魔法使いは今日も仲間とひきこもる

語 おと

日常 

Page1.起きた時から始まる









ー…!!ー!………!!…!………、…。!





ー…!!………!!…!…………。!!!!……・・_!!



 ああ…うるさい。

 周りから大量の雑音が聞こえる。聞こえないふりをしても。耳が自分から集めているようにはっきり聞こえてくる。

 

 この雑音は全部俺に向けてぶつけられているもの。ぶつけられていると言っても、俺が何か悪いことをやって責められているわけではない。ただ、怯えられているだけだ。怖がられているだけである。


 国の危機を救ったというのにこの扱いはなんだと思った。行った場所全てで怯えられ、石を投げられ、追い出される。

 お前は出て行け!…そう言われた。入ってくるな!とも言われた。


 いくら怖いからってそれはないだろう。そう思った。


 俺は堂々と外を歩けなくなった。そこにいるだけで怖がられて逃げられて、拒絶されるから。

 姿を出して、誰かを助けても、感謝なんてされることはない。恐れられて、助けた人の仲間が俺に「近づくな」と言う。



 人族はみんなこんななのだろうか。ある時、そう疑問に思った。

 確かに昔から見てきて、人族はあまり変わっていない。自分たちと違うことを恐れ、避けて、拒絶する。もし、一人だけ圧倒的に強い魔法使いがいたとしたら、全員で力を合わせてその魔法使いを追い出そうとする。そんな種族なのだろうか。


 それは、前世の種族とはあまりにもかけ離れていて、俺は混乱した。前世の同じ種族のものたちは、一人だけ他と違っても変わらずいつも通り接していてくれたからだ。

 俺はそれと同じように受け入れてくれることを求めた。いつも通りに戻ってくれればそれでよかったから。


 だが、簡単には変わらない。一度拒絶してからでは、受け入れてくれるものはほとんどいなかった。

 叫ばれたりすることは無くなったものの、常に大量に浴びせられる視線、ボソボソと聞こえる自分の噂話。その場所は居心地が悪くて、少しずつ外に出ていくことが減っていった。それでもいつかは、時間をおけば、前のいつも通りに戻ってくれると信じていた。




 その日、突然プツンと何かが切れた。なんで元通り前みたいに戻ってくれると思っていたのかわからなくなった。昔の自分は何を考えていたんだと思うようになった。

 

 なんでこんな人々を助けたんだろう。そう思った。思ってしまった。


 元に戻ってくれるわけがない。

 今日もお前たちは避け続けて、関わろうとしても逃げていく。この世界の居心地は悪いまま。


 じゃあ自分の居心地のいい世界を作ろう。そう考えた俺は、すぐにその準備を始めた。

 それについてきてくれるものもいた。俺はついてきてくれたものと一緒にその世界にひきこもった。


 俺はこの人生でたった12年生きたあと、ひきこもりとなった。


 













 ◆◆◆◆



「…久しぶりに夢を見たな。」


 眠りから覚めたあとポツリと呟く。

 最近記憶にはっきり残る夢なんて見ていなかった。見たとしてもすぐに忘れてしまっていたから。

 

