第24話 尾行

「あれはさすがにやりすぎでは?」


 店を出て少し行ったところでカリスがレヴに追いついた。


「……あそこまで不味いとは思っておらず感情が抑えられなかった。すまん。」

「……良いですけど。それとこれどうします?」


 カリスの手にはもったいないからと飲みきった酒瓶があった。


「そこらに置いていけ。

「良いんですかね」

「たぶん良いはずだ。」


 曖昧な返事と共にレヴはまた歩き出した。

 だんだんと喧騒が戻ってくる様子を眺めながら彼らは歩いていく。


 大通りから少し外れた小道で二人は一息ついた。


「それにしてもどうします?特にやることもないんですけども」

「カジノとかどうだ?俺も始めて聞いたが……」

「あ、止めた方がいいです。」

「そういうとやりたくなるんだがな。」


 必死に止めるカリスを見て笑いながら二人は路地を進んでいった。

 当てもないがレヴがいる以上迷っているわけではない。


 そして路地と言っても人口が多いためかどこにも誰かしらいるため低住地区のような寂しさはない。だがそれゆえの問題もあるようだ。


「ほらよっと。」


 走りながらカリスの財布を盗もうとした子供を後ろにいたレヴがきれいに足をかけて捕まえる。


「中住地区にもいるですか?」

「仮にも裏街だ。低住地区に行きたくないっていうしょうもないプライドだけはあるやつがいるんだろうよ。」

「舐めていますね」

「まったくな。」


 仲介屋を見習ってもらいたいものだ。そうすれば多少なりとも低住地区の文明は発展するというのに、

 子供を押さえつけながら二人は軽口を叩き合った。


「は、なせ」

「嫌だ。」


 レヴが押さえつけている間にカリスはきつく紐でしばりあげた。


「で、どうしようかね」

「このまま返すのも楽しくないでしょうし……。」


 10~14付近の子供だろうか。顔は中性的な特徴をしており性別は判明できなかった。


「持ち帰ります?」

「面倒だな。保護者は?」


 レヴが聞くが子供は首を振った。


「いない……。孤児院でもないのか?」

「ここは一人で暮らせるような場所でもないですし。」


 しばらく考えた後レヴは子供の前に立つと頬に平手うちをした。


「お前が住んでいるとこに連れていけ。」

「い、やだ。」


 もう一回レヴは子供を叩いた。


「連れていけ。」

「やだ。きずつ、けるから。」


 それでも抵抗する子供に対し二人は強硬手段を取る。

 背中のリュックからモノクルを取り出すと、子供がつけた足跡を記録し始めたのだ。


「多分行けます。」

「ここはアレがいないよな?」

「ええ。」

「なら大丈夫だ。」


 低住地区であれば全てを無に帰す掃除機的な生物が足跡を消すがここにはそんなバケモノはいない。

 数世代前の調査モノクルでもくっきりと探ることができる。


 先行するカリスをレヴは子供を引きずりながら追っていった。


「あ、るける!」

「黙れ。」

「い、やだ。」

「……」


 多少の抵抗にも合いながら二人は特に壁に当たることもなく目的の場所へとたどり着いた。

 口に含めていた綿を取り除き、今度は子供を先頭にして建物へと入っていく。


 カリスはすでに臨戦体系を取っていた。

 それを見て微笑みながらレヴは軽い足取りで中を進んでいく。


「なんでそんな気楽なんですか?」

「室内なら銃よりナイフのほうが強い場合が多いからな。対処がしやすい。」

「……」


 呆れたながらもカリスは警戒を怠らない。

 丁寧にクリアリングをしながらゆっくりと3人は歩いて行く。


「足跡は?」

「続いています。」


 しばらく行った後でレヴがいったんカリスを止めた。

 ナイフで壁から鉄版を切り抜くとそれを次の部屋へと放り投げた。


「罠ですか?」

「いや、……なるほど。」


 意外なことに鉄版を投げ入れた部屋には何もなかった。

 この人もミスることがあるのかとカリスが安心した矢先、予想外のことが起こる。


「釣れたぞ。」


 満足げな声が響くとともに爆音がカリスを襲った。

 すぐさまレブが動き出し、部屋一帯に煙が広がった。


「銃は使うな!」


 甲高いかけ越えが聞こえると同時に、カリスは腹部に強烈な一撃をもらう。

 倒れ落ちるカリスを誰かが蹴り上げた。


「てめぇか。うちのガキを傷つけたのは。」


 先程の掛け声と違う怒声が放たれた。

 なんとか離脱を試みるカリスだったが体が動かない。


「クスリか。」

「痺れさせただけだ。」


 煙が晴れ、男は倒れ伏したカリスを担ぎ上げると仲間へと振り返る。


「すまん。取り逃した。」

「そうか。」


 少し予想外の結果に眉をひそめながらも男は歩き始めた。

 その後ろには猫背の少年少女が追従する。


「大丈夫だったか?」

「まぁ。ありがと」


 男とは別の背が高い女が縛られた少年を担いでいく。

 仕掛けてあった罠を器用に抜けながら集団は本来の住処へと舞い戻った。



 すぐ後ろに取り逃したガキを連れながら。







「そこらで休んでおけ」

「やったー」


 住処へ戻ると男は子供たちを女に任せてカリスを牢へと放り込んだ。


「起きたか?」

「あぁ。」


 出された飲み物をカリスは躊躇なく飲み込む。


「警戒しないんだな。」

「する理由もないです。」

「なんで内の子を縛っておたんだ?」

「掏られそうになりましてね。保護者を探しにやってきました。」

「……」


 ここにきて男はカリスが善意で少年を縛っていたことを知る、


「あらまぁ。どうするハイム?」

「どうしようかね。」


 いつの間にか煙草を蒸かしながら女が牢の横に佇んでいた。

 ハイムと呼ばれた男は頭をガリガリとかきながらある一点を見つめて言う。


「出て来いよ。」

「分かった。」


 すると男は見ていた方向とは別の場所からひょっこりとレヴが顔を出した。

 手にはナイフを構え、臨戦態勢のままゆっくりと二人に近づいていく。


 妙な雰囲気に二人が動けないでいるとカリスの手からナイフが放たれた。


「!?」


 住んでのところで避ける男だったがその隙を狙ってレヴは牢へと近づいていた。

 銃を右手に構えながらゆっくりと牢をクスリで溶かしていく。


「顔と手を上げろ。足は動かすな。」


 二人は手をゆっくりと上げるが顔は上げなかった、


 警告の後、レヴは実際に女の横へと銃弾を放つ。


「顔を上げろと言ったんだ。」


 自由の身になったカリスにレヴは左手で銃を渡した。


「とんだ時間の無駄だったな。」

「まったくです。」

「さっさとおさらばするか。」


 言うが同時にレヴは煙玉を地面に叩きつけた。

 すぐさま元出た道に戻ると二人は窓を破り、外へ飛び出した。

 3階ほどの高さから飛び降りるも二人に怪我はなくそのまま走り抜ける。


 それを呆然と見送った男女はお互いに顔を見合わせた。


「なんだったんだ?」

「さぁ?……悪い奴らではなかったけどね。」

「確かにな。」


 しばらく考えていた二人だったが、埒が明かないと踏んだのか思考を切り上げて子供たちの元へと戻る。

 後に何度も関わることになるこの二人との関係は、今では本人すらも覚えていないこの時に起きたものであった。


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