第18話「円卓決議、開幕!!」
円卓決議はくじの順番にプレゼンを行い、その後、質疑応答を行う。そして最後に三名の審査員によって決議が下される。
この三名の審査員は対決する二人と接点がない人物を円卓決議事務局が選定する。
今回選ばれたのは、
日本を代表する自動車企業、ヨータ工業・専務、沼田伸樹。
地域に密着した食品の卸売業者、笠松商会・社長、名島雄介。
有名スマホゲームの開発会社、UTLab・チーフディレクター、宮本宏子。
友菜はもちろん、北堂も三人と面識はない。
「それでは、只今より円卓決議を開始します」
司会が発言した直後、入り口付近でどよめきが起きる。
なんと、鷲山銀華・取締役が入場してきたのだ。
「嘘だろ……」
「取締役だ」
「マジかよ……?」
取締役が円卓決議を傍聴することは極めて異例。だが、誰しもが彼の登場にどこか納得していた。自分が負かした相手と、負けた相手。立場も役職も正反対の二人が円卓決議をするとなれば、彼が傍聴することも必然か。ざわめきは会場全体に広がっていった。
そんな喧騒などお構いなしに銀華はVIP席(役職者のみが入れる特別な傍聴席、一般傍聴席と比べて空席が目立っていた)へ向かうと、最前列のソファに座って足を組んだ。その様子を友菜は視界の隅でじっと捉える。
席に座った銀華は何も言わず、ただ司会者に向かって頷いた。
司会者は唾を飲むと「では、まず北堂ベル様のプレゼンです」と北堂に手を向けた。
北堂の頭上からスクリーンが下りてきて、スライドが映し出される。
スライドのタイトルは「渡邉茉莉乃氏の解雇通知の妥当性について」。
「わたくしは本日、渡邉茉莉乃氏の解雇通知の妥当性についてお話しいたします」
スライドが変わる。映し出されたのは一冊の冊子。表紙には「フューカインド規則」と書かれていた。
「まず、フューカインドが社員に求める要件は、人類の未来を創り出そうとする『創造力』、仲間と協力して共通の目標を成し遂げる『協働力』、どんな状況でも目標を達成しようとする『行動力』の三つです。
わたくしはこの三つのうち、『協働力』と『行動力』において彼女がフューカインドに相応しくない人物であると考えます」
次のスライド。そこにはスタッフエリアの防犯カメラに映る茉莉乃と親子の姿があった。
「彼女はさる四月十六日十三時四十七分、フューチャー・スタジオ・ランドにて来園者に従業員用トイレを使用させました。フューチャー・スタジオ・ランドの従業員規定には『来場者をスタッフルームに入れてはならない』という決まりがあり、彼女にも事前に配布しております」
(まるで裁判みたいだな)
川手将史は大学時代に窃盗事件の裁判を傍聴したことを思い出した。
さながら北堂は出世頭のエリート検事で、被告は渡邉茉莉乃か。
「やむを得ない理由であれ、規約に抵触する行動を起こす以上、上司や先輩の判断を仰ぐべきであり、彼女はそれをしなかった。これはフューカインドが求める要件のうち『協働力』に反しています」
一時停止された防犯カメラの映像の一部を覆うように「協働力」という文字が現れ、さらに上から赤いバツマークが押される。
「また、誤った手法で目的に向かって邁進することはフューカインドが求める『行動力』を大きく逸脱しています」
今度は「行動力」が画像に覆い被さり、また上から赤いバツマークが押される。
「加えて、こちらをご覧ください」
スライドが切り替わると 将史、富三郎、茉莉乃の三人の顔が血の気を失った。
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