スキル【持たざる者】の俺、無能ではなく素手なら最強でした
渡良瀬遊
第1話 【持たざる者】の転落
―ー王立セイファード学園。
セイファード城の敷地内にある、まるで王族の邸宅のような、豪華な教育施設。
その大教室に、俺たち、第51期の1年生26名が集められていた。
「どんなスキルが出てくるかなぁ、楽しみだねぇ」
両手をほほにあてて、ニコニコしているこの少女はオリヴィア。
魔力操作の腕は学年1位で、今日の結果次第では未来の宮廷魔術師長になるともうわさされている。
また、長く伸ばした桃色の髪と、大きな猫のような瞳、そして透きとおった白い肌から、学園内でも屈指の人気をほこっている。
「お前はのんきだな……。俺は気が気じゃねーよ。16歳の今日、ある意味未来が決まっちまうんだからな」
「アストくんは心配性だねぇ。悪いことを考えると本当になっちゃうんだよ?」
今日は通称「
世界でもっとも精度がたかいと言われるスキルクリスタルで、1年生全員のスキル適正を鑑定し、2年次のクラスを決めるのだ。
2年次以降のクラスは、武芸、魔法、支援の3つがある。
3クラスに序列はない。まあ、セイファードの卒業生なら、どのクラスでも好待遇は保証されている。
しかし、うわさによると、戦闘向けスキル適正がなかった生徒が退学処分になったこともあるとか……。
「1年間、がんばってはきたけどな。こればかりは運まかせだよ……」
手に汗をかいてしまう。
セイファードでは1年次にさまざまなスキルの基礎を叩き込まれる。
2年次にどのクラスに入ったとしても、護身術としての武芸、世界のことわりとしての魔法知識、チームワークの基礎である支援技術は必須という教育方針らしい。
詰め込み教育のきわみである。
今日の結果次第では、1年間のがんばりが無駄になる可能性もあるのか……。
「俺にもいいスキルが発現するかな……」
「アストくんなら大丈夫だよぉ。……わたしね、夢があるの。ふたりで冒険者になって、アストくんが前衛、わたしが後衛で、魔法でサポートするの。そして、お薬とか、生活が楽になる魔法とかをたくさん見つけて、街のみんなによろこんでもらうの。きっと楽しいよぉ」
「……前から聞きたかったんだが、どうして俺をそこまで評価するんだ? オリヴィアのほうが武芸も上じゃないか」
俺は1年生のなかでも最下位の成績だ。
地元では神童と呼ばれていたし、セイファードに入学できるくらいの武芸と魔力操作はできるが、上には上がいたのだ。
「アストくんはきっとこれから伸びるよぉ。だって、模擬戦のとき、素手でわたしの木剣を奪っちゃったことあったよね? あのときから、わたしはアストくんのこと、天才だと思っているのぉ」
「結局、先に木剣を弾かれた俺が判定負けになったんだけどな」
「実戦向けじゃない審判だったよねぇ」
そんな話をしていると、武芸学年1位のルーザンが話しかけてきた。
「よぉよぉ、楽しそーに話してんじゃねぇぞ? 雑魚のアスト。てめーといると、オリヴィアの価値が下がっちまうんだよ?」
「え、どうしてなのぉ?」
「オ、オリヴィア、そ……それは、魔力操作1位の君にふさわしいのは、同じくらい才能がある、ボクのような人間で……」
「アストくんは、すごいよぉ?」
「オリヴィア、その認識はまちがいで……」
「その才能があるかどうかを確認するのが、今日の儀式だろ。ルーザンは席につけよ、そろそろ時間だぞ」
「キサマ、アスト……、くそ田舎の漁港出身のくせに……!」
「わたしねぇ、アストくんの故郷で新鮮なお魚を食べたいなぁ?」
「オリヴィア! ボクを困らせないでくれ!」
「おい、何を騒いでいる! 席につけ!」
水晶をもった先生が教室に入ってきた。あまり知らない男の先生だ。
「チッ! 覚えとけ!」
ルーザンは悪態をつきながら、席にもどった。
「……あんな態度をとられたら、見返してやりたくなっちまうな。頼むぞ、俺のスキル……」
先生は教卓に赤いマットを敷くと、その上にスキルクリスタルを置いた。
「私は2年の学年主任であるバイドだ。これからお前らのスキルを診断し、クラスの振り分けを行う。お前らは、各地の簡易クリスタルでは鑑定できないような、上級スキルを持っているはずだ」
