侯爵家の三男だけど能力板には大盗賊って出ちゃいました。

安ころもっち

第一章 アレス、侯爵家を追い出される

01 大盗賊はない…

僕の実家は王国の侯爵家。


三男なので適度なクラスを授かって、のんびり気ままに暮らす予定だ。


腐っても侯爵家だ。

三男の僕1人ぐらい、ぶらぶらしてても良いだろう。そう思っていた。


2人の兄とはあまり仲が良くない。

仲の良い妹が1人いるが、才女ゆえ2年前から貴族院に通っているのでここにはいない。そんな妹が卒業するのは3年後。それまでは帰ってこれないのは少し、いやかなり寂しい。


そんな僕も10歳となり開化の儀で能力板スキルボードを授かった。


クラスが『大盗賊』だって。

さすがに父ちゃんも激怒して家を追い出されたとさ。


僕は多少の金貨を執事のセレバスから受け取り、家を出て北に隣接する地方都市、クールビレ男爵領へと歩きながら、開化の儀の事を思い出していた。


◆◇◆◇◆


「アレス様の開化の儀を行います」


そんな感じで始まった開化の儀。

10才になると必ず行われる能力板スキルボードが授けられる大事な儀式。


王都から東に隣接するここ、ウイクエンド侯爵領の教会で[神託]スキル持ちの神官により執り行われる。


「アレス様の能力板スキルボードよ、ここに…」


その短い言葉と共に、僕は少しだけワクワクしながら両手を前にかるく上げる。

目の前に真っ白な石碑を思わせる板状のものが出現した。


――――――

アレス・ウイクエンド クラス:大盗賊 Lv1

体力10 魔力10 外殻0

力1 硬1 速1 魔1

スキル ---

――――――


なんということだろう。

これでおいらは天下の大泥棒!なんて言っている場合では無かった。大盗賊ってどんなクラスだよ。しかもスキルもなければ能力値もオール1。ダメージを軽減する外殻がいかくなんて0だ。

普通、外殻は100とか200とか桁が違うものではないのか?


体力が10なのは正直助かった。

いや10は激弱だよ?だけど体力が同じように1とかだったら、かすり傷で死んじゃうからね。


これは…人生詰んだのかもしれんね。


だが僕は三男と言えど侯爵家だ!食いっぱぐれる心配も…

念のためチラリと父ちゃんを見ると、激おこだなこりゃ…


[神託]スキルで大きく見えるように映し出された僕の能力板スキルボードの中身と、僕の間を何度も視線を彷徨わせていた父ちゃんの顔は真っ赤であった。


目の前の神官も本来は「アレス様は『大盗賊』を授かりました!おめでとうございます!今後の人生に幸あれ!」なんて言うんでないの?兄貴たちの時はあんなに元気に発表してたじゃん?

今はその笑顔を見る影は無いほどの落胆ぶり。


「アレス様、帰られるそうです」

執事のセルバスがとぼとぼ出口まで歩いて言った父ちゃんの代わりに、僕に帰ることを告げるので一緒に出口まで向かう。


来た時と同じように馬車に乗り込むと、父ちゃんがぽそりと口を開いた。


「大盗賊はない…」


僕も思わず「ほんとにね」と返したが、その言葉に反応するように父ちゃんが僕をキッ!と睨んできた。

僕が悪いわけじゃないと思うけど…


そしてほどなく屋敷に到着した。

先に降りた父ちゃんの後を追い降りるが、突然後ろを振り向いた。


「今日からお前の居場所は無い!どこへでも行くがいい!我が侯爵家に盗人は…いらんったらいらんのだー!」


血管が切れそうな声をあげ、顔を真っ赤に染めた後、父ちゃんは背中を丸めたまま屋敷へと歩いて行った。

追いかけようとする僕を、セルバスが肩をつかんで引き留める。


振り返ると、セルバスが顔を左右にふっていた。


「旦那様もおつらいでしょう。これぐらいしかできませんが…」


いや、つらいのは僕じゃない?


そうは思ったが、さすがに貴族が盗賊クラスじゃ笑いものだ。クラスは血筋にも関係すると言う。クラスが盗賊だと言うなら、過去に犯罪者がいたのかもと勘繰られてしまう。


一応我が家は名家なハズなのに、兄の2人は『剣士』と『戦士』だ。いまいちパッとしない。

父ちゃんは婿養子だけど『聖剣士』で、母ちゃんは『魔剣士』だ。2人の兄がアレだから、それだけに今後こそ!と思っていたに違いない。


仕方なしにセルバスから小さな袋を受け取り中を確認する。

ひーふーみー、金貨5枚。


5万ロズで何日持つかな?


不安はいっぱいだ。

だがこのままここに居続けても、きっと事態は改善されないだろう。こんな引きの弱い兄ちゃんたちのせいで後に託される妹、ユリアも心配ではあるが…兄ちゃんは旅に出なくてはならないようだ。


心の中で深く懺悔をしながら、トボトボと歩き北の街、クールビレを目指したんだ。


◆◇◆◇◆


それにしても体力10ってなんだよ!少なくとも僕は木から落ちてそれなりに大けがしたけど、体力10ならあの時死んでたんじゃないのか?開化の儀で弱くなってるんじゃない?大盗賊はレアだから帳尻合わせ?


考えても分からないことだらけだ。

そんな迷える僕も、3時間程歩き続けるとやっと街の片鱗が見えてきた。実家のあるウイクエンド侯爵領の北部の小さな街、クールビレ男爵領。

その周りを取り囲む、2m程度の石の壁が作られている。綺麗に石畳が整備されている道並みの先は、その石の壁が途切れ、護衛の兵が管理している建物が見える。あれが街の入り口なのだろう。


「思ったけど、身分証も無いから入れて貰えるかな?」

こんなところまで歩いてきて思った。


ウイクエンドを出る前に冒険者ギルドに寄るべきだったと後悔する。

だが、緊張しながら話しかけた兵士のおじちゃんも、「まずは冒険者カードを作れ。冒険者ギルドは入ってすぐだぞ」と丁寧に教えてくれた。世の中捨てたもんじゃないな。


そしていよいよ冒険者として登録すべく、冒険者ギルドを訪れた。

建物の入り口の開きドアが開けっぱなしで留め金がかかっている。


営業中は開けておくのかな?そう思いながら中へ入ると、そこには鎧や武器を身につけた多数の冒険者さんたちが、ガヤガヤと騒がしい声を上げていた。


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アレス・ウイクエンド → アレス

ウイクエンド侯爵家の三男でクラスは『大盗賊』で放逐されて…茶髪で140cmのやせ型。顔は整っている方だと思うけど?のんびり屋の性格で、趣味は読書と妹の妄想話を聞くこと。最近妹の話を聞けてないから寂しいな。


外殻は攻撃を受け止めるバリアのようなもの。運や根性、体力や魔力の回復量など、能力板スキルボードにない能力値もあるよ。

通常10才の開化の儀では20~30前後の能力値とスキルは2~3個取得する。

以後、多い人で10個程度のスキルを一生で覚えて行くのがこの世界の一般常識です。

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