第7話 蓬莱若菜との会合(ルール確認)

4月2日(火) 14時00分


 俺たちは蓬莱の部屋で、学園専用スマホについて詳しく調べることにする。


「普通のスマホにある機能には触れなくていいよね?」


「あぁ、この5つのアプリについてだけでいいだろう」


「じゃあアプリ順で確認しよう。はじめはルール確認について」



『ルール確認』

 校則とポイント制度の詳しい解説がある。


「校則はよくあるものと変わらないな。暴力行為、備品や建物などの意図的な破壊、外部との連絡。この3つは退学処分になるらしい」


「服装やアクセサリーなんかの指定はないね、気をつけるのはそれくらいかな?」


 普通に生活しているうちは問題ないだろう。


「ポイント制度に関しても、ほとんど説明されたことが書かれているな」


「新しい情報は進級時のHPについてだね」


 どうやらHPは1年生の間でしか用いられないようだ。


 MPは2年生でも使われるが、リーダー権を持つもの以外は0MPになる。

 ただし100万MPごとに2年生で役に立つボーナスを得ることが出来る。


「これなら2年は最終テストで進級確定者となった人が有利になるな」


「そうだね、500万MPの消費はかなり痛い。確定者か予定者にならないと」


「いや、予定者は進級できないと思う」


 学年には100人の生徒がいる。

 全員が10000HPを所持しており、MPは3月24日に行われる修了式の日まで貰えるため、1年間で358万MPを得るはずだ。


 生活費は学食定期の月6万MPでまかなえるとして、4月は無料。

 3月は短いため、4万MP。

 よって消費MPは年で64万MPになる。


 つまり学年末には1人あたり294万MPを手にすることになり、学年全体で得るMPの総量は2億9400万MPになる。

 これを500万MPで割ると58人分。

 この他に確定者が存在し、進級上限が60人であることを考えると、予定者が進級できる可能性は低いだろう。


「でも、そんなキレイに500万MPを手にするなんて無理じゃない? 実際はもっと少なそうだけど……」


「MPは譲渡ができるんだ。学年末に500万MPに届いていない生徒が大量にいるとき、何が起こると思う?」


 学年全体でとは思わないが、最低でもクラス単位で何かしらのアクションが起こるだろう。


 例えば500万MPに届いていない生徒のMPをかき集める。

 その集めたMPで進級できる人数を、何かしらの方法で決める。

 じゃんけんでもくじ引きでもいい。


 もしそうなれば、500万MPぴったりを所持する生徒が多数発生し、暫定者で60人近くまで埋まるだろう。


「あくまで予想にすぎないが、そうなると思う」


「そうか……ならHPよりMPを集めるべきなのかな?」


「MPを集めるにはHPが必要だからそこはなんとも言えないな」


「難しいところだね」


 俺たちはまだ特別テストを経験していないのだ。

 だからどのくらいHPやMPが変動するのか分からない。

 実際に特別テストを受けてから判断してもいいだろう。


「もうこれはいいかな、次のランキングアプリを見よう」


『ランキング』

 毎日0時に更新される

 閲覧できるのは順位のみで数値は判らない。

 順位はHPが多い順。

 HPが同数の場合はMPが多い順。

 それも同じの場合は入学時の成績順となる。


「ここに載ってる順位は成績順ということだよな?」


 そこに書いてあるのは『100位』の文字。


 100位か……。

 下の方とは思っていたが、まさか最下位だとは。


「そうみたいだね。私は95位」


「俺は100位だ。俺ら2人がクラスのワースト2か」


 一般人だから評価されるキャリアもない。

 仕方のないことだ。


「席順は成績順なのかな?」


 俺と蓬莱が隣なのだから、その可能性は高い。


「そうだとしたらクラス最下位の俺が左後ろの席だから、右前の席のやつが1位だな……誰だ?」


「その人は桜橋姫乃さんだよ。有名だから知ってるよね?」



『桜橋姫乃』

 超がつくほどの有名アイドル。

 元子役という経歴であり、人気アイドルグループの不動のセンター。

 CMやドラマなどにも多く出演している。


「さすがに知ってるさ。よくニュースでも紹介されてるしな」


「彼女くらいの人ならTOP3に入っていてもいいと思うんだけどな。」


「他のクラスの1位はもっと優秀なんだろう。知名度は一番あると思うが、能力も加味した結果5位だったんだろう」


「桜橋さんで5位なんて……やっぱりすごい学園だね。残りのクラスの1位はあとで調べてみるよ」


「俺も一緒に調べるよ。任せっきりは悪いからな」


「ありがとう。1人は寂しいから嬉しいよ」


「ランキングについてもこんなもんか。次はポイント管理だな」



『ポイント管理』

 HPの確認。

 MPの確認、譲渡、使用ができるアプリ。


「HPについては特に話すことはないな。まんな10000HPだし」


「そうでもないみたいだよ」


「違うやつがいるのか?」


「何人かに話を聞いたんだけど、成績の上位5人は15000HPも貰えているらしいよ」


 そういや少女先生から聞いたな。