先生はクリスタルの横に、水草からつくった紙を置く。
「だが、どんな良いスキルが出ても思い上がるな。1年次にはお前らがどれだけ未熟か叩き込まれたはずだ。才能はあって当たり前、それをどこまで伸ばせるか。それが2、3年次の考え方だ。では、登録番号1のやつから前に来い」
「はい!」
登録番号1、武芸が学年でビリから2番目の女の子が前に出る。
先生は女の子を教卓の前に立たせた。
「このクリスタルに魔力を当てろ。私がよいというまで続けること」
「は、はい! いきます!」
女の子がクリスタルに魔力を当てると、クリスタルから光線が伸び、前に置かれた紙に文字を書き始めた。
じりじりという音とともに、焦げくさい匂いがする。
「め、い、ぐ、ん、し……。よし、やめ!」
「は、はい!」
先生は紙を生徒に渡す。
「お前のスキル適正は【名軍師】だ。支援クラスに入れ」
「はい!」
残された生徒からはざわめきが起きた。
「最初からレアスキルか……」
「オレたちはなんだろうな……」
俺も不安になってくる。
(俺とそう成績は変わらないのに、あんなスキルを隠し持っていたんだな……)
すると、横からオリヴィアがのんきな声を出した。
「あの子もすごいねぇ。でも、この感じじゃアストくんもすごいスキルがあること確定だねぇ」
「前向きだな……」
少し気が楽になった。
俺の順番は一番最後。信じて待とう。
「よし、次の生徒、来い!」
「はい!」
そこからは、強スキルばかりだった。
【剣術(極)】、【槍術(極)】、【水魔法(真)】、【心眼】、【補助魔法(能力向上・低下)】、【回復魔法(全)】、【金属魔法】、【弓術(状態異常)】……。
俺に突っかかってきたルーザンも、
「やったぁ! 【魔法剣士(双剣)】、激レアスキルだぜ! 庶民ども、これがボクだ!」
と騒ぎ、先生に「
そして、オリヴィアの番が来た。
「お先にいくねぇ」
「ああ、頑張れよ」
オリヴィアがクリスタルに魔法を当てると、紙に文字が記されていく。ジジジジといつまでも続く。
「……やたらと長いな」
ぜんぜん光線が止まらない。ほかの人の3倍くらいの時間がたったとき、先生が「やめ!」といった。
オリヴィアに紙が渡される。先生は興奮して、
「すごいぞ、【細剣術(極)】、【聖魔法(真)】、【幻影魔法】の3スキルだ! どのクラスでもやっていける! オリヴィアくん、どこを希望する?」
「えぇと、魔法クラスを希望します」
「そうか……、私の武芸クラスも悪くないのにな」と残念そうにつぶやきながら、先生はオリヴィアに紙を渡した。
「次が最後だ。アスト!」
「はい!」
俺だってやってやる!
港町に残してきた父さん、母さん。
あたたかく送り出してくれたみんな。
そして、俺に期待をかけてくれるオリヴィア。
みんなの期待を裏切ることはできない。俺は気合いを入れて、スキルクリスタルに魔力を込めた。
ジジジジという音がする。俺は目を閉じて強スキルが鑑定されることを祈った。
「もうやめろ」
先生の声がして、俺は魔力操作をやめる。
気のせいか、声の調子がつめたい気がする。
「見てみろ」
先生は無愛想に紙を渡してきた。
俺は受け取って、スキルを確認する。
すると。
「――え?」
そこには、【持たざる者】と書かれていた。
俺の紙を見たルーザンがあざ笑う。
「ギャハハハハハ! 最下位のカスくんはスキルすら持ってなかったんですかぁ? ごめんなさいねぇ、ボクたちエリートと同じ場所で競わせてしまって!」
クラスメイトも同じような反応だ。
「アストはやはりダメだな……」
「たいしたことないもんな……」
「これじゃ、やってけないだろ……」
「アストくん……」
オリヴィアだけが心配そうに俺を見ている。
「あ、あ……」
目の前が暗くなる。
へたり込みそうな俺の腕をつかみ、先生は言った。
「お前は今日付けで退学だ。名門セイファード学園にお前のような無能は必要ない」
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