満月の夜に烏 ~山神様の番(つがい)は、姉ではなく私だったようです
六花
序.ゆくかげの
いずれの御時にか。
この年、齢十七を数えた
この時代、夢に現れる人というのは、自分がかの人を恋うるためではなく、かの人が自分を恋うて夢を渡って来るのだと思われていた。けれどとある理由から、茜子は彼が実在する公達ではなく、自分の願望が生んだ夢の棲み人に過ぎないことを理解していた。
それでも、夜ごと彼の
だが今夜は、眠ってはいけない————眠ってしまえば身中に棲む
本来なら茜子は、その宴席に侍れない己の身を恥じ、嘆き、そして惨めに思いながら、邸の片隅に息を潜めて生きていかなければいけないのだろう。
悲しみをまったく感じないと言えば、さすがに嘘になる。けれど、自分に無関心で冷たい
果たして、既望の夢はその祈りを聞き届けてくれた。
「あかね姫」
左瞼の裏で星がちかっと瞬き、閉ざされた蔀格子の向こうより呼ばう声に、茜子は夢の中で目を覚ました。褥から立ち上がって袴と袿を身につけ、妻戸の掛け金を外すと、扉が外開きになり、内側に下りた御簾に訪い人の輪郭が映っている。
せっかくの夢なのに、舞台はいつも、女房からも見放された
「お待ちしておりました」
それでも、茜子は胸の高まりのまま、精一杯の心を込めて夢の訪れを歓迎した。釣灯籠に
「今夜は月が綺麗だ」
そう笑う彼の右目は、
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