第36話
辺りから感じる魔物の気配に注意しながら二人は道を進む。
「あやしい気配を感じる、一旦止まろう」
とセイが周囲を警戒する。
レリアは頷いて剣を抜いて構える。
ショートボウをセイが構え、怪しいところに狙いを向ける。が、すぐには撃たない。
街も近いこともあるので、冒険者もいるかもしれない、と考えているのだ。
声を出して相手を確かめるのも手なのだが、盗賊の場合、こちらの位置を晒すことになるので判断が難しい。
まあ、この辺りに盗賊が潜むことは難しいだろうが……街が近いとはいえ魔物たちは普通に居るし、この先に向かおうとするような商人たちはいない。
「……」
がさごそと移動する音が近付いてくる。
ギャッギャッという声。臭いでこちらに気付いたのだろうか、足音が分散した。
セイは足音の移動先にショートボウを撃ち込み、剣を抜いた。当たったかどうかは解らないが、足止めにはなったはずだ。
相手が回り込もうとしたであろうところに向かう。
後ろからはレリアが付いてくる。
ゴブリンが四体……こちらの動きに分散から合流へと判断し直したのだろう。結局全部を一度に相手かとセイが内心溜息を吐く。
棍棒を振りかざす向かってくるゴブリン。
大きな棍棒を上から振り下ろしてくるが、動作が大きく隙もでかい。セイは難なく交わして剣でゴブリン切り捨てた。
首筋の辺りに剣先を走らせ切る。血が噴き出て苦しみながらゴブリンはやがて息絶えた。
凄腕の冒険者などは、魔力を乗せた剣さばきですっぱり骨ごと切断したり、上手く切りやすいところを狙って首を刈り取るものも居るのだが、パワーアップしているとはいえセイには真似できそうにないと思っている。
そしてレリアはそのセイが真似できそうにないと思ったことを実行していた。
残り三体のうち、手前の一体を足を止めることなく、魔力を纏わせた英雄王の剣で切って捨てて、その殺気と魔力に恐れをなして逃げ腰になる合流してきた二体のゴブリンのうち一体の首を刎ねた。逃げ出した最後の一体の背中から切り伏せ始末し、戦いは終わった。
ショートボウの撃ち込みいらなかったかもと思いながら、換金できそうなものをゴブリンの死体から取る。
道中で十分に魔物の素材を取ってきたではないかと思うかもしれないが、普段薬草取りのさえない冒険者が高額な換金物を持ってきたら色々面倒なのだ。
ゴブリンに偶然であって、何とか倒すことが出来た、程度の方が扱いは楽だ。
「……」
レリアはそんなセイの行動を、寂しそうに、切なそうに、見守りつつ辺りを警戒する。
レリアの視線を感じてセイはなるべく手早く始末をつけて戻る。
「ありがとうレリア」
「……かまわないさ」
感謝を述べるセイから視線を外すレリア。
「ではいこうか」
「……ああ」
短い遣り取りの後二人は再び歩き始めた。
***
「……セイ」
野営を二人で準備して、焚火を前に肩を並べる二人。
「……ん、どうしたレリア」
セイの声は穏やかで優しい。最後の夜と解っているためだろうか。
魔物たちは居るものの、激しく警戒が必要なものは少なくなってきている。
パチパチと爆ぜる焚火をぼんやりとセイは見つめていた。
「帰ってこられたな……」
「まだ、早いと思うが……そうだな」
少しだけフラグが立ちそうだからこういう会話に不安を感じつつも、そんな杞憂は自分だけだろうと思いながら同意をするセイ。
「最初は、私を始末するために仕掛けられた罠だと思っていたよ……お前もそれに関与していたと」
「……アレは……」
随分と昔のように思える記憶を掘り起こす。
「何か知ってそうなそぶりだな」
「……飛ばされる直前から知ってたといったら怒るか?」
「怒るな」
笑いながらレリアがセイを見る。
「光が自分の方に向かってきた時に音楽が流れたんだが……渡り人の自分だけが解る音楽が流れていた。まあ、音楽だけなら偶然ということもあるだろうが、光の線の伸び方といい知っている音楽といい……あれは、男女の恋人選びの機構だと思う」
「……ほう?」
セイの言葉にレリアの眉がぴくりと跳ね上がる。
「どうりで、調査団に色々な、今まで接点がないようなところからもあれこれ理由をつけて人員が送り込まれてきて訳だ。……何かしらの情報を掴みながらも情報を隠されていた、のか」
「……」
レリアの言葉に怒りと悲しみを感じてそっと肩を抱き寄せるセイ。
「ありがとう、大丈夫だ……と言いたいが……いいか? セイ」
「……」
ぎゅっと肩を抱く手に力を入れて彼女を抱き締める。
「それで、お前が選ばれたのか、私の……恋人、として……」
「さあ、どうだろうな……そうかもしれないし、そうでないかもしれない。具体的にあの遺跡の機能が正常だったかどうか何て解らないしな」
長い時を経て何かしらの不具合が起こっていても何ら不思議ではない。ちゃんと転移したことだけでも奇跡であると言われても納得できるくらいなのだから。
「……そうだな」
「ただ、お前が間違いなく良い女で、そこに惹かれたのは間違いないさ……」
「そうか」
こてん、とセイの方へ頭を傾ける。
「明日……明けの明星が輝く頃……発つことにしようか」
「……そうだな」
焚火を眺めながら二人はずっと寄り添っていた。
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