 上位5人は有利な状態からスタートというのは、このことだったのか。


「5000HPの差はかなり大きいな」


「それだけじゃないよ。その人たちは学食やコンビニなんかの施設をタダで利用できるんだってさ。うらやましいよね」


 15000×365日=547万5千MP

 ただでさえ5000HPの有利がある。

 そのうえ生活費のことも考えずに済むので、何事もなければ進級できるだろう。


「Eクラスは桜橋だよな。あいつに取り入れば進級の役に立つかもな」


「その言い方は良くないけど、仲良くなるに越したことはないよね。クラスのリーダーみたいなものだし」


「賄賂としてMPでも渡すか? そういやMPは今いくらあるんだ?」


「2万ちょうどだね。昨日から配布されているみたい」


「せっかくだし譲渡機能を試してみるか」


 譲渡ボタンを押すと新しい画面が表示される。

 各クラスごとに分類された学校全体の生徒を選択できるようになっている。


「なるほど。学年が違ってもMPの譲渡ができるのか」


「使えるようで使えないな。対価として得れるのは情報くらいだろうし、テストの情報なんか買ったところでテスト内容は毎年代わりそうなものだ。そもそも情報の真偽を確かめようがない」


「そうだね。そんなことしてもMPを無駄に消費するだけかな。学年を跨いでの試験なんかがあればその時に使うくらいかな」


 他学年とのテストはありえそうな話だな。

 まぁ試験内容の予想なんて無駄でしかないんだが。


「試しに蓬莱に1000MP送ってみるよ……ん?」


「どうしたの?」


 送金するボタンから名簿が表示され、その中から蓬莱を選択する。

 すると、さらに選択肢が表示される


「送金は2種類あるらしいぞ。1つはよくある送金だが、もう1つは定期送金だとさ。」


「定期送金? 毎日1000P送るとかが出来るってこと?」


「みたいだな。期間と金額が選択できるようだな。せっかくだしこれを試してみるか」


 どうやら期間は最大で3月19日までのようだ。

 試しに2日間1000Pを蓬莱に送金するように設定してみた。

 すると画面にQRコードが表示される。


「これを私のスマホで読み取ればいいのかな」


 ピッ、っと電子音が鳴り、画面に【設定完了】の文字が出る。


「設定できたみたいだな。日付が代わるタイミングで送金されるみたいだ」


「こっちにも表示が出てきたから無事できたみたいだね」


「慣れれば簡単そうだな。定期送金はキャンセルできるのか? 俺の画面ではできそうにないが」


「こっちにはキャンセルボタンがあるよ。受け取る側だけの権利かもね」


「まぁ一応キャンセルしといてくれ」


「しょうがないな」


 その後普通の送金も試してみたが、特に言及するようなことはなかった。

 強いていうなら受けて側に認証がなく、一方的に送金ができる点くらいだ。


「残りは支払いだけど、タッチ決済なんだな」


「今どきって感じ。便利でいいね」


「ポイント管理はこんなもんだろう。次はメッセージアプリか」


『メッセージアプリ』

 ほぼLI◯E 。

 通話も可能。

 学校中の生徒や教師の連絡先がすでに登録されている。

 ブロック機能も搭載されている。


「これは特に話すことないよね?」


「そうだな。ほとんどL◯NEだし」


「じゃあ最後に『学園専用アプリ』だね」


『学園専用アプリ』

 特別テストの際に利用されるアプリ。

 テスト内容によってそのシステムは変化する。


「あれ? このアプリ開かないな」


「特別テストのときに必要って言ってたから、それ以外のときは使えないのかな?」


「多分そうだろうな」


 アプリを開けるくらいは出来ても良さそうなんだがな。


「これで全部のアプリは確認できたね。協力してくれてありがとう」


「こちらこそ感謝するよ、おかげで色々わかったしな。そういやランキングで上位5人を確認してなかった」


「私は見たけど、すごい人たちだったよ」


 ランキングを確認すると、さすがというべきか全員既知の名前であった。


 1位 徳川 葵とくがわ あおい

 2位 総角 公心あげまき こうしん

 3位 東屋 十果あずまや とおか

 4位 早蕨 わらびさわらび わらび


「そうそうたるメンツだな」


「こんな人達相手に卒業できるかな……」


「ならさ、俺と協力しないか?」


「協力?」


「テストの内容にもよるだろうけど、基本的に俺たちは協力関係をもつ。少なくとも初めのうちは有利にはたらくと思うぜ」


「そうだね。なら同盟を結成しようよ」


「いいね。名前は何にする?」


「築山と蓬莱だから……頭文字の『つ』と『ほ』を取って『つーほー同盟』はどうかな?」


「俺を警察に突き出すつもりか?」


 ネーミングセンスの欠片もない。


 名前は特に決まらないまま解散となった。

 俺は自室に帰り、メッセージアプリを使って葵に連絡する。


『ランキング1位おめでとう!』


 一晩が経ち、既読がつかないまま俺は登校する。

 そして初めての特別テストを迎える。

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