田舎のコンビニバイトで後輩女子が絶妙に甘やかしてくれる話。
Ab
第1話
「お買い上げ、ありがとうございました〜〜」
元気な、それでいてどこか間延びしたような声が店内に響く。
猛暑日。
外では蝉の声が騒がしく、照りつける太陽を煩わしいとすら感じる気温。
そんな暑さはしかし外の話で、冷房ガンガンな店の中にいて感じるはずもないのだが、レジの前に立つ少女は接客を終えるとでろーんとレジカウンターに突っ伏した。
「ひゃぁ〜〜っ、緊張したぁ〜〜っ!」
小さく足をバタバタさせて、その場でうにうに身を捩らせる。
ガバッと不意に彼女は顔を上げた。
「ねぇねぇ先輩、今のどうでした!? 私の初めてのレジ打ちっ! 結っっ構、いい感じじゃありませんでした!?」
期待感たっぷりの視線を向けられる。
が、こればっかりは先輩アルバイターとしてしっかり言わないといけない。
「え、挨拶がちがう……? ありがとうございましただけでいい? ……え〜〜、でも、通販番組とか家電量販店とかだとよく『お買い上げ〜〜』って言いません? あとたまにお洋服屋さんとか。はぁ……まぁ……ここはコンビニですけど…………」
あからさまにテンションが下がった。
少しだけフォローしておく。
「……はい。はい。……え? レジ打ちは完璧だった……? 初めてとは思えない手捌きだった? わ、わ、え、え、でしょ!? 完璧でしたよね!? えへへ〜〜、それですそれです! もっと褒めてくださぁ〜いっっ!」
あからさまにテンションが上がった。
気分を損ねないよう適当に褒め言葉を連呼しておく。
「器用でぇ、明るくてぇ〜、教えればなんでもできちゃう天才でぇ〜〜、その上最っっっ高に可愛い自慢の後輩ぃぃ〜〜〜? えへ、ふひひ、や〜〜も〜〜嬉しい〜〜っ! しかもその上乗せられやすいって、先輩ってば褒めす…………あの今のって褒め言葉でした?」
まずい、つい本音が。
ムス〜っと睨みつけられるが、顔が良いのであんまり怖くない。
するとちょうどお客さんが来たようで、入店のチャイムが鳴った。
「……こほん。……まあいいです。たくさん褒めてくれてありがとうございました! では、引き続き頑張りま〜〜すっ!」
そう言ってはにかんで、彼女はてってこ走って行った。良かった。機嫌良さそう。
……あれ、レジ打ちは?
そう思うのと同時、元気で明るい声がした。
「いらっしゃいませ〜〜! 何かお探しですか〜?」
……だからここは服屋かっての。
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