 全部が嫌になった昔の夢。忘れたくても忘れられない昔の夢。

 最悪すぎる。朝からこんな気分が悪くなるなんて。


「おおセラ、夢を見たのか。どんな夢を見たんじゃ?」


 隣から透き通った声が聞こえてきた。


 もしやと思ってゴロリと体を横に転がして見てみると、隣にレイファが寝転がっていた。

 もちろん服は着ている。大丈夫だ。前は何も着ていなくて大変なことになった。その事件があってから、ちゃんと服を着るようになった。


 彼女はとんでもないくらいの美女だ。スタイル抜群で、通りかかる人ほとんど全員が振り返って二度見するほどだろう。

 緑色の髪に、ルビーのようなピンク色の目。頭から生えている金色の角、後ろで動いているのがチラチラと見える緑色のしっぽまで、全てが美しいのである。


「ねぇレイファ…夢の内容は最悪だったけど、その前にさ…なんで俺のベットにいるの?」


「それは前世で恋仲だったんだから当然のことじゃ。」


「ええ…胸を張って言われても…。」


 わからなかった。

 とりあえず勝手に入り込んできている理由を聞いてみると、レイファは答えた。だけど、当然ってなんなのだろうか。当たり前のように言われても困る。

 前世ではこんなことが毎日のように起きていたのだろうか。

 記憶があると言っても全てをすぐに思い出せるわけではない。きっと覚えていない…思い出そうと思えばできると思うけど、という記憶の中にそんな出来事もあったのだろう。

 だけど……


「いや前世ではそうだけど、今世ではまだ違うよ。びっくりするからちょっと…やめて。びっくりするしそれに…恥ずかしいから…。」


「そう言われても約束できん。こっそり入り込んで驚かせたいとか思う時もあるじゃろう。」


「俺、寝てると全然起きないから気づかないんだけど。驚きようないんだけど。」


「確かにそうじゃな。顔に落書きしても起きなかったしの。」


「えっ!?あれレイファなの?植物の汁を使って描いてたからレイファが素材を用意して子供たちが描いたと思ったんだけど…あの魚のやつ。」


 落書き。朝起きた時なんか臭いなと思ったら顔に模様を描かれていたんだ。草の汁を使ってたせいで匂いがとれにくくてとれにくくて落とすのが大変だった。

 それ以来そんなことなかったし子供達のいたずらかな?って思ってたからほっといてたけどまさかレイファだったなんて。


「あれは植物じゃ。魚ではない。」


 植物だったらしい。

 この鰹節のような形はどう見ても魚。

 丸いフリルみたいな模様が入ってるくせに。

 橙色で植物には見えないのに。



 横になっていたレイファがぬっと起き上がり、正座で座る。

 ベットの上で正座って大変じゃないかなと思う。柔らかいところでその姿勢はやりずらいはずだから。


「どうじゃ?わしの膝枕で二度寝するか?わしも付き合うぞ。」


 レイファが俺を太腿の上に誘う。

 二度寝を提案された。その提案はものすごく魅力的だ。

 俺だって少し眠いし、部屋の中だから誰も見ていないし。

 二度寝はしたい。今すぐやりたい。まだ眠いんだ。


「う〜ん…そうだね。俺もまだ眠いしもう一回寝ようかな?」


 誘いに乗って掛け布団で自分の体を包んで横に倒そうとしたら、脇の下をガシッと掴まれた。

 そのまま上に持ち上げられて、ストンとベットに座らされる。



「マスターいけません。今日はすでに起きる時間を過ぎています。これ以上寝たら生活リズムがおかしくなってしまいます。そろそろ起きてもらわないと。」


 レイファと二度寝をしようとしたところを止めてきたのが、セトラだ。彼女はこの家のメイドである。メイドと言ってもセトラがそう言っているだけだ。俺が雇ったわけではない。



 セトラは長く伸ばした黒髪を三つ編みにしてまとめている。付け根には髪と同じ色の大きなリボンを結んでいる。目は、夜空のように深い紺色である。

 人のことなんて言えないけど、セトラが長く伸ばしている黒髪を切ったらと言ったことがあった。いつも家事をやっている時に邪魔そうだと思ったからだ。

 だが、『マスターが髪を切ったら私も切ります。』と言われた。理由は今もわからない。




 セトラ掛け布団をばさっと持ち上げ、引っ張る。彼女の力の方が俺の力より強いせいで掛け布団はあっという間に取られてしまった。


「ああ!布団が…。」


 掛け布団を取られてしまった。寒い…訳ではないが、ないとベットの上の色が白だけになってしまう。すごく寂しい。

 次からは取られないように常に持っているようにしよう。俺が自ら起き出すまで。


 セトラの視線がレイファの方に向いたところを狙って取られた布団を取り返そうとするが、届かない。俺の腕の長さを理解しているんじゃって思うくらいギリギリ届かない位置で掛け布団を持っている。

 自分で歩いて移動して、セトラに返して貰えばいいのだが、一度起きてしまえばもう絶対に二度寝はできない。セトラは一度起きた俺を絶対に二度寝させないから。


 よし、あと少しで届く…あぁ!


 後少しだからと踏ん張ったら、前に上半身を乗り出しすぎてベットから落ちた。


「布団を返してほしかったら動いてください。」

 

 あと少しで届くと思ったら、ヒョイッと掛け布団を畳んでしまった。そして、手を動かないと確実に届かない場所に移動させた。



 セトラの悪魔ぁ…。


「なんじゃセトラ。お主…わしらの二度寝を止めるのか?」


 レイファが二度寝に賛成してくれている。

 もっと言って。頑張って!


「ええ止めますよレイファ様。マスターはそろそろ起きないと夜に眠れなくなってしまうのです。二度寝に誘うならもっと早い時間にしていただかないと困ります。」


「むう…。じゃが、わしはそうやって二度寝に誘って一緒に寝るためにセラのベットに潜り込んでいる。ずっと待っているんじゃ。すっ少しくらい過ぎてもいいではないか。セトラは厳しすぎるんじゃ!」


