転生してない最強賢者〜生まれ持ったスキルがなくても魔法で何とか成り上がります〜

六山葵

プロローグ

第1話


「私は転生者だ。こことは違う別の世界の記憶を持っている」


数百年も昔、当時人々を恐怖の底に陥れていた魔王を封印した英雄アーサーはそんな言葉を世に残している。


「転生者」とは他の世界から記憶をそのままに生まれ変わった存在であり、アーサーのその言葉はこの世界の人々に大きな影響を与えた。


彼は後に国を作り、そこに「ジャーパン」という名前をつけた。


アーサーの発言を皮切りに多くの人々が「自分も転生者だ」と明かし始めた。


彼らはアーサーの建国したジャーパンに集う。


それ以来、新たな転生者がこの世界に生まれ続けている。


そう、転生者は一人ではなかったのだ。


彼らは前世ともいえる別世界の知識を元に、この世界に大きな変革をもたらした。


発酵や醸造。焼くだけではなく煮込む、揚げるなどの調理方法の革新。


魔法を使った道具、魔法具の発明。


文化や宗教の流入が留まるところを知らず、ジャーパンはあっという間に世界でも最先端の国となった。


転生者たちがもたらしたものの最たる例の一つ。

彼らは新たな職業を生み出した。


それまで人間は魔物に対して怯え、逃げるしかできなかったが彼らは立ち向かうことができたのだ。


「スキル」と呼ばれる特別な才能を彼らは生まれながらにして持っていた。


そのスキルは戦闘に特化したものばかりではなかったが、彼らはまるで「魔物と戦うのが使命」とでも言わんばかりに立ち向かったのである。


そんな「魔物と戦うこと」を目的とした職業、「冒険者」を彼らは作った。


魔物を対峙し、人々の役に立ってくれる冒険者はこの世界の人達にもすぐに受け入れられ、その存在は現代まで続く。


およそ数百年後の現代。

転生者の生まれ変わりは今も尚続き、むしろその頻度を増しているようにも思える。


大きな町に行けばその大半が冒険者。

その冒険者のほとんどが転生者である。


世は「転生者飽和社会」と言えるだろう。

なにせ、「石を投げれば転生者にあたる」とまで言われるくらいだ。



そんな中、僕、イトム・トルトフェアリはただの村人としてこの世界に生まれ落ちた。


前世の記憶など持ち合わせず、物心着くまで「転生者」の存在など知らずに過ごした。


家名こそ仰々しいが、先祖がたまたま偉業を成し遂げたというだけで僕自身は本当に何の変哲もない村人なのだ。


そんな僕にも夢があった。

「冒険者になりたい」


という人に言えば笑われてしまいそうな夢である。


冒険者は転生者が作った職業。

魔物と戦わなければならないために、十分な戦闘の技術が必要とされる。


まさに転生者向けの職業、というわけだ。


とはいえ、転生者以外がなれない職業ではない。

実際に普通の人でも冒険者になる者はいる。


しかし、そういった人たちにも幼い頃から修練を積んで作り上げた屈強な肉体とか、生まれ持ったセンスというものが必ずある。


ただの村人に務まるような仕事ではない。


それがわかっていても、僕は「冒険者」になることを諦めきれない。


子供の頃からの憧れだからだ。


幼い頃、僕は一人で村を抜け出して森に入ったことがある。

なぜそうしたのか今では理由も思い出せないが、とにかく僕は一人で森に入り案の定魔物に襲われた。


「ゴブリン」と呼ばれる小さい角を生やした小柄な魔物だ。それがたった一体。


冒険者からすればゴブリンは大した脅威ではない。

慣れている人ならば短剣一本で倒すことができるほど弱い魔物らしい。


けれど、ただの村人でましてや五歳かそこらだった僕には違う。


初めて目にする魔物。

ゴブリンが吐き出す息の臭いとその殺意に満ちた目だけは今でも覚えている。


恐怖のあまり僕は腰を抜かし、その場を動けなくなった。


にじりよってくるゴブリンを前に僕は子供ながらに「死」を覚悟したのだ。


しかし、そうはならなかった。

突然吹き荒れた強い風が森の中の木の葉を巻き上げた。


木の葉はまるで意思を持っているかのように旋回して、そのままゴブリンを襲う。


ゴブリンの身体を無数の木の葉が切り付けていた。


やがて、ゴブリンはその場に力無く倒れる。


子供の僕にとって魔物とは言え、一つの生命が終わるの目の当たりにするのは衝撃が強かっただろう。


でも、それよりも僕は宙を舞う無数の木の葉の方に気を取られていた。


それは僕が初めて目にする「魔法」だったのだ。

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