第2話 また逃げた



成人式のお知らせのハガキが、家に届いていた。


母親は張り切って振袖の予約と前撮り写真の準備を始めて、「○○ちゃんのおうちは緑色のお着物にしたらしい」とか「○○ちゃんは○○大学に通っているらしい」とかママ友のネットワークで私に伝えてきたけど、私は私で友達がいるので別に何でも良かった。


なんなら世の中便利なもんでSNSで出身校を検索したり、誰か一人でも繋がりのある人がいれば芋づる式で連絡先を探すこともできなくはない。


親に説得されて成人式にだけはでることにしたけどどうも気乗りしない。


(智紀も来るよね。)


私は初恋をずっと引きずっている。


失恋してからもう何年も経ってるのに、まだ引きずってる。

その間に彼氏ができたこともあったけど、上手くいかなかった。


できれば中学の同級生に会いたくないな。


智紀のまわりにはたくさん友達がいた。

私のまわりにはあまり友達はいなかった。


だれが私との再会を望む?って考えたら思い当たる人が居なくて私は余計に成人式に行くことが億劫になった。



***



「え?嘘、理菜?」


後ろから声がした。

成人式の式典の後、ホールのロビーではみんな和気あいあいと再会を懐かしんでいる。


聞き覚えのある声に私は振り向く。

そこには昔の面影を残した智紀がいた。

何年も会っていなかったけど、直ぐにわかった。

変わらない優しい声。柔らかい笑顔。


しかし。


「誰?」


私はその一言が精一杯だった。


もう私のことなんて忘れていて欲しい。

私の望むとおりになんてならないのだから。


私が「誰?」と言った時、智紀が目を大きくして驚いていたのはわかっていた。

それから少し眉間にシワを寄せたのもわかっていた。


でも私はひねくれ者だから、素直になれないから、初恋も吹っ切れないから、私の存在を消さなければ。


「ごめんなさい、みんな変わっててよく覚えてない」


私は逃げた。

でも、顔が見れて嬉しかった。


また逃げたはずなのに、「理菜!待って!」と腕を引っ張られた。


「本当に覚えてない?」


智紀は遊んで貰えなかった子犬のようにしょぼんとした様子で私を見ている。


「私、中学はあんまりいい思い出ないし・・・あんまり思い出さないようにしてて」


嘘はついていない。

私は中学校の1年生の時にいじめられていたから。

クラス替えでいじめは収まったけど、さらに追い打ちをかけられたのが智紀からの「彼女できた報告」だった。


「同窓会、来ないんでしょ」


誰かからのツテで同窓会のグループチャットに招待は来たが、私は入らなかった。


「俺、理菜と話したい」


「私は別に話すことないよ」


「俺はあるんだよ。ずっと前から、理菜と話さないとって」


「なんで?」


「なんでって俺はずっと理菜と話したくて」


「私より貴方と話したがってる人と話しなよ。ほら、後ろの子たち、私たちが話終わるの待ってるよ」


智紀の後ろに、当時のクラスメイトたちがいるのが見えていた。


私は背を向けて歩き出した。

ホールの出口まで遠く感じる。

ロビーはずっと賑わいをみせている。


「理菜!」


智紀の声がまだ聞こえる。


「番号、変わってないだろ!チャットする!連絡するから・・・!」


私は返事をせずに会場を後にした。






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