「それでもいけません。あなたは龍なので体調に気を遣うことがないかもしれませんがマスターの体は人間です。種族の違いをもう少し考えてください。」


「ぐ…ぬぬぬぬぬぬぬ。」


 レイファはそうやってごねるが、すぐに言い返されてしまう。

 言い返されて仕舞えば何も言えなくなってしまう。セトラは強かった。いつか彼女に勝てる日が来るのだろうか。


「悔しそうですねレイファ様。体から茶色がかった赤い花が生えてきていますよ。わかりやすいですね。」


 レイファの腕から、茶色がかった赤い花が生えてきている。これは感情の花で、思ったことがそのまま花になって表に出てきているものだ。

 思いがそのまま表に出てくるので、レイファの思っていることや感じていること、考えていることはものすごくわかりやすい。


「レイファはいつも通りだね。相変わらず無意識に体から植物が生えてくるのはやめられてない。

 無意識に生やしたりするのは別にいいけど、毒がある植物を生やしたりするのはダメだよ。

 これ絶対毒あるよね。形がドクロだよ。なんか触手みたいなのがうねうねしてるよ。どう見ても危険だよね。」


 レイファから生えてきていたのは、赤紫色で細くて細かい花弁にそれと全く似合わない軟体動物のような触手、中心にある白い花は骸骨のように見える。そんな植物だ。触手は少しぬめりがあり、正直気持ち悪い。


「おおっとすまんの。急いで摘み取るから許してくれ。」


 慌てて腕に生えた花を摘み取る。そして、セトラが持っていたガラス瓶に入れる。


 なんでガラス瓶をポケットに入れてるんだろうって思うけど、聞くタイミングを逃してしまった。いつか聞いてみたい。


「ほれ、受け取れ。自由に使っていいぞ。わしを吸って生えてきた花じゃ。」


 投げて渡されたガラス瓶を受け取る。

 落としそうになったが落としてないので大丈夫だ。

 万が一落として中身が出てしまってもレイファがきっとなんとかしてくれる。


「レイファを吸って生えてきた花…。その言い方はなんか嫌だな。

 で、この植物はどんな植物なの?世界で一番植物のことを知っているレイファならわかるよね。」


「もちろん知っているぞ。これはピエポジン。あの失われた毒薬ラストポジンの材料になる花じゃ。

 毒薬ラストポジンはワイバーンすら殺すと言われておる。」


 やばいやつだった。


「えぇ…やばいやつじゃん。なんでそんな危険なものを生やしたの…。」


「無意識じゃ。生えてくる植物は色以外完全にランダムだからの。」


「どうにかしてコントロールすることは?」

「無理じゃ!」


 レイファはドヤ顔でそう言った。


「断言しないでよ。」


 ピエポジン…。毒薬ラストポジンの材料になる…。

 ラストポジンは見たことあったけど、その材料のピエポジンは見たことがなかった。せっかく実物が俺の手にあるから後で研究しないと。

 それに…これを使えば嫌いなものを消せるかな。人とか人とか人とか…。あとは人とか…。


「レイファ。聞きたいことがあるんだ。俺、人が嫌いなんだけど、嫌いな生き物はこれで殺せるかな?」


「できるがやるな。流石にダメじゃ。殺そうとするならラストポジンの作り方は教えんぞ?」


「むぅ。嫌いな生き物は殺したいけど新しいことは知りたい。長く生きてる俺でも知らなかったことなんだ。

 殺そうとしないから教えて。」


「それは前世でのことじゃろう?今世ではまだ15歳になったばかりじゃ。

 まあ、殺さないなら教えてやろう。」


「本当!やった。」

「その前に朝食の時間ですマスター。レイファ様。」


 レイファと俺の長引きそうだった会話をセトラが止める。


「なんで止めるのさセトラ。これからがいいところだったんだ。教えてもらったあと早速作ってみようと思ったのに。」


「ミズ様とヒナ様にノノポール様が待ってます。一緒に朝食を食べるんだと言っていました。今日は三人も一緒に手伝ってくれたのですがそれでも毒薬ラストポジンの作り方の話をしますか?」


「セトラ!今すぐ起きて食堂に行こう。レイファもその話は後にして早く行こう。」


 勢いよくベットから飛び降りる。二度寝なんて後回しだ。明日でもできる。

 ピエポジンが入ったガラス瓶を素早く机の上に置く。しまってもいいけどそんな暇はないし。

 

 扉を壊して急いで外に出ようと思ったけど、すでに開いていた。きっとセトラが開けといてくれたのだろう。

 ありがとうって心の中で言っておかないと。


 ミズとヒナが朝食を手伝ってくれたんだ。うちの可愛い双子と可愛い子龍が待ってる。急いで行かなければ。


「セラ!話の途中じゃぞ。なんで無視していくんじゃ!」


 すでに部屋を出て階段の方まで走っていった俺をレイファが続いて追いかける。


「マスターはやはりレイファ様よりミズ様ヒナ様ノノポール様を優先しますね。」


 最後に部屋を整えてから出てきたセトラは、開けっぱなしになっていた扉を閉めた。






あとがき

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