
僕はもし僕が嫁さんの立場なら、同じ結論を出していたかも知れない。
離婚は子供が成人する、4年後と決まった。
あの日から、妻の顔を見るのが怖くなった。
何度も書いているが、マンションの都合で僕は9年前から独り暮らしをしている。
妻の家族にはとても嫌われている。妻のヒモだと。
こっちは、障害年金も給料も全部渡しているのだが、知らないのだ。
義弟は事あるごとに僕を非難した。お義姉さんも、働かざる者食うべからずですと言っていた。
僕はこんな人生を歩むとは夢にも思わなかった。
いつも、自分自身を責めている。
酒を飲んでも楽にはならない。ただ、家族が健康である事だけが幸せである。
子供とは定期的に会っている。でも、何も知らない。心苦しい。4年後名字が変わるのかと思えば辛い。
でも、責任は僕にある。もっと、自分の身体を労るべきだった。
がむしゃらに働いた結果、病気になった。
これからも、転職活動は続ける。
幸せって、一体何だろう?
僕は明確な解を見いだせない。
ただ、離婚しても家族が元気でいる事を願うだけ。
多分、結婚式なんかも呼ばれないと思うとちょっとね、悲しいよね。
ま、僕にはかけがいの無い友人が多い。
人生の先輩であったり、同じ病気を抱えながらも頑張って働いている友人。
僕は1人じゃない!
そう、最近は思い始めている。
終
2024/06/29
大人になると言う事 羽弦トリス @September-0919
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