10 駄目なら出さないよ

街への帰り道、まだオークの出現エリアだという事もあり警戒しながら進んでいる。


「クラウは逃げて!」


なんだろう?少し離れた場所から叫び声が聞こえた。

僕は声の聞こえた方を確認するが、木々に遮られ何も見えない。


「だめだよリーゼ!私もまだ[火炎]は使えるから!一緒に戦うよ!」

あ、あっちかな?というかこれは魔物と戦ってる感じだよね?


聞こえてくる声に緊急性を感じ、少し足を速める。


「えい!えい!えーい!」

声の場所に向かうと、木の向こうにオークが見え、その顔に火の魔法が3つ飛んできたが、そのオークが持っていた得物でそれらは弾かれていた。


「無駄撃ちしないで!早く逃げてよクラウ!」

「いや!リーゼも逃げるの!」


そんな声を聞きながらさらに近づくと、オークが3匹いるようだ。

黒いローブを着た女の子を守るように、剣を持った女の子が立っている。が、その足からは血が流れ少し腫れているように見える。剣の子を置いては逃げれない、というところだろう。これは2人では無理そうだ。


こんな状態ではさすがに横取り行為にはならないだろう。

そう思って先ほどの得物、木を石か何かで削ったように歪な太い枝を持った1匹のオークに、背後からゆっくりと近づき[突く]で心臓をずぶり。


突然の攻撃に奇声を発しているがもう慣れたもの。

暴れるそのオークの横をすり抜け、魔力に余裕があるので[疾風]で女の子たちの前まで移動する。決してカッコ良さを演出しているわけじゃない。安心させてあげたいからね。


「余計なお世話だった?」

確認は大事。決してカッコ良さを(以下略


「あ、ありがとうございます!」

「助かったー」

まあ、後2匹いるからピンチには変わらないんだけどね。一番大きかったのを仕留めたは良いけど鉄槍もないし…内心は冷や汗が止まらない。


冷静を装いつつも短剣を抜く。

膝をつく1匹のオークと、残る2匹を睨みつけるように短刀を身構えると、警戒した様子を見せるオークたち。少しの睨み合いの中、鉄槍を喰らい暴れていた1匹がようやく前に倒れ込む。

残った2匹は戸惑った様子を見せていた。


「私は左を」

「分かった」


剣を持った子が合図を送ると、左側のオークに向かって足を引きずりつつも飛び出し、左側のオークの足を切る。さすがにバッサリとはいかなかった様だがかなりの深手のようでそのオークは転がりまわっていた。

それに見入っていると、右側のオークの顔に3発の火の玉が集中砲火され、そのまま後ろへひっくり返っていた。魔法って良いなと思いつつ眺めていた。


そして剣の子は動きが悪くなった足を切られたオークの首筋を突き刺し、もう一体も同じように止めを刺していた。

2人は安堵したようにそのまま地面にへたりこむ。


「あの、本当に助かりました。ありがとうございます」

眼鏡で黒ローブの魔法使いさんがお辞儀してお礼を言ってくれる。


「助かりました!ありがとです!」

剣の子が笑顔でお礼を言ってくる。


「いや、僕は1匹倒しただけだったけどね。槍も無くなっちゃったし…実は後どうしようか困ってたんだよ。2人で倒してくれて良かった」

2人の素直なお礼に感化され、素直に事実を暴露する。


「えっ?実はやばいって思ってた?マジうけるー」

「ぷっ、だめだよリーゼ。この子のお陰で助かったのは本当なんだから」

「クラウだって今笑ったじゃん」

そんな2人のやり取りを見て、ほっこりとしてしまう。


「で、2人は軟膏は無いの?」

「あっ持ってないんです。高いから…」

「大丈夫。後で唾つけとけば治るし!」

そのゲカは唾で治らないと思う。


「確かに高いからね軟膏。あっ、そうだ!」

僕は思い出したように途中で採取していたトクサを一束取り出し、手ごろな石を二つ拾い、すりつぶすようにすると汁が滲んでいる。


「これで押さえておくとそれなりに効果はあるよ?」

「これって、草?」

まあ草だけどね。剣の子は首をかしげている。


「トクサ、ですよね?いいんですか?」

「駄目なら出さないよ」

「ありがとうございます」

眼鏡の子がトクサを受け取ると、剣の子の足にそれをあて、布袋からハンカチを取り出し縛っていた。


その後、忘れかけていたオークを解体し終わると自己紹介タイムとなった。

ちなみにオーク肉は僕は1匹分だけ貰った。久しぶりに魔法の袋がギリギリまで収納することになった。買取が楽しみだ。


剣の子は剣士クラスでリーゼロッテ。「リーゼと呼んでいいよ」というので遠慮なくリーゼと呼ぼうと思う。

眼鏡の子はやはり魔法使いクラスでクラウディア。こちらも「クラウと呼んでください」と恥ずかしそうに言うので少しドキドキした。


僕自身は盗賊クラスで[突く]と[疾風]しかできないFランク冒険者ということを伝えると、一緒にパーティ組まないかと誘われてしまった。僕の能力はちょっと特殊だし…どうしようか迷う。


「僕は…ちょっと特殊な戦い方をするんだよね…まずはお試しで良い?」

正直他の人にスキル玉なんかが見えるのかも気にはなっていたから、丁度良いのかもと思って受けることにした。決して女の子とキャハハウフフしたい訳では無い。


その後、一緒に街まで戻る間に森ウルフ3匹、角兎は5匹と遭遇した。僕も森ウルフを1体[突く]で倒すが、他のは2人が軽々と倒していた。2人ともまだLv20だと言うので、普通のクラスが羨ましく思った。


適度に話をしながら戻っていると、2人はこの街の出身で幼馴染。開化の儀で戦闘系のクラスとなったので、反対する両親を押し切ってやっと3か月ほど前に冒険者になったらしい。

僕の方は他領の出身だけど、実家に嫌気がさして家出したという事にしておいた。


いずれ全部話せるほどの仲間が出来るまで、この設定で押し通そうと思う。


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リーゼロッテ

愛称はリーゼ。ポニーテールの金髪の少女。年はアレスと同じ10才。剣士クラスで軽鎧を着込んでいる。明るく元気でちょっとアホな娘?食べることが趣味らしい。実家は宿屋だが両親の反対を押し切って冒険者となる。だが実家通い。


クラウディア

愛称はクラウ。紺色のストレートヘアで眼鏡をかけ、黒いローブを身につけた女の子。年はアレスと同じ10才。魔法使いクラスで博学。暇さえあれば本を読んでいるらしい。休日は街の図書館に入り浸る。実家は酒屋をやっているが幼馴染のリーゼと共に、両親の反対を押し切って冒険者となる。だが実家通い。

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