落伍者の烙印 ~卒業率20%以下の学園でランキング最下位から成り上がる~

山本なでしこ

第1話 俺と結婚してくれ!

「俺と結婚してくれ!」




 それは俺が中学2年生のときである。


 若干14歳、『築山行幸つきやまみゆき』は幼馴染の『徳川葵とくがわあおい』に一世一代のプロポーズをしていた。




「バカなの? 行幸のことは嫌いではないけれど...…さすがに周りが認めてくれないわ」




 葵は徳川グループという日本最大級のグループ企業、その一人娘である社長令嬢である。


 ヨーロッパ系のクォーターでもあるらしくとてつもなく美人なうえ、頭脳明晰、運動神経抜群、あらゆる分野に精通している天才だ。


 神が丹精込めて作った人間である。




 かたや俺は一般家庭生まれ、秋田県と滋賀県のハーフ。


 能力やルックスは悪いところがないが、特に秀でているものはない。


 神がよそ見しながら片手間で作った人間である。




 俺も自己評価ではそこそこ高物件ではあるが、徳川グループの一人娘と交際できる程のスペックは持たない。




「行幸のことは小さい頃から知っているし、私としては結婚も悪くないと思ってるわ。けれど、行幸には周りを納得させるだけの〝箔〟がないのよ」




 箔か……。


 特に秀でた才能もない一般人の俺が、葵と結婚できる程の箔をつける方法なんて限られている。


 その中でも一番現実的な方法は、あの学園を卒業することだろう。




「なら俺が『吹雪学園ふぶきがくえん』を卒業できたら考えてくれるか?」




「正気?あそこは行幸が行くような所じゃないわ。ましてや卒業なんて無理よ」




吹雪学園ふぶきがくえん


 日本の将来を担う人材が通う学園。


 入学条件に入試は存在せず、学園からの推薦、各中学校からの推薦、要人や著名人からの推薦のどれかが必要とされる。


 推薦された計100人が入学となるが、特殊な試験によって進級が決められており、毎年約半数に退学処分がくだる。


 例年、卒業できる者は20人を下回る。




「仮に卒業できたなら考えても構わないけれど、そもそもどうやって入学する気? 中学校からの推薦なんて、他の推薦からしたらただの人数合わせ。当てにならないわよ」




「そこは葵のコネでなんとかしてくれ!」




「すぐ人に頼ると成長しないわよ」




「じゃあ、俺がグーからはじまるアレで勝ったらいいか?」




「殴り合いかしら。受けて立つわ」




「じゃんけんだよ、カルシウム不足か?」




「仕方ないわね。最初はグー、じゃんけんぽん」




 葵の手はパー。


 俺はグーを出している。




「もう1回だ! いや、5回勝負? ……やっぱり9回勝負だ!」




「はぁ……もういいわ。どうせ私も行く気だから、私のついでに父に頼んでみる」




「葵も吹雪学園に行くのか?」




「ええ。グループの地位を確固たるものにするためにも、あの学園での卒業は役に立つもの。首席ならばなおさらね」




 吹雪学園は入学するだけで将来が約束されていると言われている。


 俺みたいな一般人ですら、大学受験や就活では落ちることはまずない。


 そのうえ進級する度にその価値は加速度的に上昇し、卒業ともなればエリートコースが確約される。


 噂では銀行で十億単位の融資なんかも受けれるらしい。




 その中でも首席での卒業ともなれば、その価値は日本国内に留まらず海外でもその名を馳せることとなる。




 また入学者・進級者・卒業者は学園のホームページで確認できるため、毎年4月のニュースは学園の話題で持ち切りになる。


 また進級ダービーという名前の公営ギャンブルがある。


 どの生徒が進級・卒業するかを予想するものであり、最近では宝くじよりも人気がある。




「葵には悪いが首席は俺が貰う!」




「寝言は寝てから言いなさい。行幸はとりあえず進級が目標ね」




「進級くらいは何とかなるんじゃないか? 2分の1だし」




「ライバルは日本中から集められた優秀な100人よ? その中で半数に残るなんて並大抵のことじゃないわ」




 葵の言う通りだ。


 俺は一般人、同期は様々な分野のエキスパート。


 まともにぶつかって勝てる相手ではない。




「私はあなたの入学の手助けはするけれど、進級に関して助力するつもりはないわよ」




「当たり前だ、葵の力を借りて卒業しても何の意味もないだろ」




「言う事だけは一丁前ね。でもあなたの行動力と思考力は人一倍、あの学園には合っている気がするわ。案外いいところまで行くのかもね」




「いいところじゃ困る。俺は葵のためにも卒業しなきゃダメなんだ」




「私のためにもは余計よ」






 それから1年と少し経ったこの日、俺は吹雪学園へと足を踏み入れた。

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